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「お母さんの好きな食べ物」答えられますか? #母への詫び状

介護。
どうしたってその言葉は重たい。
老いてゆく親を見るのはつらい。
施設で、家庭で。
介護の現場で起こる痛ましい事件のニュースも連日のように流れてくる。
でも。
介護で見つかる幸せもある、と著者の夕暮二郎さんは教えてくれた。
上京してから、ぽっかりと空いてしまった両親との距離を、介護を機に帰郷して埋めていく。ゆっくりと。そして新しい関係性を見つけていく物語。
BEST T!MESで好評連載中の「母への詫び状」第1回から第10回をnoteで再掲します。

「知らないこと」に気付きもしなかった。でも答えられる、今なら。

 自分の母親はどんな食べ物が好きなのか。これを知っている人は、どのくらいいるのだろう。

「お母さんの好きな食べ物ベスト3」を聞かれて、すいすい答えられる息子はどのくらい存在するのだろうか。

 恥ずかしながら、ぼくはまったく知らなかった。母親と一緒に暮らしていたのは、18歳までだ。高校卒業後、上京してひとり暮らしをするようになって30年近く。自分は、自分を産んでくれた人の好きな食べ物さえ知らず、それを知らないことに気付いてもいなかった。

 こっちの好きな食べ物は、子供の頃からさんざん、わがままなリクエストをしてきたくせに。

 でも、今なら答えられる。

 直接、ベスト3を聞いたわけじゃないけど、母の好きな食べ物を3つや4つはすぐに挙げられる。

 ぼくが母を介護することになったからだ。毎日、ふたりで顔を突き合わせて、母の食べるものはみんなぼくが用意していたんだから、知っていて当たり前である。

 今はそれを知ることができて良かったと、スーパーマーケットに並ぶリンゴをながめながら、しみじみ思う。もし介護を経験していなければ、一生、母親の好きな食べ物も知らないバカ息子のままで終わっていた。

 介護について書こうと思う。きわめて私的な思い出、それもできれば幸せなことを綴ろうと思う。

介護で見つかる幸福もある

 普段、ニュースなどから流れてくる介護の話題には光がない。悲しすぎて、目を背けたくなるもの、耳をふさぎたくなるものが多い。
「長年連れ添った妻を、夫が手にかけてしまった。理由は老老介護による疲れか」
「自宅介護をしている人の約7割が限界を感じ、約2割は殺人や心中を考えたことがある」

 こんな現状を突き付けられると、胸が締めつけられる。

 しかし、介護は本当に悲しいことばかりなのだろうか。自宅介護はそんなにも光の見えない無間地獄で、人を精神的に追い詰めてしまう救いのない罰ゲームなのだろうか。

 そうじゃない。絶対、そんなことばかりじゃない。介護には幸せな出来事だってたくさんある。

 ぼくは介護を通して、親からたくさんのハッピーをもらった。

 心穏やかな時間を過ごし、いろんな気付きを与えられ、新しい人間関係もできた。もしかしたら人生で初めて、人並みの親と子の関係を築けたのかもしれないという想いもある。

 これを誰かに伝えたい。

 世の中に流れる介護のニュースは悲しい話ばかりで、絶望だらけの暗黒世界みたいな扱われ方だけど、そうじゃない一面もあるんだよと教えてあげたい。どこかで苦しんでいる誰かに、少しでも伝えられたらいいなと思う。

 父親や母親の介護をしているあなたは、たぶん相手の好きな食べ物をよく知っている。それはとても幸せなことなのだと気付いて欲しい。

 ちなみに、うちの母の好きな食べ物ベスト3は。
1位 リンゴ。食べやすくすりおろしたリンゴ。サンふじがお気に入り。
2位 鮭の焼き魚。塩がたっぷり利いて、辛口と表示されている、しょっぱいシャケ。
3位 煮物。里芋や大根がゴロゴロ入った、越後ふうの甘めの味付けの煮物。

 これで合っているかな。いざ書いてみると、本当に合っているのか自信がない。

 やっぱり、ちゃんと本人が元気なうちに確かめておくべきだった。バカ息子は詰めが甘い。

文:夕暮 二郎(ゆうぐれ じろう)

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。ツイッター https://twitter.com/yugure1962

※最新回はBEST T!MESをチェックしてみてください。〈隔週木曜更新〉


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母への詫び状

介護の中で見つかる幸せもある。若い頃は反発し、なかば飛び出すように家を出た著者の夕暮二郎さんが、介護を通して両親との関係性を再発見する。
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