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アスペルガーは、生まれもった「十字架」ではない! 〜隠れアスペルガーという才能について〜

 世間の“アスペルガー”へのイメージはまだまだネガティブなものばかりだが、発達障害カウンセラーの吉濱ツトム氏は「彼らは、実は才能あふれる素晴らしい人材でもある」と語ります。
 彼らにはプラスの症状(長所)がたくさんあり、仕事に生かせる能力、人間的魅力にあふれ、社会の財産になり得る存在であることを吉濱氏は、著書『隠れアスペルガーという才能』に記しています。
 今回は、その著書から“第2章『君がまだ知らない「アスペルガーという才能」』を公開します。

新刊にも注目

【3章】“君の生きづらさ”について話そう

アスペルガーは、生まれもった「十字架」ではない!

「問題児」「社会のお荷物」「非常識」「かわいそうな人」……アスペルガーに対する世間のイメージは、このようにネガティブなものばかりのようです。これは、アスペに関する専門書などにマイナスの症状(短所)しか書かれていないためでしょう。マイナスの症状が強い「真性アスペ」しかアスペルガー症候群だと診断されないので、アスペといえば「生まれつき障害という十字架を背負ったかわいそうな人」と思われているのです。
 しかし実際は、アスペにはプラスの症状(長所)も驚くほどたくさんあります。特にアスペの中でも多数派の「隠れアスペ」は、長所が多くて短所が目立たないという、一見「アスペらしくない」特徴をもっています。アスペの長所は、仕事に生かせる能力のこともあれば、人間的な魅力のこともあり、「定型発達」(発達障害ではない、普通の人)と比べても際立っています。その長所を伸ばせば、隠れアスペは社会の財産になり得るのです。
 ただし、長所を伸ばすためには、まず最初に短所を抑えることが必要です。アスペの短所は、せっかくの魅力的な長所を覆い隠すゴムシートのようなもの。これを抑えた上で長所を伸ばす方法は、まだほとんど知られていません。そもそも、アスペに素晴らしい才能があることも、才能あふれる隠れアスペという存在も、まったく認知されていません。このことが周知されれば、「アスペルガーは十字架ではない」ことがもっと多くの人にわかっていただけるはずです。
 隠れアスペなら、真性アスペと比べてマイナスの症状が弱く、その種類も少ないので、改善させるのは比較的容易です。的確な方法を用いさえすれば、6〜8割の症状は大幅に軽減することができます。
 そして、アスペルガー人はいったんスイッチが入ったら猛烈な継続力を発揮しますから、症状を改善しやすい。隠れアスペなら、なおさら結果が早く出ます。
 隠れアスペにとっては、アスペであることはマイナス面よりプラス面のほうが大きいものなのです。アスペルガーであること自体が才能だと僕が言うのは、こういう理由からです。そんなアスペの魅力を、本章ではたっぷりとお伝えしていきます。

アスペルガーの医学的分類は3つ


 真性も「隠れ」も含めて、アスペルガーは医学的に3つのタイプに分かれます。
 ひとつは、「受け身型」のアスペルガー。他人から近づいてきても拒絶はしないけれど、自分から人に近づくことはしないタイプです。人に誘われれば出かけることもありますが、自分から人を誘うことは滅多にありません。どんなに親しい相手でも、用事がなければ自分からメールもラインのメッセージも送ることはありません。しかし、相手から送られてきたらきちんと返事をします。
 それに対して、「孤立型」は、他人からのアプローチを完全に拒絶し、返事もしません。人が怖かったり人にあまり興味をもてなかったりするため、誘われても応じることはほとんどありません。常に自分の世界だけに閉じこもっている、引きこもりのようなタイプです。序章で紹介した、友達と遊ばないD君は、まさに孤立型の典型でした。
 三つ目は「積極奇異型」。前章で、僕が中学生のときに超ハイテンションなKY人間になった話をしましたよね。あのウザいヤツが積極奇異型です。みんなが昨日のプロ野球の結果について話しているところにいきなり割り込んで、「今後の日中関係ってさー……」とベラベラまくしたて、しゃべり終わったら「じゃ!」と去っていく。みんなはポカーンとするばかり。一方的すぎて、まるで会話になりません。
 積極奇異型のアスペルガー人にとって、世界は自分を中心に回っています。自分さえ楽しければそれで幸せ。KYなので、周りにウザいと思われていることに気づかず、むしろ「俺、イケてる」と自信満々に思っています。僕も、積極奇異型の全盛時代は、恥ずかしながら「ヒーロー不在のこの時代、俺の肩の荷が重過ぎる」と本気で思っていました。とんでもない勘違い野郎ですが、他のアスペとは違い、生きづらくはないので、ある意味幸せなタイプと言えます。
 3つの中で隠れアスペに多いのは、最もソフトな受け身型です。極端な孤立型は、どちらかと言うと真性アスペに多いタイプ。積極奇異型は、日本人にはあまり多くありません。本書でいう「隠れアスペ」は、主に受け身型だと考えてください。

「良いアスペ」と「困ったアスペ」


 3種類の医学的な分類を紹介しましたが、もうひとつ、僕と知り合いの精神科医の間で勝手に定義している独自の分類をご紹介しましょう。それは、「良いアスペ」と「困ったアスペ」です。
「良いアスペ」というのは、純粋、優しい、素直、といったアスペルガーの長所があふれ出ているタイプ。「困ったアスペ」はその逆。被害者意識の強さ、粘着性、猜疑心といった短所ばかりが表れているタイプです。知り合いの精神科医は、臨床の現場でおおぜいのアスペルガー人を見てきた末に、アスペはこの2タイプに分かれるという見解に至りました。これはカウンセリングでたくさんの症例を見てきた僕も、まったく同意見です。ただしこれは、あくまでも現場の人間が勝手につくったタイプ分けであって、医学の世界でこんな分類はしていませんので、あしからず。
「良いアスペ」は、言われたことを素直に受けとめ、屁理屈や批判を言わず、たとえ失敗しても人のせいにしません。基本的に努力や勉強が嫌いではなく、僕が「症状改善のためにこれをやりましょう」と言えば、そのとおりにコツコツ取り組みます。こういう人は、症状の改善も早く実現します。
 一方、「困ったアスペ」は、何を言われても反論して何ひとつ素直に受け入れようとしません。僕が「こうしましょう」「ああしましょう」とアドバイスしても、逐一、「それは違う」「これは無理」と屁理屈や言い訳が返ってきます。また、ちょっとした言葉尻をとらえて「この間言ったことと違うじゃないか」「それは矛盾しているんじゃないか」としつこく追及してくる粘着質なところもあります。失敗したときは、反省などはまるでせず、即座に人のせい。自分から僕のところへ「助けてほしい」と来たはずなのに、これではどうしようもありません。
 残念ながら、こういう方にはお引き取りいただいています。言い訳ばかりで努力をしなければ、当然ながら何も変わりません。それでは、お互いに時間の無駄ですから。しかし、なかには僕がお断りするとハッとして、深く反省し「良いアスペ」に生まれ変わる方もいます。
 僕のセッションに限らず、日常生活でも「困ったアスペ」は本当に困った人として敬遠されがちです。それに対して「良いアスペ」は、基本的に素直なので、アスペの症状で周囲に迷惑をかけたとしても、「天然ボケ」で済まされる場合があります。序章で紹介した元アイドルのCさんはまさに典型で、「良いアスペ」の愛されキャラでした。
 僕の感触では、隠れアスペの7、8割くらいは「良いアスペ」です。隠れアスペは長所が多い傾向にあるので、必然的に「良いアスペ」が多くなります。
 世間一般でイメージされる「問題児」のアスペというのは、だいたいがこの「困ったアスペ」のことを指しています。しかしそれは、「隠れアスペ」という新しいフレームが認知されていないから「問題児」のアスペにしか目がいかないだけなのです。本当は「良いアスペ」のほうが多数派で、「アスペ=困った人」ではありません。


アスペの短所は、長所の裏返し


 アスペに「長所が多い」と言ったところで、やはり短所のほうが目に付きやすいのは事実です。アスペの短所については、書籍やネットの記事などによく出ているので、なんとなく知っているという人も多いでしょう。空気が読めない、臨機応変に動けない、独創性に欠ける、冗談が通じない……他にも、人によってさまざまな「短所」があります。しかし、これら短所は、少し見方を変えるだけで、立派な長所に変身するのです。
 たとえば、「臨機応変に動けない」というのは、裏を返せば「決まりごとを守るのは得意」ということです。実際、アスペルガー人は急な予定変更になかなか対応できませんし、やるべきことの優先順位をつけるのが苦手です。しかし、マニュアルどおりに仕事をすることにおいては、誰よりも正確にコツコツと続けられます。
「独創性に欠ける」というのは、言いかえれば「コピーするのは得意」ということです。前章で「日本人にはアスペが多い」と述べましたが、日本経済はまさにコピーすることで発展してきました。自動車はアメリカで普及したものですが、日本人は上手にまねをして高性能なコピー製品を作り出し、世界の市場を席巻してきたわけです。
 他にも、「傷つきやすい」というのは「人に優しくできる」「気遣いができる」ことにつながります。自分が傷つきやすいからこそ、人の痛みが理解できるし、人が傷つかないように心配りができるのです。また、「子どもっぽい」というのは「純粋」という側面をもっています。このように、一見短所にしか思えない症状にも、実は立派な長所が隠れているのです。
 短所だと思っていたところが実は長所であることに、ぜひ早く気づいてください。「アスペであることのメリットって、こんなにあるんだ」と心から納得でき、断然生きやすくなるはずです。


アスペの才能が、日本の未来を救う!


 多くの優れた長所をもつアスペルガー人は、けっして社会のお荷物などではなく、今後の日本社会を支える貴重な人材となることでしょう。その長所を適切な方向に向けることができれば、持ち前の才能が開花して、日本経済の救世主になってしまうかもしれません。
 これからの時代に伸びていくのは、エネルギーや医学、遺伝子工学、バイオなど、基礎研究がものをいう分野です。アスペルガー人は、「ひとつのことを延々とやり続ける」という特性があり、コツコツと実験を繰り返す基礎研究に向いています。
 日本人にはアスペが多いと言いました。日本は、ひとつのことを延々とやり続ける気質で損をしてきた面もあります。その典型は、IT機器の分野です。どんな企業でも1企業がソフト、CPU、メモリ、液晶とすべてを作ることはほぼ不可能です。CPUならインテル、ソフトならマイクロソフト、液晶ならソニーやシャープ……と、それぞれの要素技術でもって部分ごとに作っている。ひとつのことだけを深堀りする、いわば「研究バカ」な気質により、専門家があちこちに散らばっている状態です。日本の企業は、自分たちのもつトップレベルの要素技術をさらに磨き続けてきました。
 そんななか、アメリカのアップル社が要素技術を適当に組み合わせてiPhoneを作ってしまった。結果、要素技術は日本がトップであるにもかかわらず、世界のケータイ市場から日本のケータイが駆逐されてしまったのです。
 一方、エネルギーや遺伝子工学、免疫学、脳生理学の分野では、日本は依然として世界のトップを走り続けています。アスペルガー人にとって、ひいては日本にとって、「ひとつのことを深堀りする」気質をこれら「基礎研究がものを言う」分野で生かすことが、今後の世界を生き抜く秘けつと言えるでしょう。
 あるいは、2045年には労働の主役になると予想される人工知能の分野です。人工知能の学習方法は、最適なアルゴリズムを組んでプログラミングするというものです。アルゴリズムとはコンピュータの計算方法のことですが、ビッグデータを集めてマニュアルを作り、さらに別のマニュアルによって補完していくという作業でつくられます。これはアスペルガー人が得意な「ルール化」そのものですから、アスペルガー人の活躍が期待できる分野と言えます。
 もうひとつ、イノベーションが得意なアスペルガー人もいます。「技術革新」と日本では間違って訳されていますが、要は大量の新しい技術や物や仕組みを生み出して、たまたま当たったものをイノベーションと呼んでいるに過ぎません。そのイノベーションを起こすには、見方を変えて、これまでにない「異質のフレーム」を生み出す必要があります。
 見方を変えるためにはどうすればよいのでしょうか? 一番簡単なのは、変わり者に考えさせることです。そこでアスペルガー人の本領発揮です。基本的に変わり者だから、何を見ても他の人とは違う見方になってしまい、異質のフレームを生み出してしまう。結果として、イノベーションを起こすことができるのです。
 このように、アスペルガー人は日本の経済社会にとって有益な働きをする可能性が非常に大きいのです。世界の過酷な競争社会で生き残るためには、アスペルガーが一番多い国が有利だといっても過言ではありません。それが日本であるならば、日本にはまだまだ潜在的な能力が眠っていると言えるのではないでしょうか。

こんなにあった! アスペの人間的魅力

 ここからは、アスペの長所の中でも、人間的魅力と呼べるものを紹介していきます。アスペルガー人だからといってすべての項目が当てはまるわけではありません。「真逆」の部分をもっている場合も多いものです。特に隠れアスペには、そういったムラが見られます。でもとにかく、こんなにたくさんの魅力があるということを、まずは知っていただきたい。そして自分や周りの人に当てはまる部分があれば、長所として認識していただきたいと思います。

素直である
 アスペルガー人、特に隠れアスペの人は「人の言うことを素直に受け入れる」という長所があります。アスペルガー人は基本的に常識にとらわれないので、既存のフレームに当てはめて取捨選択をすることがありません。だから、聞いたことのない話、新しい物事を、とりあえずはそのまま受け入れます。ただし、自身の自尊心を傷つけるような言葉はまったく受けつけません。
 仕事や学問において新しい価値を創出するためには、従来にない発想、視点が必要です。その点、アスペルガー人は従来の価値観に縛られず、なんでも素直に受け入れるので、新しいフレームを構築することが得意です。
 ただし、怪しい霊感商法など「トンデモ話」に飛びつきやすい傾向があるので、注意が必要です。

純粋である
 ここで言う「純粋」とは、「自分のためでなく社会や人のために善い行いをしよう、善い人であろう、という『善き想い』をしっかりもっている」ということを意味します。そうありたいと願ってもなかなかできるものではありませんが、とにかくアスペルガー人は本能的に「善き想い」をもっているのです。
 それと言うのも、アスペルガー人は興味の対象が限定されていて、政治的な駆け引きや出世競争など、世俗的なことに関心をもたない傾向にあるからです。哲学的な思想に傾倒しやすく、世俗的行為に意味を感じられないとも考えられます。
 多くのアスペルガー人が「善き想い」を全面的に発揮するようになれば、より良い社会への変革の基盤となるでしょう。

人を信じやすい
 アスペの「信じやすさ」は、序章に登場した元アイドル、Cさんの例を見るまでもなく、必ずしも長所だとは言い切れません。が、現代人は過剰な猜疑心により他者とつながりにくくなっている面があります。それが高じると、情緒不安定になってしまいます。これは、不安と孤独によって脳内の扁桃核が暴走し、 血中のコルチゾール濃度が高まってセロトニンシステムが破綻するために情緒が乱れるという、生理的な裏付けのある現象です。
 アスペルガー人が人を疑わない理由は、ひとつには前項の「純粋さ」にあり、理想論に偏った哲学の影響で性善説に立っていることにあります。また、人の言葉の裏を読みとれず、言われたとおりに信じてしまうという特性も影響しています。
 あまりに騙されやすいのは問題ですが、猜疑心や情緒不安の蔓延する世の中にあって、アスペルガー人の子どものような信じやすさは貴重なオアシスです。

優しい
 アスペルガー人は、短気なところもありますが、基本的には優しいにもほどがあるというくらい優しい気質をもっています。「優しいにもほどがあるというくらい」とは、たとえば医師が縁もゆかりもない発展途上国に行って無償で治療を施すというようなこと。これは稀にみる深淵な優しさです。この、ちょっと度を超した感じの優しさは、アスペの特徴です。
 アスペルガー人は極めて繊細で傷つきやすく、「人から優しく接してほしい」と切に願っています。なので、自分が人に接するとき、無意識にそれを投影して優しくなるのです。
 優しくありたいと思ってはいても、いつもそれを実行するというのは、なかなかできることではありません。心から優しい人というのは、それだけで貴重な存在です。人の優しさに触れると、その優しさが伝わり、こちらまで優しい気持ちになります。アスペルガー人の深い優しさは、世の中に優しさを広める大きなエネルギーをもっています。

「人を守りたい」という気持ちが強い
 専門書には「アスペルガーの人は、他人に無関心」とよく書かれていますが、それは半分正解で、半分間違いです。確かに、強い症状をもつ真性アスペは他人に無関心になる傾向が強いのですが、隠れアスペの場合は、むしろ「人を守りたい」「人の世話をしたい」という欲求を強くもっています。そのため、教育者、医療関係者、介護職、児童福祉施設の職員、カウンセラー、セラピストといった仕事に熱意を見せます。
 なぜ「人を守りたい」と思うのか。それは、アスペルガー人は使命感が強く、真面目だからです。これについては、続きをご覧いただきましょう。

使命感が強い
「人を守りたい」という気持ちの裏には、「自分が守らなければ誰が守るんだ」という強い使命感が潜んでいます。アスペルガー人は、自分が神や教祖のような崇高な存在だと思い込んでいる節があるのです。
 スピリチュアルが大好きな彼らは、「自分は偉大な何者かに選ばれた人間であり、世の中を良くしなければならない」と信じています。それが、良くも悪くも使命感の強さにつながっているのです。
 僕も昔、「ヒーロー不在のこの時代、俺の肩の荷が重過ぎる」などと思っていましたが、同じように「俺が世の中を変えてやらなきゃ」と勝手に思っているアスペルガー人は山のようにいます。かなりイタいヤツとも言えますが、この使命感が良い方向へ向かえば、とても魅力的な長所になります。使命感に燃えて弱者を守ったり、社会的な活動を行ったりすることでしょう。実際、社会を変革してきた偉人たちにアスペルガーが多いのは、よく知られるところです。

真面目である
 アスペルガー人の多くは、良く言えば常識にとらわれず、悪く言えば常識をもち合わせていません。しかしこれは、ルール無用というわけではなく、社会通念上、守るべきことを守ろうとする意識は、極めて強くもっています。守るべきこととは、法律や校則、社則などの、いわゆる「決まりごと」です。アスペルガー人は無秩序な状態が非常に苦手で、とことん規則を求めます。つまり彼らは、規則を徹底的に守る真面目人間なのです。
 規則に厳格なアスペルガー人は、裁判官や法律家、警察官になる例が少なくありません。「自分がお手本にならなければ」という模範意識が高いのもアスペの特徴です。
 にもかかわらず、世間一般では「アスペは犯罪を起こしやすい」と思われがちです。実際は、アスペルガー人の犯罪率は定型発達の人と比べて40%と、極めて低くなっています(クリストファー・ギルバーグ『アスペルガー症候群がわかる本』明石書店、2003年、より)。ごくまれに凶悪事件を起こすアスペルガー人もいますが、マスコミがそういう事件を報じる際に、「犯人はアスペルガー症候群と診断されていました」とアナウンスすることが一時頻発したので、「アスペ=犯罪者が多い」という誤った認識が根付いてしまったのです。
 一方で、高いモラルを追求するがゆえに融通が効かず、周囲の人に窮屈な思いをさせてしまったり、必要以上に不正を糾弾して悪者をつくったりすることもあります。

聴き上手である
 人は誰でも、話を聴いてもらうだけで心が楽になるものです。しかし大半の人は、自分の話を聴いてほしいとは思っても、他人の話など聴きたくもありません。しかしアスペルガー人の中には、人の話を延々と聴ける「聴き上手」な人がたくさんいるのです。
 人の会話の9割以上は、中身のない雑談です。アスペルガー人は雑談が苦手ですから、人と会話をするときは、話すよりも聴くことに徹するほうが楽なのです。つまり、会話を成り立たせるためにおのずと聴き上手になるというのがひとつ。
 もうひとつは、人を救い、導き、保護するのが自分の使命だと勝手に思い込んでいるので、人の相談には積極的に乗るべきだと考えているというところもあります。
 多くの人にとって、自分の話をじっくり聴いてくれる相手というのは貴重です。アスペルガー人は、話し相手として求められる存在であるのです。

責任感が強い
 アスペルガー人はその脳構造によって、恐怖心と罪悪感が人一倍強い傾向にあります。これは一見短所のようですが、責任感の強さという素晴らしい長所をもたらします。
 恐怖心と罪悪感が強いと、「やるべきことをやらなければ申し訳ない」「約束を守らなければ許されない」という感情に駆られやすい。それが責任感の強さ、言いかえれば「義理堅さ」として行動に表れるのです。規則を厳格に守りたがる「真面目さ」も、この義理堅さを後押ししています。
 ただ、責任感が強すぎるあまり、自分を追い詰めてしまい、心身を病んでしまう場合もあります。それを回避できれば、周囲の人から信頼を勝ち得る素晴らしい長所と言えるでしょう。

ネガティブな感情への共感性が高い
 アスペルガー人は「無機的で感情に乏しい」と言われますが、それは大間違いです。確かに、肯定的な感情は乏しい傾向にありますが、不安、恐怖、怒り、悲しみといったネガティブな感情に関しては、人一倍強い感受性をもっています。
 自分がネガティブな感情に支配されやすく、落ち込みやすいので、他人が悲しみや不安の中にいるときは、強く共感することができます。悲しい気分のときに、同じように悲しんでくれる人。アスペルガー人には、そんな一面もあるのです。

向上心が強い
 人生を改善していくためには、正しい知識と向上心が必要です。アスペルガー人は、その向上心にあふれています。哲学好きなので、悟りや解脱に到達した人といった崇高な存在への憧れをもち、そうなりたいと願っているのが理由のひとつです。また、完璧主義、かつ劣等感が強いから、自身を成長させたい、という無意識の欲求もあります。とはいえ、向上心については極端な傾向があり、向上心のかけらもなくニートになりやすいアスペルガー人も少なからず存在します。
 アスペルガー人は、その症状によって日々の生活で困ることが多いので、どうにか救われたいという思いがあります。そこで向上心の高いアスペルガー人は、改善のための努力を繰り返します。人生に苦労の多いアスペルガー人ですが、たゆまぬ努力によって、自分で人生を切り開いていくことができるのです。

礼儀正しい
 一部の隠れアスペに限定されますが、礼儀正しく美しい所作を好むという長所もあります。
 礼儀正しく振る舞うことは、少々息の詰まる行為です。そのため、時間がたつとだらけた所作になってしまいがちですが、その点、隠れアスペルガー人は違います。彼らは基本的に美意識が高く、美しい物や芸術を好みます。美意識に関係する脳の神経部位が、先天的に発達しているからだと推測されますが、その高い美意識が言葉づかいや行動にも反映するため、隠れアスペルガー人は優雅なふるまいをするのです。
 また、人から嫌われること、悪く思われることに強い恐怖心をもっているので、印象を良くしようとして無意識に礼儀正しくしている可能性もあります。ともあれ、美しい所作と礼節をもったふるまいは、大変好ましいものです。

空気を読むのが異常に得意
「アスペルガーは空気を読めない」とよく言われますが、隠れアスペの中でも軽度の女性には、「空気を読みすぎるくらい読む」人が少なくありません。彼女らは、好むと好まざるとにかかわらず、犬の嗅覚のように敏感に周囲の人の気持ちを察します。これは、劣等感が強く、常に人の顔色をうかがっているからです。また、視覚的な情報収集に長けているため、相手の表情や言動のわずかな変化をすばやく察知することができます。理由はわかりませんが、においや空気といった抽象的な要素でできている雰囲気についても、その違いを敏感に感じ取ることができます。
 良いことばかりとは言えない能力ですが、細やかな気配りで評価されることは多いはずです。こういう能力が高い人は、カウンセラーやセラピストなど、人の気持ちに寄り添う仕事に向いています。

美男美女が多い
 不思議に思われるでしょうが、アスペには美男美女がおおぜいいます。実際、モデルや俳優の中にはアスペルガー人が少なくありません。ただ、アスペルガー人は基本的に自分に自信がなく、歪んだ鏡で自分を見ているので、本人には美男美女であるという自覚があまりありません。なかには、その美しさから極端なナルシシズムに陥るイタい人もいますが……。
 なぜアスペに美男美女が多いのか? アスペは視覚情報に大きく頼って外部を認識する傾向が強いので、いつも目を大きく見開いています。そのため、パッチリした目をしている人が多いのです。また、これはあくまで推測ですが、脳の障害によって表情筋が特定の形に引っ張られ、たまたまきれいな顔の形をつくっているのではないかと思われます。ダウン症も先天性の脳の機能障害ですが、みんな同じような顔をしているのは、やはり表情筋が引っ張られているからです。

正義感が強い
 不正や悪行を糾弾し、世の中を正すことが必要だと思っても、実際に行動できる人はなかなかいません。しかし、アスペルガー人は気質として正義感を発揮しやすく、悪を糾弾する勇気をもっています。その正義感は、「社会のルールを守らなければならない」という意識の高さ、「自分には、世界に調和をもたらす役割が備わっている」という勝手な思い込みから来ています。また、神や魂といった崇高なものへの憧れがあり、自分がその代理人と思っている節もあります。
 正義感が強すぎて、無用なトラブルが生じる例もありますが、自分にはなんの利益もなくてもリスクを顧みず正義の声を上げられる、貴重な存在なのです。

度を超えたキレイ好きである
 アスペルガー人の部屋は、ものすごくキレイか、めちゃくちゃに散らかっているかのどちらかです。後者の場合でも、基本的に美意識が高く秩序を好むので、いったんスイッチが入ると寝る間も惜しんでキレイにします。アスペルガー人は完璧主義が多いので、やるとなったら徹底的にやるのです。
生きる力になる! アスペの知られざる能力
 アスペの長所には、人間的な魅力だけでなく、実生活に役立つものも数多くあります。特に仕事をする上で役立つ能力は、定型発達の人がおよびもつかないほど豊富です。短所の少ない隠れアスペなら、一流のビジネスパーソンになれる資質を大きくもち合わせています。
 できることとできないことの差が激しいアスペルガー人にとって、職業の選択というのは非常に重要な課題です。アスペルガー人が仕事を長続きさせるためには、長所を生かすことができ、かつ短所を刺激しない職業を選ぶこと。そのためにも、自分の長所を知ることが大切です。ここからは、そんなアスペの実用的な能力を紹介します。

学習能力が高い
 アスペルガー人の中でも、隠れアスペの人は基本的に何をやらせても上達が早い傾向にあります。子どもの頃から、勉強もスポーツもできるマルチ人間だったという人が、意外に多いのです。
「隠れ」でも、自分が周囲から浮いていると自覚している人は、「このままでは生きていけない」「変わらなければ」という追いつめられた心理状態になっています。そのため、勉強にもスポーツにも熱心に取り組むようになります。こうして、ただでさえ器質的に高い学習能力がより上がるのだと考えられます。覚えるのが早く、学ぶことが楽しくなると、もっと学習に熱が入り、さらに覚えられるという良い循環が起こります。学習能力の高さから、隠れアスペルガー人は基本的に秀才が多く、日常生活でも仕事でも高い能力を発揮します。

IQが高い
 前章でも紹介しましたが、アスペルガー人の多くは通常より高いIQ(知能指数)をもっています。統計によると、真性アスペはIQ140以上という天才が多く、隠れアスペでもIQ120前後の秀才が多くいます(トニー・アトウッド『ガイドブック アスペルガー症候群―親と専門家のために』東京書籍、1999年、より)。なかには定型発達の平均値より低いIQのアスペルガー人もいますが、8割ほどが平均以上です。アスペルガー人は環境さえ整えば、仕事や研究などで大きな成果を上げるポテンシャルをもっているのです。

知識欲が旺盛である
 アスペルガー人はいろいろな方面に知識を求めます。「これを知らなければ大変なことになる」という根拠のない恐怖心があることや、アスペの特徴の一つである収集癖が知識についても発揮されることによるものだと思われます。
 知識があれば、それだけで社会を生き抜く力になります。司馬遼太郎は軽トラック1台分の古書を読みあさってから小説を書いていたそうです。また、物理学の天才・エドワード・ウィッテンが次々と新しい数式を作り出すことができたのは、数学に関する基礎知識の量が他の物理学者をはるかに凌駕しているからだそうです。「詰め込み式の学習は良くない」と言いますが、膨大な知識という土台があった上で、初めて創造力を発揮することができるのです。
 のちに解説しますが、蓄積した知識を論理的に体系化して再構築するのも得意ですから、コンサルタントやアドバイザーにも向いています。

視覚情報を瞬時に記憶できる
 旺盛な知識欲で集めた情報を、アスペルガー人は驚異的なスピードで大量に記憶できます。ただし、耳で聴いた話ではなく、目で見た情報に限ります。アスペルガー人の3分の1は、程度の差こそあれ、直感像(写真記憶)の能力があり、写真で撮ったかのように脳内に画像として保存できるのです。文章も、本のページを画像として記憶し、後から読み返すことができます。
 写真記憶ができないアスペルガー人でも、通常より高い視覚的記憶力をもっています。先天的に言語野に機能不全を抱えている代わりに、視覚野が異常に発達しているからだと推測されます。
 この高い記憶力は、研究者や医師など、知識の量がものを言う仕事に生かせる能力です。

コピーするのが得意
 視覚情報を記憶するのが得意なアスペルガー人は、物でも技術でも動作でも、見たままに再現する能力に長けています。無から有を創造するのは苦手ですが、既存のものをコピーするのは非常に得意なのです。
 アスペルガー人は、写真記憶の能力により細部や要点を素早く記憶できるのです。特に科学技術の分野では、情報の主体を視覚に頼るので、すばやく、かつ緻密に原型をコピーすることができます。アスペルガーの多い日本人がその特性をいかんなく発揮しているのです。たとえば、自動車がその典型でしょう。本来はアメリカの独壇場であった分野ですが、数年でまねし、さらには20年ほどで世界の市場を席巻してしまいました。古くにさかのぼれば、火縄銃がその能力の象徴と言えます。種子島に渡ってきた火縄銃を、鍛冶屋が数か月で模倣してしまい、しかもそれが数年で全国へと広まり、当時、世界最強の武力をもつに至りました。
 スポーツにおいても、一流選手の動きをまねするのが上手です。上達する一番の近道は、一流どころのまねをすること。我流で一から始めるよりも、変なクセが身につかないというメリットもあります。
 とはいえ、ただコピーするだけでは永遠に2番手から脱せられず、国際競争に置いていかれてしまいます。その点、アスペルガー人は原型から改善点を見出し、さらに優れたものに改良することも得意としているのです。

ルール化が得意
 ルール化とは、無秩序で不明瞭に見えるものの中から規則性を見つけ出し、文章や図で説明すること。たとえば、プレゼンで企画が通ったときに、どのような思考や言動が要因だったかルール化することで、次のプレゼンの成功率が上がります。逆に、プレゼンに失敗したときの言動もルール化し、繰り返さないようにすれば、同じ失敗を避けられます。
 一般の人は自分の言動をいちいちルール化することなどありませんが、アスペルガー人は、ルール化することが好きだし得意です。というのも、変則的なこと、正体不明なものがとにかく嫌いで、規則性を見つけないと落ち着かないのです。その結果、自らの思考や言動のルール化が進み、日常生活や仕事で失敗を繰り返すことがなく、成功を再現できるようになります。生きづらい人生の中でも、常に改善しながら生きていけるのがアスペルガー人なのです。

論理的に体系化することが得意
 先のルールを論理的に体系化することも得意で、それを他者に提供して職業に生かすこともできます。僕の仕事は、まさにそれです。
 アスペルガー人は、ゼロから物事を発想することは苦手ですが、既存の情報やアイデアを集めて論理的に分析し、体系的に整理することは得意なのです。繰り返しになりますが、アスペルガー人は規則性がない物事にストレスを感じます。だから、規則性を求めて情報などを体系化したがるのです。
 いくら良い情報でも、単体ではなんの役にも立ちません。複合的・重層的に情報を集め、優先順位を定めることで、初めて有益なソースとして働きます。しかし、これは根気のいる作業です。しかしアスペルガー人は、「そうしないと気持ち悪いから」と、せっせと体系化にいそしむのです。

数学に強い
 ビジネスの現場で活躍するために、数学のセンスは重要です。その点、アスペルガー人の中には、突出して数字に強い人が多くいます。あくまで推測ですが、数学に関係する神経領域の密度が濃いからでしょう。あるいは、数学は高度な緻密性、論理性が必要であり、自己完結性が強いという点でアスペの気質に合っているからとも考えられます。現に、アスペが多い日本の数学レベルは、依然として世界のトップクラスです。

ひとつのことを延々と続けられる
 普通だったら途中で飽きてしまうような地味で単純な作業も、アスペルガー人は飽きずに延々とやり続けられます。規則性を好むアスペルガー人にとって、変化の多い状態というのは極めて不快です。そして、同じことの繰り返しに快楽を感じやすい。さらに、興味の範囲が非常に狭いので、他のことに目移りしづらい。よって、多くの人が「つまらない」「苦痛だ」と感じるルーティンワークも、やすやすと習慣化することができるのです。
 たとえば理系の研究職では、何十回、何百回と同じ実験を繰り返すことが必要です。そういった基礎研究があってこそ、歴史的な大発見や優れた商品開発がなされているのです。黙々と同じことをやり続けられるアスペルガー人は、研究職にとても向いています。
 ノーベル賞を受賞できるような大発見をする人には、抜群に頭が良いだけではなく、つまらない研究作業を延々と続けられる能力が不可欠です。ちなみに、ノーベル賞受賞者にはアスペルガーが多いと言われています。
 ひとつのことを継続するのが苦ではないという性質は、さまざまな場面で必要とされる稀有な才能です。ただし、ひとつの方法だけに固執していると、イノベーションにより取り残される恐れがあるので、注意が必要です。

すさまじい意志力がある
 アスペルガー人には、白か黒、どちらか両極端に走る性質があります。やる気がないときは何もしませんが、いったんスイッチが入ると猛烈なパワーを発揮し、寝る間も惜しんで延々と物事に取り組みます。アスペは本当に極端で、ニートか病的なワーカホリック(仕事中毒)か、どちらかになることが多いのです。僕もかつて4年もニート生活を送っていましたが、今では完全なワーカホリックで、一年中、朝から晩まで仕事をしています。
 こうと決めたら寝る間も惜しんで物事に取り組む。このすさまじい意志力の根底には、「絶対にこれをしなければならない」という根拠のない強迫観念があります。アスペルガー人は強迫観念によってさまざまな症状を後押しされているのですが、意志力もそのひとつです。
 この意志力が仕事に向かえば、当然、職業人として大きな成果を収めることができます。しかも、特定の分野で並はずれた才能をもっているので、そこにうまくハマれば、名を残すほどの活躍ができるでしょう。

「一極集中」が得意
 特定の分野で活躍するためには、時間、労力、お金、知恵、情熱などのリソースを「一極集中」で投入することが必須です。しかし、多くの人は周辺のさまざまなことに気を取られ、一点に集中することができません。
 その点、アスペルガー人はもともと興味の対象が非常に限られています。そしていったんスイッチが入ると、誰よりも高い集中力で、一点に全精力を注ぎこむことができます。アスペならではの突出した才能をもっている分野であれば、極めて大きな成果を手に入れられるはずです。

時間を正確に守る
 言うまでもなく、仕事で成果を上げるためには時間管理が大切です。その点、アスペルガー人は、強迫観念的に時間を守ることに固執します(なかには遅刻魔もいますが)。規則性が乱れることに強い不安と恐怖、怒りを感じるからです。世界から見ると、日本の電車は奇跡的に時間に正確ですが、これが実現可能なのは、日本人の気質がアスペルガー的だからでしょう。
 仕事や勉学などで目標を達成するためには、漫然と流れに身を任せるのではなく、期限を掲げて実行することが大切です。アスペルガー人なら、期限を守ることに異常なほど執着し、目標達成の中心的担い手となれます。

ワーカホリックになれる
 ワーカホリックは仕事中毒という意味ですから、必ずしも良いことではありません。が、その道のプロフェッショナルとなるためには、一定期間仕事漬けになる必要があることは否めません。極端に走りやすいアスペルガー人は、ワーカホリックになるか、ニートになるか、どちらかしか選べません。「そこそこ頑張る」ということができないのです。どうせ極端に走るなら、ワーカホリックの方向へ走りたいところ。そうすれば、先天的な能力の高さとも相まって、素晴らしいスペシャリストになれることでしょう。

問題解決能力がある
 仕事などでトラブルに見舞われたとき、人はどうするか。問題を棚上げして回避する。心が折れて思考停止に陥る。根治的解決に向けて努力する。だいたい、この3パターンのいずれかになると思います。意外なことに、アスペルガー人は3番目の行動に出る人が多いのです。当然のことながら、解決に向けて努力するのが一番建設的です。問題が最小限で抑えられ、解決のためのノウハウが蓄積され、自身の成長にもつながります。
 責任感が強く真面目なアスペルガー人は、人一倍、トラブルを深刻に受け止め、秩序や調和が乱れることに恐れを抱きます。そこで「なんとかしなくては!」と必死で解決のために奔走するのです。
 しかも、アスペルガー人の多くは総じて能力が高いので、たいがい生産的な形で解決を迎えることになります。精神的に許容できる範囲のトラブルであれば、本人の能力開発の良い機会ともなるのです。

観察力に優れている
 前に解説したとおり、アスペルガー人は視覚情報を記憶する能力が過剰なまでに発達しています。これは、観察力がずば抜けて優れていることを意味します。事実、視覚に頼った「間違い探し」をさせれば、右に出る者はいません。
 彼らは、優れた観察力で他人の行動パターンや動作など、細かいところによく気づきます。ここに持ち前の向上心が加わり、他人の良い部分を見つけたら得意のコピー能力で取り入れ、悪い部分は反面教師として自分の中から排除します。また、他人の問題点も見抜けるので、細やかで的確なアドバイスができます。これは、接客アドバイザーなどに適した長所です。

合理的思考が得意
 世界中を見ても、日本人ほど繊細な感情と感性をもっている民族はなかなかいません。優しさや思いやりがあり、空気を読む能力も高い。それは素晴らしいことなのですが、感情が邪魔をして合理的なビジネス展開を遅らせることもしばしば起こります。結果として、世界とのシビアな競争の場面で判断を誤り、負けてしまうことも。
 しかし、アスペルガー人なら邪魔な感情を排除して、ビジネスライクな合理的思考に徹することができます。「アスペルガー人は情緒的でない」とよく言われる原因の一つに、興味の範囲が極端に限局されていることがあげられます。その範囲外は単なる無駄なものとしか認識できず、なんの感情も湧きません。なので「役に立つか否か」「無駄かそうでないか」とシビアに判断することができるのです。この能力が合理的で効率的なビジネスを加速させます。
 何でも感情を排除すればいいというわけではありませんが、合理的に考えてこそ、初めて可能となる改善策、解決策があるのも事実です。たとえば、前社長の同級生が経営する企業との取引を、メリットが薄いと見ればあっさり他社に切り替える。こうして、ビジネスが効率化したり利益が上がったりするわけです。
 情緒的と言われてきた日本社会ですが、これからの時代を生き抜くために、今後は合理的なアスペルガー人が他を抜きん出て重用されるようになるでしょう。

「異質のフレーム」を構築できる
 先ほどお話ししたとおり、イノベーションを起こすには「異質のフレーム」を構築する必要があります。異質のフレームとは、平たく言うと「今までとは違ったものの見方」です。その点、生まれついての変わり者であるアスペルガー人は、普通の人とはまるで違ったものの見方をし、思いもよらない発想をすることができます。イノベーションと言えばアスペの独壇場なのです。
 イノベーションが多発すれば、経済の復興、科学技術の進展につながります。天然の変わり者であるアスペルガー人は、その担い手となることができるのです。

人に教えるのが上手
 アスペルガー人は、人にものを教えることが好きです。これは、世話好きで、人の上に立ちたがる気質によるものです。自己顕示欲を満たせるところ、雑談をする必要がなく要点だけを伝えればいいところも、アスペ好みのポイントです。
 彼らは、教えることが好きなだけでなく、とても上手です。物事を論理体系化することに長けているので、内容をわかりやすく教えることができるわけです。アスペルガー人は、教育や人材育成の分野でも大きく活躍できる資質をもっています。

直観力がある
「直観力」とは、論理的な思考を通さずに、正しい答えを出せる能力を指します。直観力があれば、人の本質を見極めたり、危機を回避したりと、さまざまな場面で的確な選択をすることができます。また、科学技術を進化させたり、高次の芸術を創造したりする仕事にも役立ちます。
 とはいえ、直観力はなかなか鍛えることができず、思いどおりに発揮することもできません。生来の気質によるところが大きいのですが、なぜかアスペには生まれつき直観の鋭い人が多いのです。理由ははっきりしませんが、視覚情報の過敏性、過剰な規則性をもっていることから、わずかな変化にも気づきやすいのかもしれません。
 この直観力を生かせば、他の人がまねできないセンスを発揮し、カリスマ的存在になれることでしょう。

アスペの才能を伸ばすためには

 アスペルガー人の才能の数々を見てきましたが、いかがでしたか? 「こんな才能があれば、社会で活躍するのは確実だ」そう思った人もいることでしょう。しかし、話はそう単純ではありません。いくら才能があったところで、それだけではなんの役にも立たないのです。
 世間では、才能が見つかればそれだけで心が充実し、やる気になるものだと勘違いされていますが、そんなことはあり得ません。才能とやる気は別物であり、いくら才能があっても、やる気がなければ生かすことができないのです。
 また、才能というのは「特別なもの」だと思い込んで、自分が先天的に備えている能力を才能だと認められない人が多いのも問題です。生まれつきもっているものには、なかなか価値を見出すことができないものです。せっかく素晴らしい才能が自分の中にあるのに、「どこかに才能はないか」とさまよい歩く「青い鳥症候群」になってはいませんか? そんなことでは「自分にはなんの才能もない」と落ち込んでしまうのがオチです。
 特にアスペルガー人は劣等感が強いので、自分の才能を過小評価しがちです。劣等感というフィルターを通して見ると、「こんなこと、たいしたことない」「誰だってこれくらいできる」と、無価値の方向に帰結させてしまう。せっかく素晴らしい才能をもっているのに、それを見出すことができず、伸ばすこともできず、アスペのマイナスの症状だけにフォーカスして生きづらい人生を自ら選択してしまうのです。
 そんなことにならないように、僕のセッションでは、まず本人が無価値だと思い込んでいる才能を見つけ出します。次に、才能の邪魔になる劣等感やその他のマイナスの症状を取り払います。そして、やる気が出るようにトレーニングをし、才能を伸ばしていきます。最後に、才能を生かした職業に就けるようにサポートをします。
 僕のセッションでは、隠れアスペに限れば、マイナスの症状の6〜8割は大幅に改善します。また、隠れアスペの9割近くの方が無事就職を果たし、卒業していきます。アスペの中でも、隠れアスペは社会で活躍できる可能性が十分にあると言ったのは本当なのです。
 もう一度言いますが、アスペルガーは、才能です。その才能を埋もれさせるか、輝かせるかは、自分次第なのだということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

◎こんなにあった! アスペの人間的魅力

素直である
純粋である
人を信じやすい
優しい
「人を守りたい」という気持ちが強い
使命感が強い
真面目である
聴き上手である
責任感が強い
ネガティブな感情への共感性が高い
向上心が強い
礼儀正しい
空気を読むのが異常に得意
美男美女が多い
正義感が強い
度を超えたキレイ好きである
◎生きる力になる! アスペの知られざる能力

学習能力が高い
IQが高い
知識欲が旺盛である
視覚情報を瞬時に記憶できる
コピーするのが得意
ルール化が得意
論理的に体系化することが得意
数学に強い
ひとつのことを延々と続けられる
すさまじい意志力がある
「一極集中」が得意
時間を正確に守る
ワーカホリックになれる
問題解決能力がある
観察力に優れている
合理的思考が得意
「異質のフレーム」を構築できる
人に教えるのが上手
直観力がある


【3章】“君の生きづらさ”について話そう


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