見出し画像

“君の生きづらさ”について話そう 〜隠れアスペルガーという才能について〜

 今生きづらいと感じている「隠れアスペルガー」の人に対して、発達障害カウンセラーの吉濱ツトム氏は「隠れアスペを含むアスペルガーの症状は、マイナス面ばかりでなく、むしろプラス面が際立っている」と語ります。
 原因がアスペだとわかっていれば、自分を責めなくても済み、心が軽くなことを吉濱氏は、著書『隠れアスペルガーという才能』に記しています。
 今回は、その著書から“第3章『君の生きづらさは、「隠れアスペ」のせいだった!』を公開します。

【新刊にも注目】

第4章 君の「隠れアスペ」は、必ず克服できる!

君の「生きづらさ」の正体を知ろう

 ここまでは、「隠れアスペ」という新しい概念と、アスペルガーの知られざる才能についてお話ししてきました。「自分の生きづらさの原因が隠れアスペにあるということ」「隠れアスペを含むアスペルガーの症状は、マイナス面ばかりでなく、むしろプラス面が際立っているということ」これらをしっかり認識することは、生きづらい人生の問題点を改善するための必須条件です。
 隠れアスペの人は、幼い頃から生きることを苦しいと感じています。わけのわからない劣等感、傷つきやすさ、不安感、情緒不安定……こういったマイナスの症状に常にさいなまれ、一人思い悩んでいるのが隠れアスペルガー人です。
「あのとき、失礼なことを言ってしまったんじゃないか」と3日も悩んだ末、電話をして謝ると、相手は何も覚えていない。「私のことを見て笑っていたけれど、なんだろう?」と気になって夜も眠れなかったのに、あとで聞いたら、相手はただ談笑していただけで、自分がいたことに気づいてもいなかった。こんなことが、隠れアスペの人にはよくあります。
 ごくまれに、「特に生きづらさを感じない」という人もいますが、おそらくそれは自分では気づいていないだけ。内面では、知らないうちにストレスが蓄積しているものです。アスペルガー人は、突然泣き出したり、キレたりしてしまうことがありますが、これはたまったストレスが爆発したことによるものでしょう。
 自分の劣等感や不安感が成育歴の問題からくるものなのかと昔を振り返ってみても、どうも結びつかない。周囲に相談してみても、「誰でもそんなものだよ」と受け流される。原因がわからないため解決の糸口がつかめず、そのことがさらなるストレスになっていきます。
 また、アスペルガー人は代謝障害を抱えているため、体が弱いものです。常に体調不良に見舞われています。しかし、原因がはっきりわからないので、周囲から「怠け病」だと責められることも。
 こんな調子なので、いくら優秀な成績を上げても、社会的に名声を得ても、「自分なんて生きている価値がない」「どうせ失敗するだろう」という自信のなさを払拭することができません。いや、多くのアスペルガー人は、自信のなさが邪魔をして、優秀な成績を上げることすらできません。その能力が十分にあるにもかかわらず、です。
 そこで、自分の生きづらさがいったい何に起因しているのか、認識することが大切なのです。知っておきさえすれば、不安感に襲われたとしても、落ち込んでしまっても、「これはアスペの症状なんだ」と自分を納得させることができます。それだけでも、だいぶ気持ちが落ち着くものです。また、原因がアスペだとわかっていれば、自分を責めなくても済み、心が軽くなります。ここからは、そんなアスペルガーの生きづらさの正体を探っていきましょう。

君の劣等感が強すぎる理由1

糖質の摂りすぎでセロトニン不足に

 これまでも何度か触れてきましたが、アスペルガーの最大の特徴は、強い劣等感にあります。アスペルガー人は脳の構造上、セロトニンシステムが機能不全を起こしており、情緒の安定を司る神経伝達物質であるセロトニンの産出や受容量が少なくなっています。このことが、情緒不安定や抑うつ症状、劣等感につながっています。
 アスペには脳の機能障害という先天的な要因に加えて、生活習慣によって劣等感を助長されやすいという特徴もあります。アスペルガー人は糖代謝異常を起こしやすく、血糖値が乱高下しやすいという体質をもっています。血糖値が乱高下すると、ただでさえ機能の弱かったセロトニンシステムがついには破たんし、深刻なセロトニン不足に陥ります。これにより、さらに大きな劣等感に苦しめられるのです。アスペルガー人は糖質を摂りすぎる傾向にあり、これによって、劣等感のみならず、さまざまなアスペの症状を悪化させてしまいます。
 特に小麦粉の多量摂取は、アスペにとって非常に悪い影響をおよぼします。小麦粉を食べると、腸内でカンジダ菌やクロストリジウム・ディフィシルといった悪玉菌が大増殖します。すると、腸内でつくられるセロトニンが大幅に減少してしまうのです。
 まさかパンを食べることが劣等感につながっているとは、誰も思いませんよね。そこでみんな、カウンセリングを受けたり自己啓発本を読んだり、と的外れな行動をしてしまいます。しかし、どれほど「心のケア」をしても、パンを食べるのを止めなければ、アスペルガー人の劣等感が軽くなることはないわけです。ちなみに、小麦粉には他にも体への悪影響がありますが、それについては次章で詳述します。
 他にも、ビタミンB群の欠乏、運動不足、生活リズムの乱れなどがセロトニン不足や前頭葉の血流不足を引き起こし、ひいては劣等感を強めています。
 劣等感や不安感というと、心の問題だと思われがちですが、実は肉体の生理的作用に起因するところが非常に大きいのです。ですから、自分の心に原因を求めるのではなく、まずは食生活を見直すことが先決です。

君の劣等感が強すぎる理由2

できないことが多い子ども時代

 アスペルガー人がひどい劣等感にさいなまれる要因として、18歳頃までの成育歴も認められます。彼らは生まれつきの障害によって、子どもの頃から「できないこと」が多く、それが劣等感を増幅させてきたのです。
 アスペのマイナスの症状が出ているときは、周りの子と同じような生活動作ができなかったり、試験の成績が悪かったり、冗談がわからなかったり、といろいろな面でつまずきます。周りの子たちが当たり前にできることを、自分はどうしてもできない。なぜできないんだろう? 恥ずかしい……こんな感情を日々抱えながら成長していけば、劣等感が大きくなるのも無理はありません。特にアスペルガー人は、否定的な記憶や感情をなかなか忘れることができず、しかも何倍にも増幅された記憶として残してしまうのです。結果として、18歳ぐらいの青年期までには、ちょっとやそっとでは崩れない強固な「劣等感の壁」を築きあげてしまうのです。アスペルガー人は、体質的に劣等感をもちやすい上に、成長過程においても劣等感が育ちやすいというわけです。
 劣等感を弱めるためには、資格をとったり技能を身につけたりするのが効果的だと言われます。定型発達の人なら、そういう表面的な「条件づけ」によって自己肯定感を上げることができるのです。
 しかしアスペルガー人は、資格をとっても、出世をしても、「どうせ私なんて……」と劣等感を拭いきれません。そこで、「もっと多くの資格をとろう」「もっと地位を上げよう」と「条件付け」をエスカレートさせていきます。が、表面的なスペックがどれほど上がっても、自己肯定感を得られることはありません。
 この強すぎる劣等感は、アスペの人生のさまざまな局面に影を落とします。だから、彼らが「無条件」に自己肯定感をもつための根本的な改善法が必要なのです。

君が情緒不安定な理由

 先に述べたように、アスペルガー人は総じてセロトニンシステムの機能が弱っていて、慢性的なセロトニン不足に陥っています。
 セロトニンは、モノアミン系という脳内神経伝達物質の一種で、モノアミン系には他にドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、ヒスタミンなどがあります。セロトニンとドーパミン、ノルアドレナリンの3つは特に重要で、「3大神経伝達物質」と呼ばれています。
 ドーパミンは快感を生みだす物質で、好きなことをしたときや褒められたときなどに放出されます。人は一度ドーパミンによる快感を覚えると、また快楽がほしいと思って、同じことを繰り返します。これが「やる気になる」という状態です。ただし、ドーパミンが過剰に分泌されると、快感中毒になって、なんらかの依存症に陥る危険があります。
 ノルアドレナリンは、心身を緊張・興奮状態にする物質で、やる気や集中力を高める効果があります。しかし、過剰になると神経がたかぶり、イライラしたり攻撃的になったりします。
 ドーパミンとノルアドレナリン、2つの物質の暴走を抑えるのがセロトニンです。セロトニンが不足すると、ドーパミンとノルアドレナリンの暴走が抑えられなくなり、やる気が出なかったりキレやすくなったり、ストレス、不眠、過食や拒食に襲われたりします。つまりセロトニンは、心の安定を保つために必要な物質だというわけです。そのセロトニンが不足することから、アスペは情緒不安定や抑うつ状態になりやすく、ときにはうつ病に発展することもあるのです。
 また、アスペルガー人は脳の前側にある前頭葉という部分の血流が悪く、これも心の安定を妨げる要因となっています。前頭葉に血流不全があると、大脳辺縁系にある扁桃核が暴走し、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは血糖値や血圧、睡眠リズムを正常に保つための重要なホルモンですが、これが過剰になると血糖値をコントロールできなくなり、やたらと早く目覚めてしまいます。睡眠サイクルの異常は心身に大きな負担をかけ、ますますコルチゾールが大量に分泌されるようになります。
 アスペルガー人は、扁桃核の暴走が常に起こっていて、コルチゾールが過剰な状態にあると考えられます。そのため感情の起伏が激しく、何もやる気の起きないうつ状態に陥りやすい。アスペの情緒不安定は、こうして生み出されるのです。

君が人づきあいを避ける理由

「アスペルガーは人に興味がない」と本に書かれていることがありますが、別にそんなことはありません。コミュニケーションが苦手なので、人づきあいを避ける傾向にはありますが、人を求めていないというわけではないのです。むしろとても寂しがり屋で、人とつながりたいという気持ちを強くもっています。
 なかには、根っから人に興味がないアスペルガー人もいます。仮説の域を出ませんが、それは、ミラーニューロンやオキシトシンといった愛情に関するホルモンが遺伝的に不足しているためだと考えられます。しかし、こういうアスペはごくまれで、ほとんどは人を求めています。
 ただ、あまりにも人に対して恐怖心が強いため、その気持ちを封印しています。彼らは、自分のことを価値のない人間だと思っているので、人からも「ダメなヤツだと思われるんじゃないか」といつもビクビクしているのです。
 いざ人と向き合っても、会話の仕方がわからないし、距離の詰め方がわかりません。話そうとしてもうまく話すことができず、ちょっと会話するだけでも疲れてしまう。相手の反応をネガティブに受け取って傷ついてしまう。その結果、本当はもっと近づきたいのに、傷つくことが怖くて人との距離を置くようになってしまうのです。
 また、興味の範囲が非常に狭いので、結果として人とつきあう機会が少なくなっているというところもあります。僕自身も、本来は人に対する関心が強いのですが、仕事以外での人づきあいはほとんどありません。今は自分の仕事とそれに関する勉強に興味が集中していて、他のことに気持ちが向かないのです。「どアスペ」を克服して知り合いの輪が広がったものの、プライベートでつきあうのは、今もごく少数の人だけです。
 アスペルガー人はワーカホリックになりやすいと前章で述べましたが、「学ばなければ」「仕事をしなければ」という焦燥感にかられている人が多いのです。

君が傷つきやすい理由

「傷つきやすい」というのもアスペルガー人の大きな特徴です。たとえば、飲み屋で仲の良い友達に「おまえ、アホだな〜」と言われても、普通はなんとも思いませんよね。しかし、アスペルガー人は「アホってなんだよ!」と本気で怒り出したりします。彼らは極めて繊細で、心が折れやすく、その心を守ることに必死で、ちょっとした冗談も通じません。怒ることで、なんとか心の傷を防御しようとするのです。
 アスペルガーの脳の構造上、傷ついたときの記憶というのは、フラッシュバックのようになんの脈絡もない状況で何度もよみがえります。その記憶は勝手に増幅していき、時間とともに記憶が薄れるということは、ほとんどありません。
 定型発達の人でも、傷ついた経験がトラウマになることはあります。しかし、アスペの場合は、傷ついた経験が何倍にも増幅されて記憶に残るのです。仮に傷ついた度合いが「レベル3」だったとしても、記憶の中ではいつのまにか7や8にレベルアップしていて、「大火傷をした」記憶になってしまうのです。
 こうなると、もう怖くて同じ場所、同じ人、同じシチュエーションには近づけません。アスペルガー人は、たった一度傷ついただけでも挫折してしまうことがあるのです。

君がイヤな思い出を忘れられない理由

「記憶がフラッシュバックのように何度もよみがえる」と言いましたが、それはアスペルガー人の脳の機能上、前頭葉と扁桃核、海馬の抑制が利かないからです。また、視覚情報を写真のように記憶できる能力も関係していると考えられます。
 フラッシュバックというのは、何年も、何十年も前の出来事が、突然、何の脈絡もなくバッと眼の前に浮かんでくることです。それが、アスペの場合は悪い記憶、特に精神的苦痛を伴う記憶に限って何度も起こります。
「昔、あんなイヤなことがあったよな」と思い出すレベルではなく、今この瞬間に、目の前で起きているような臨場感をもっています。フラッシュバックが起こると、当時の感情と感覚がものすごくリアルによみがえってきて、あまりの恐怖にしばらくガタガタと震えが止まらなかったり、脂汗が出て具合が悪くなったりすることもあります。フラッシュバックというのはそれほど苦痛を伴うもので、そのせいで悪い記憶が再び強烈に刻み込まれるのです。
 そもそもアスペルガー人には、良い記憶はどんどん失われ、悪い記憶ばかりが残っていくという脳の機能上の特性があります。僕には、小中学校時代の楽しい思い出は一つもありません。楽しいことがまったくないはずはないのですが、悪い記憶しか思い出せないのです。
 定型発達の場合は、逆に良い記憶のほうが残りやすい傾向にあります。悪い記憶は時間とともに失われていき、良い記憶だけが残るように脳内で処理されるからです。これを心理学用語で「選択的記憶の淘汰」と呼び、精神衛生を保つのに役立っています。
「学校行くのイヤだな〜」といつも言っていたはずの生徒たちが、卒業式になると泣いてしまうのは、この選択的記憶の淘汰によって良い思い出ばかりが残されたからです。恋愛でも、泣かされっぱなしだったのに、数年たつと「良い思い出をありがとう」なんて気持ちになったりしますよね。
 アスペルガー人は、残念ながらそうはいきません。「逆選択的記憶の淘汰」によって、つらい記憶ばかりが何度も思い出され、恐怖や不安、恥ずかしさといった負の感情に繰り返し支配されるのです。

君が物事を続けられない理由

 アスペルガー人は規則性を好むので、「ひとつのことを延々と続ける」ことが得意です。ただし、これは習慣化のスイッチが入った場合の話。いったん「続けなければ気持ち悪い」という状態になればすぐに習慣化しますが、そうでなければ物事を継続することができません。
 これは、アスペルガー人が前頭葉の機能不全を起こしているからです。今やっていることは目的達成のために意味があるか、現在は目標地点に対してどの段階にあるか、と客観的に分析するのは前頭葉の働きです。前頭葉が委縮しているアスペルガー人には、こういう建設的な思考は難しく、「目的に向かって物事を継続する」ということがなかなかできません。
 そもそも人間というのは、同じ作業を続けることにストレスを感じるものです。アスペルガー人は、ただでさえストレスフルに生きているので、これ以上ストレスを受けつける余力がありません。そのため、何かを継続しようとしても、途中で挫折しやすいのです。
 アスペの中でも、ADHDの多動衝動性優位型を併発している人は特にそうです。多動衝動性優位型は、興味の対象が次々と移り、1か所にじっとしていないのが特徴です。多動衝動性優位型のADHDとアスペの両方をもっている人は珍しくありません。彼らは、目の前に来たものすべてに対して、あれが良い、これが良い、と反応して、パッパッと興味が移っていきます。
 僕の友人にも、アスペルガーと多動衝動性優位型のADHDを併発している人がいます。月曜はスポーツカーに夢中になっていたのに、金曜には「やっぱりハーレーが最高だよね」と言うような人です。飛びつくのも早いのですが、飽きるのも早すぎて笑ってしまいます。
 趣味の範囲なら笑い話で済みますが、仕事や人生の目標を達成するためには、継続力がなければ話になりません。ですから、アスペルガー人の「ひとつのことを延々と続けられる」という長所のスイッチを入れて、うまく習慣づけることが重要です。


君が片付けられない理由

 片付けというのは、脳の働きとしてはかなり高度な作業です。片付け上手の人は、始める前に片付いた部屋のイメージを頭の中に描きます。「コレとソレをあそこに片付けたら、これくらいスペースができるな。そうしたらアレを置いて……」と、シミュレーションができるわけです。
 片付けられない人は、このシミュレーションができないので、成り行きに任せて片付け始めます。結局、どこに何を置いたらいいのかわからなくなり、収拾がつかなくなってしまいます。
 アスペルガー人は基本的に、片付けが苦手です。美意識が高く、キレイ好きではあるのですが、前頭葉が委縮しているため、片付けのシミュレーションができないのです。
 前頭葉にはさまざまな機能がありますが、片付けに関しては大きく2つ。脳全体の統制と、それに基づいたイメージの組み立てです。アスペルガー人は、前頭葉が委縮していて、かつ血流が悪いので、機能が十分働きません。よって、部屋の全体像を把握しきれず、片付けたイメージを組み立てることが苦手なのです。
 もうひとつ、前頭葉の機能不全として、意志力と継続力が働きづらいということもあります。自分の部屋が汚くても、生きていくのに支障はありません。キレイな部屋を維持するためには、ある程度の意志力と継続力が必要です。しかし、アスペルガー人にはそれがない。結果として、なかなか片付けに取り組むことができず、多少片付けたとしても、それを維持することができないのです。
 ただし、アスペルガー人はやるとなったら徹底的にやらないと気が済まない性質。何かの拍子にスイッチが入れば、一転して「片付け魔」に豹変します。真夜中に突然大掃除を始め、朝まで片付けに没頭したりするのです。
 この大掃除の結果、スッキリした部屋の気持ちよさに気づき、「片付いていないと気持ち悪い」と感じるようになったらしめたもの。彼らは秩序と規則性を好むので、定期的に片付けることが習慣となり、完璧に片付いた部屋を維持できるようになります。これは意志の力というより、「片付け中毒」と呼んだほうが正確です。いずれにせよ、アスペの短所が長所に変わる良い例と言えます。

君が働きたがらない理由

 アスペルガーはニートになるか、ワーカホリックになるかの二択しかない、というお話を前にしました。正直に言えば、基本的にはニート気質であり、たまたまうまくスイッチが入るとワーカホリックになるという感じです。
 なぜニートになりやすいのかというと、代謝が悪いので常に体がだるくて意欲的になれない、興味のない物にはまったくやる気を発揮できない、ストレス耐性がない、という症状をもっているためです。そして、働かないことに妙なプライドをもっているような傾向も見られます。
 アスペルガー人の多くは哲学好きで、「人はなぜ生きるのか」「いかにして生きるべきか」などという哲学的なテーマについて考え続けます。すると、得てして現代の消費社会、資本主義社会に対して批判的になり、「働くことは悪だ」という結論に至ってしまいがちです。その論法は、こうです。
「企業が生産活動をしているということは、地球上に二酸化炭素をばら撒いているということだ。それでは地球温暖化になって作物が採れなくなり、生態系に大きなダメージを与え、地球環境が破壊される。会社が存続しても、地球環境が存続しなければ、人類は生き延びることができない。だから、働くことは人類や地球の命を高速で縮めていくことになる。自分はその一端を担いたくないので、働かないのだ!」
 彼らはこのような屁理屈で理論武装し、偏った主張を展開します。それを都合のよい言い訳として何度も繰り返しているうちに、「働かないことが正しいのだ」と自分で自分に刷り込んでしまうのです。「働かないことが正しい」どころか、「働いたら負けだ」と言う人まで出てくる始末です。
 実を言うと、これはかつてニートだった頃の僕そのものです。自分では何もしない怠け者のくせに、妙なプライドだけはあって、「みんなバカで、俺は優秀」「俺の思想を理解できないヤツと、なぜ働かなきゃいけないんだ?」ぐらいに思っていました。
 その裏には、自分を受け入れてくれない社会に対する鬱屈した感情があります。その鬱屈を歪んだ理想論に投影しているのです。
 社会に受け入れられないと言いましたが、僕は高校時代になんと9回もバイトをクビになっているんです。今の仕事がなかったら、おそらく生活保護を受けるか、ホームレス生活を送っていたことでしょう。そのぐらい徹底した「社会不適合者」だったわけです。
 コンビニでは、100個注文するはずの商品を、なぜか毎回2000個も発注。スーパーでは、店長の命令口調にキレて商品を投げつける。道路工事の現場では、車を正面衝突させそうに。牛丼店では、スピードにまったくついていけない。……こんな調子で、どのバイト先でもまったく仕事ができず、ことごとくクビを宣告されてしまったのです。
 念のために言っておきますが、僕がこんなに仕事ができなかったのは、重度の「どアスペ」だったからです。隠れアスペなら、ここまでひどいことはありません。とにかくこんな感じで、「働かない」と言っていたものの、その実は「働けない」だったわけです。

君が「天然」と言われる理由

 アスペルガー人の中でも、隠れアスペの人は「天然(ボケ)」と言われることがよくあります。たとえば、みんなで夜景の見える丘までドライブをしたとき。絶景ポイントで車を降り、みんなが「うわー、キレイ!」と歓声を上げている中、隠れアスペの人は「晩ごはん、餃子にしない?」なんて言ったりします。「……今、なぜここでそれを?」という発言や行動をして、周囲を固まらせます。タイミングが一般の人とずれているのです。
 また、みんなが「Aが良い」と言っている中で、一人だけ「いや、Cが良いよ」ということもあります。基本的に変わり者なので、価値観や好みも独特なのです。
 もうひとつ、「スキーマ」が歪んでいることも大きな特徴です。スキーマとは、さまざまな分野で「定義」や「概念」を意味する用語ですが、ここでは自動判断能力のことを指します。人間の日々の生活は、何気ない判断の連続です。たとえば、扉にドアノブが付いていれば「握って、回して、引っ張る」。引き手があれば「指をかけて、水平に動かす」。こう判断しながら開けていますが、いちいち考えていたら大変なので、判断が自動化されているのです。その自動化された判断内容がスキーマです。
 ところが、アスペルガー人のスキーマは歪んでいて、誤った判断をしてしまいます。ドアノブが出っ張っているのに、水平に動かそうとして「あれ? 動かない」。これは、はたから見ると「天然」以外の何者でもありません。
 困ったことに、スキーマが勝手に変わってしまうこともあります。自分は白い車に乗っているのに、突然「私の車は赤」とスキーマがすり替わる。駐車場で他人の赤い車を見つけて、「あった、あった」とキーを差し込んで、「あれ? 開かない」。ここまでくると、天然では済まされません。
 一般の人でも、スキーマが固まっているために、ボケた行動をとることはあります。眼鏡を頭の上に乗せているのに、「あれ? 眼鏡、眼鏡……」と探し回るのは、「眼鏡は必ずここに置いてある」というスキーマが固まっているからです。あるいは、引っ越しをしたばかりのとき、うっかり以前と同じ方面の電車に乗ってしまう。これも前の住居のままスキーマが固まっているからです。
 この程度なら誰にでもある話ですが、アスペルガー人のスキーマの歪みは度を超しています。それでも「隠れ」の人なら、定型発達に近いので、「天然なんだね」と笑って済まされるのです。

君の親子関係がうまくいかない理由

 僕はこれまで数百人のアスペルガーの方にヒアリングをしてきましたが、そのほとんどが、家庭に何かしらの問題を抱えていました。その背景には、専門医の大半の共通認識となっている「アスペルガーの約95%は遺伝による」という事実があります。つまり、アスペの方の親、もしくは祖父母の誰かは、やはりアスペなのです。
 これまで述べてきたように、アスペルガー人は情緒が不安定で傷つきやすく、劣等感が強すぎるあまり、時として攻撃的になります。良いところもたくさんあるのですが、どこかしらクセもある。そんなアスペルガー人が家庭の中に複数いれば、もちろん衝突することも多くなるでしょう。
 僕の生まれ育った家庭もひどいものでした。僕の家には両親と姉、祖母がいましたが、父方の祖母というのが、女性には珍しい重度のアスペルガーだったのです。父は軽度のアスペでしたから、僕の「どアスペ」は、祖母から隔世遺伝したのでしょう。
 母は定型発達でしたが、祖母からひどくいびられていて、僕が中2のとき、耐えきれず家を出ていきました。やがて姉が結婚して家を出て、祖母が介護施設に入所すると、父と2人きりに。僕はもともと父と折り合いが悪く、激しいケンカを繰り返していました。アスペ同士で似ているところがある分、お互いのやることなすことが気に入らなかったのです。
 特に10代後半は、僕がスピリチュアルにどっぷりハマり、意味不明なことを言っていたので、父から見れば不気味で仕方なかったのだろうと思います。19歳のとき、「俺はおまえが理解できない。出ていってくれないか」と告げられ、僕は一人暮らしを始めました。
 それ以来、親の顔を一度も見ていません。僕の例は極端かもしれませんが、アスペのマイナスの症状が強く表に出ている場合、家庭生活はなかなか円満にいかないものなのです。今思えば、重度の自閉症から突然「どアスペ」になって異常行動を繰り返す僕の世話に、母はすっかり疲れきっていたのだと思います。親子といえども、アスペのマイナス面は受け入れがたいものがあり、多くのアスペルガー人は親と、あるいは子どもとの関係に悩んでいるのです。

君の夫婦関係がうまくいかない理由

「家庭内でアスペ同士が衝突しやすい」というのは、夫婦関係にも当てはまります。実はアスペはアスペ同士で惹かれあうという興味深い特徴があります。アスペにも「類は友を呼ぶ」法則が働くのか、アスペルガー人はアスペの人を伴侶に選ぶ確率が高いのです。ただ、どうしてもアスペのマイナスの症状が影響して、夫婦関係がうまくいかず、離婚してしまう場合も少なくありません。
 アスペ夫婦は、子どものことで揉めることも多いようです。子どももアスペである確率が高いのですが、我が子が発達障害であるという事実は、夫婦関係に影を落とします。
 不思議なもので、男性は「あなたは発達障害ですよ」と言われたら受け入れるのに、「あなたのお子さんは発達障害ですよ」と言われるとなかなか受け入れられません。その点、女性は受け入れるのが早く、「障害があるなら、あるなりに育てよう」と、すぐに気持ちを切り替えます。しかし、夫はあくまで定型発達の子どもとして育てたがる。そこで夫婦の方針が衝突し、離婚に至るケースが多いのです。
 実際、僕のもとへ子連れで来られる来談者は、シングルマザーが圧倒的に多い。そして、子どもの相談に来たものの、母親のほうも深刻なアスペだとわかり、親子でセッションを受けていただくこともよくあります。

君の精神疾患は、アスペルガーの二次障害かもしれない

 その生きづらさから精神的に追い詰められ、アスペルガーの二次障害として精神疾患をわずらう人も珍しくありません。アスペ特有の症状が原因で中傷されたり、周りから孤立したり、仕事をクビになったりして、精神的に深いダメージを負ってしまうのです。アスペルガー人が併発する精神疾患は、うつ病、強迫性障害、PTSD、社会不安障害、睡眠障害、摂食障害、心身症、統合失調症などです。
 ということは、こういった精神疾患の背後には、アスペルガーをはじめとする発達障害が隠れている可能性が大いにあるということでもあります。僕の考えでは、重度の精神疾患のほとんどは、なんらかの発達障害に関係しています。もちろん、成育歴や仕事のストレスなど、環境からくる要因もありますが、長期的で繰り返し発症する精神疾患の場合は、9割以上が先天的な発達障害由来であると認識しています。
 精神疾患に苦しんで僕のカウンセリングを受けにきた方には、精神疾患にかかるまでの経緯と子どもの頃の特徴を尋ねるようにしています。すると、その話の端々に、発達障害ならではの症状が出てくるのです。また、精神疾患の症状と言われるものは、発達障害の症状と非常に多く重なります。実際、重度の精神疾患は「遺伝的な脳の器質構造の問題」だと指摘する研究論文も多数あるのです。
 にもかかわらず、精神科医のほとんどは、患者の精神疾患が発達障害の二次障害である可能性に思い至ることがありません。精神科の診断方法というのは、主に医師の経験や知識に頼っています。発達障害のことをよく知らない医師が、患者の発達障害を見抜けるはずもありません。仮に目の前の患者がアスペルガーだと気づいても、一般の精神科ではアスペルガーに提供できる治療法はありません。採算性を考えると、わざわざ時間をかけて診断テストを行い、精神疾患の患者をアスペだと診断するメリットがないのです。
 精神疾患の根幹にアスペルガーの症状がある場合、投薬など一般の治療法だけでは根本的な解決には至りません。アスペルガーを改善しなければ、精神疾患のほうも根治することはなく、再発を繰り返してしまうのです。

君が「うつ状態」に陥りやすい理由

 発達障害の二次障害として起こる精神疾患の中でも、特に隠れアスペの人がかかりやすいのが、うつ病です。同じアスペでも、統合失調症など、より重篤な精神疾患になるのは真性アスペです。「隠れ」は障害の度合いが弱い分、重い精神疾患になることはほとんどありません。
 隠れアスペの人がうつ病になりやすい原因のひとつが、これまで何度も出てきたセロトニンシステムの機能不全です。セロトニンが不足するとやる気が出なくなり、うつ状態に陥りやすくなります。
 アスペは先天的にセロトニンシステムの機能が弱いのですが、後天的にもセロトニン不足をうながす要因があります。ビタミンB群やアミノ酸、不飽和脂肪酸の欠乏と糖質の大量摂取によって、セロトニンシステムが後天的に機能不全に陥ることがあるのです。
 アスペルガー人が糖質を摂り過ぎるのは、ストレスが原因です。人は精神的苦痛を受けると、快楽をもたらす神経伝達物質・エンドルフィンを無意識に求めます。エンドルフィンを手っ取り早く分泌させてくれるのが、糖質なのです。
 確かに、ストレスがたまってイライラしているときには、甘い物を食べたくなりますよね。これは、脳がエンドルフィンを求めているからなのです。
 アスペルガー人は、いつも過剰なストレスにさらされているため、常にエンドルフィンを求めています。だから、甘い物を食べ過ぎてしまう。甘い物をたくさん食べると、エンドルフィンが分泌され、快楽を感じます。いったんその快楽を知ってしまうと、また甘い物が食べたくなります。しかも、アスペの場合は前頭葉の機能がうまく働かないので、歯止めが利きません。こうして糖質中毒に陥っていくのです。
 糖質中毒の人は、炭水化物ばかりを好んで摂るので、動物性食品をあまり摂らない傾向にあります。そのため、アスペルガー人はアミノ酸や不飽和脂肪酸、ビタミンB群が不足しがちになります。これは、セロトニン不足に拍車がかかることを意味します。
 また、糖質を分解するときにビタミンB群とたんぱく質が消費されてしまい、消化酵素の産生量が減って、消化吸収能力が下がります。すると、ただでさえ乏しいビタミンB群とたんぱく質が糖質を分解するために使われ、さらには消化吸収されにくくなってしまうのです。こうして、先天的な要因によるセロトニン不足に加え、糖質中毒が拍車をかけ、隠れアスペをうつ病へと追い込んでいくのです。
 厚生労働省によると、日本では約10人に1人が一生のうち一度はうつ病を発症するということです。そのすべてとは言いませんが、かなりの確率で、隠れアスペが関わっていると思われます。
 しかし、隠れアスペというフレームも、アスペの改善法も、まだほとんど知られていません。うつ病が国民病と言えるまでに深刻化した現在、アスペの改善は国として取り組むべき喫緊の課題と言えるのではないでしょうか。

君の体が弱い理由

 アスペルガー人は、基本的に体が弱く、常にどこかに体調不良を抱えています。その大きな要因のひとつは、先に登場した「糖質中毒」です。糖質を摂りすぎると、代謝の低下、消化力の低下、睡眠不足、栄養不足、自律神経の乱れなど、実に多くの問題が表れます。これらの問題は、多くの不調を引き起こします。わけもなくだるい。疲れやすい。頭痛や肩こり、腰痛。アレルギーになりやすい。胃腸が弱る。女性なら婦人科系のトラブルが増える。アスペルガー人は常に不定愁訴に苦しめられています。
 なかでも、基礎代謝の異常な低さは問題です。基礎代謝とは、じっとしているだけでも呼吸や体温調整、発汗など、生命維持活動に使われるエネルギーです。この基礎代謝が低いと、太りやすい体質になり、生活習慣病のリスクが高くなってしまいます。また、精神面では倦怠感やイライラ、不安感につながります。
 糖質中毒のアスペルガー人は、基礎代謝を上げるために必要な栄養素を十分に摂取できていないことが多い。基礎代謝を上げるために必要なのは、ビタミンB群やたんぱく質。仮にこれらの栄養を摂っていたとしても、糖質を摂りすぎていると、それを消化するためにビタミンB群やたんぱく質が消費されてしまいます。
 基礎代謝を上げるためには、運動をして筋肉をつけることが有効です。しかし、アスペルガー人はセロトニン不足でやる気が出にくく、体も常にだるいので、ダラダラと寝っ転がって運動不足になりがちです。
 そもそも、アスペには「体癖」がおかしいという特徴があります。体が斜めに傾いていたり、体の一部がこわばっていたり、動きがどこか不自然だったりするのです。それは、アスペルガー人の多くが小脳に障害を抱えているためだと考えられます。体癖がおかしいと、筋肉の異常な凝りや骨格の歪みが起こります。体の歪みによって血流が悪くなると、基礎代謝の低下に拍車がかかってしまいます。
 アスペルガーには、まだまだ多くの肉体面での問題があります。僕は、それらに対して、食習慣の是正、栄養補給、体癖の是正、生活リズムの改善といった物理的で科学的な方法を指導します。アスペの方々の一番の悩みである精神面の問題    情緒不安定、劣等感、恐怖心など    は、実は肉体改造によってほとんどが改善できるのです。アスペルガーというのは、「心の問題」ではなく、脳の器質的障害に端を発する「体の問題」なのですから。
 そのため、まずは徹底的に肉体改造を行います。認知行動療法など、精神面へのアプローチは、その後です。その具体的方法については、次章でお話ししましょう。


【序章】なぜか「生きづらい」君へ

【1章】「隠れアスペ」はなぜ気づかれないのか?

【2章】アスペルガーは、生まれもった「十字架」ではない!


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

もっと言ってほしい…
22
出版社KKベストセラーズです。ここでは雑誌や書籍といった本だけではなく、私たちがお届けできる様々なコンテンツを魔球混じりに投げていきます。フォローしてもらえるとググッと上がります。どうぞご贔屓にm(__)m ■HP https://www.kk-bestsellers.com/
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。