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『脳トレ』でバレてしまった絵ごころ無し遺伝子 #母への詫び状 第2回

介護で見つかる幸福もある。
BEST T!MESで好評連載中の「母への詫び状」第1回から第10回をnoteで再掲します。今回は第2回。『脳トレ』で見えてきた母親との共通点。

第1回はコチラ↑

わかるようになってきた「母親似」の意味

 子供の頃から「あなたはお母さん似ね」と、よく言われてきた。ぼくには2つ上の兄がいるが、親戚のおじさんやおばさんはたいてい、兄を「父親似」と見なし、ぼくを「母親似」とジャッジした。

 普通、小さい男の子が「お母さん似」と言われても、ピンと来ない。素直にうなずけないものではないだろうか。

 しかし、三十年ぶりに母と暮らすようになり、その意味が少しずつわかってきた。

 最初にぎょっとしたのは、ケータイ電話の着信メロディが同じ曲だったこと。次に驚いたのは「脳トレのお絵かき」である。 

『川島隆太教授の 脳を鍛える大人のDSトレーニング』という、大ヒットした任天堂DSのソフトを知っているだろう。実家にもこのソフトがあった。

 ボケ防止になればと、兄が買ってあげたものらしい。父はちっとも興味を示さなかったが、母はときどき手にして計算問題を解くなど、脳トレに励んでいたようだった。

 この『大人の脳トレ』の中で、たまに「お絵かき」の問題が出されることがある。
「パンダの絵を描いてください」
「こいのぼりを描いてください」

 などなど。出題されたら、タッチペンで絵を描き、あとで正解の絵と見比べる。

 ぼくはこのお絵かきがまったく出来ない。人間にはこれほど苦手な分野があるのかと、絶望するくらい絵ごころがない。

ぼくはいわゆる「画伯」タイプ

 いわゆる「画伯」というやつだ。ものすごく絵が下手くそなゆえに、常人とは違うタイプの不思議な絵を描いてしまう、おふざけの意味で使われる「画伯」。小学校の頃から図画工作の時間が一番の苦痛だった。

 あるとき、ぼくが『脳トレ』をやっていたら、「カンガルーの絵を描いてください」という問題に出くわした。

 カンガルー? えっと、どんなだっけ。足は4本ある。しっぽもあるだろう。そのくらいはわかる。顔があって、耳の形は? 目は黒く塗ればいいの? そうだ、お腹の袋があるじゃないか。これが最大の特徴だ。あれ、なんだこれ。馬と変わらないじゃん。ダメだ、お腹に巨大なデキモノがついた不気味な馬になっちゃったぞ!?

 実話である。話は盛ってない。

 カンガルーの映像は頭に浮かんでいるのに、どの姿を静止画としてとらえればいいのか。どの角度でどこから描いたらいいのか。そのセンスが皆無のため、まずは胴体を描き、そこに足を4本描くと、その時点でほとんど馬になってしまう。お腹の袋を描き加えると、変なデキモノにしか見えない。

 正解の絵を見た後なら「なるほど。前足を短く、手のようにして描き、体全体を起こして描けば馬にはならないのか!」と気付くが、絵ごころがないと基本的なコツがわからない。

 我が身の絶望的なまでの絵の才能のなさに呆れつつ、その日はそれで終わった。下手くそすぎる画伯の絵は、誰にも見せることなく闇に葬ればいい。

『脳トレ』の「展覧会」機能でバレた絵ごころ無し遺伝子
 しかし--。後日、恐ろしいことが起こる。

『脳トレ』のお絵かき問題には、「展覧会」というサプライズ機能が付いていた。何人かのプレイヤーの絵がたまると、あるとき突然「展覧会をしましょう」と、複数のプレイヤーの描いた絵が並べて画面に表示される。

「な、なんじゃ、これは~~~!!」

 脳トレをやろうとして画面を開いたぼくの目に、カンガルーの展覧会が表示された。母の描いたカンガルーの絵と、ぼくの描いたカンガルーの絵が並べてあったのである。

 あの衝撃はどう表現したらいいだろうか。まじめな話、背筋が凍りついた。越後三山に積もった雪を全部、シャツの背中に入れられたくらいの強烈な寒気が全身に走った。 

 母の描いたカンガルーと、息子の描いたカンガルー。2枚の絵はそっくりだったのである。

 繰り返すが、ぼくの絵はどう見てもカンガルーには見えない超下手くそなシロモノだ。しかし、これとそっくりな絵を、同じ「カンガルー」というお題で、先に描いた人類が地球上に存在したのである。お腹にデキモノがくっついた馬みたいな謎の生き物を描写した人が!

「こ、これが遺伝子の仕業か……。おそるべき生命40億年のシステム……」

 このときに確信した。人間には「二重まぶたの遺伝子」や「速く走れる遺伝子」があるように、「絵ごころない遺伝子」というものが確実に存在する、と。
 しかもこの遺伝子は、絵の才能があるかないかを決めるだけではなく、どっち方向に間違ってしまうのか、その間違い方まで決めている。

 あまりの絵のそっくりさに言葉を失いつつ、これは母にも見せねばなるまいと、2枚の絵を見せてあげた。

 母はびっくりして恥ずかしがった。

「やーだ、わたしの描いた絵がなんで出るの!? 見ないでちょうだい、ホントに下手くそなんだて、わたしの絵は」

 自分の描いたカンガルーの絵が表示されていることはすぐに理解したが、なぜ2枚の絵が並んでいるかはわかっていないようだった。

「あのさ、それ、片方はオレの絵なんだ」
「え、どういうこと?」
「だから、片方がおかあちゃんの絵で、もう片方はオレの絵」
「あんたの絵!? やーだ、なんでこんなに似てるの? あーら、あっはっは、あんたも下手だねえ、あっはっは」
「………………」

 いやいや、おかあちゃん。

 爆笑してますけど、オレの絵が下手なのは、どう考えてもあなたのせいですから。あなたの絵ごころ無い遺伝子のおかげですから。

文:夕暮 二郎(ゆうぐれ じろう)
昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。ツイッター https://twitter.com/yugure1962

※最新回はBEST T!MESをチェックしてみてください。〈隔週木曜更新〉


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