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日本の「医療大麻」解禁の是非に一石を投じて

文:高樹沙耶

 世界的な大麻解禁の流れのなかでひとりの日本人青年が医療大麻の治療を望み世界を旅する異色の青春ノンフィクション『マリフアナ青春治療』(工藤悠平 著/KKベストセラーズ)が話題になっている。コラムニスト町山智浩氏も絶賛し、推薦文を帯に記した。著者工藤氏は本文の中で、じつは日本の医療大麻の解禁を求めて参院選に立候補した女優・高樹沙耶氏に面会に行っていたのだ。彼女との出逢いは彼の人生を大きく変えるきっかけとなった。そんな高樹沙耶氏に「いまもあるという、出馬後のバッシングの嵐のなかで何を考えて来たのか」「日本の医療大麻の解禁は今後あるのか」について緊急寄稿してもらった。奇しくも4月20日は『マリフアナ記念日』である。

東京を離れ、国を出た男の選択は吉と出るか凶と出るか…

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石垣島で暮らす高樹沙耶さん

 私が医療大麻について公に発言を始めて6年という月日が経過した。

 3.11をキッカケに芸能界を辞め、退路を断って、参院選に医療大麻の研究推進、大麻取締法の見直しという当時としては前例のない、トンデモ公約を掲げ出馬して、後に逮捕に至ったのが2016年10月。

 私の場合、有名人の特別扱いで逮捕の後は3ヶ月間の独居房と、4回にも及ぶ裁判で合計半年程の身動きの取れない生活を送ったのち、懲役一年、執行猶予三年の判決を言い渡された。2017年4月の終わりに執行猶予という俗に言うところの弁当持ちの身ながらも、やっと自由の身となった。

 あれからそろそろ3年が過ぎようとする頃、今年の3月に工藤さんが本を出版するという情報をネット内で見かけた。
 そのすぐ後に本書の推薦文の執筆依頼を編集部から受け、世界中が新型コロナウイルス禍で激変する今、こうして原稿に向き合っている。

 私と工藤さんの出会いは2018年5月。最初は私の経営するエコロッジ“虹の豆”に泊まりにきた客の一人であった。

 彼は、石垣へ遊びに……というより、私に会いに来たのだ。

 その時の経緯は本書の中にあるのでここでは詳しくは書かない。
 海外で医療大麻を体験し、救われた体験談とそしてお詫びのような思いを私に打ち明けに来てくれたのだった。

『初対面の青年から何のお詫び?』と思い、話を聞けば、選挙に出馬した当時“高樹沙耶が立候補した事は知っていて、選挙権も持ってはいたが投票しなかった。海外で医療大麻の効果を自身の身体で知った今、医療大麻で出馬をした事への敬意と、あの時タレント候補の票集めだと思い、貴女には投票せず、無関心であったことを悔いた”ということを打ち明けにきてくれたのだった。
 彼の訪問は、お詫びどころか選挙に出て多くの方を盛り上げたあと、逮捕によってガッカリさせたと意気消沈していた私には嬉しい訪問だった。
 それにあの時の参院選への立候補は、準備期間もほとんどないなかで“医療大麻”という言葉を多くの人に知らせる事が一番の目的であった。当選や法改正を夢見たりはしたが、そんなに簡単にはいかない事も当時は覚悟での出馬だったので、彼からの告白は私の活動が無駄では無かった事を感じさせてくれる嬉しいものだった。

 しかも『マリフアナ青春治療』の中での私の書かれ方は『日本における大麻の第一人者』やら『そのきれいさに驚き』なんて、お世辞としてもオバさんを喜ばせる嬉しいものだった。

『そのきれいさに~』はお世辞でも嬉しいのでありがたく頂戴しておくが、前者の『日本における大麻の第一人者』に関しては謹んで辞退を表明したい。

 大麻の法改正運動に賛同したり、関わってきたりした方々には周知の事実だと思うが、実は本書の中には私以外のホンモノの『日本における大麻の第一人者』が何度か登場している。

 第1章で紹介された前田耕一氏だ。本書の中では『NPO法人医療大麻を考える会』の代表の肩書きだが、他にも大麻に関する正しい情報を発信するショップ『大麻堂』のオーナーや“麻枝光一”のペンネームで若き日の自分探しの旅を記した『マリファナ青春旅行』の著作を持つ作家として多くの顔を持ち、人生の全てを大麻解放にかけていると言っても過言ではないほどの人物なのだ。

 何年か後、この国の法律が変わり、大麻草の利用が解禁された日には前田氏の功績は日本の大麻産業のファーストペンギン中のファーストペンギンとして称えられるほどだろう。彼は古くからこの国のシステムと戦ってきた。そしてそれは、今も続いている。

マリファナ(医療大麻)での治療に一縷の望みをかけ必死に生き延びようと海を超えた物語

蜀咏悄

 そしてもうお気付きの方もいるとは思うが本書のタイトルである『マリフアナ青春治療』は前出の前田(麻枝)氏の著作『マリファナ青春旅行』へ敬意を表したアンサータイトルになっているのだ。

 これは私の想像ではあるが前田氏との出会いがなければ、本書は違うものになっていたほど前田氏と著者の結びつきは深かったはずだ。

 今から約30年前、マリファナ(大麻)を切り口に始まった前田氏の自分探しの旅は時を超え、自身に降りかかる災難をマリファナ(医療大麻)での治療に一縷の望みをかけ必死に生き延びようと海を超えた著者の自分癒しの旅へと繋がっていく。

 そう、本書は日本では違法の大麻を海外で使って難病を癒したというだけの物語ではない。

 勤勉で真面目な著者は会計士の国家免許の取得を目指していた中、頸椎ヘルニアと糖尿病という病により今までの人生設計や仕事、自分の住む国、そしてこの国の法律、いろんな事を立ち止まって考えさせられ、運命に決断を迫られる。

“強い薬で痛みを散らして、麻痺をしたままこの国で生きるか? それとも安住の地を離れ、海を渡って運命に立ち向かうか?”

 著者は治療により生活は制限され、多くのものを失いながらもマリファナでの代替医療に希望を見つけ海外を行き来する。その中で、海外での生活からさらに多くの知識や考え方、英語力を身に付けた。そして多くの体験やコミュニケーションを経る事で、見えない何かを手に入れながら成長していった。

 人間として成長した著者は決断する。

『日本を離れよう』と…。

 今までも知らなかったわけじゃないが無視できる程度の事だと考えていたさまざまな事が著者にはあった。大麻の事以外にも世界から見た日本や、この世界のシステムの危うさなど……。それらを知った著者は、現在“CDVID-19ウィルス禍で非常事態宣言が出された東京”からカナダに住民権を得て住んでいる。この本は痛みと引き換えに海外で生き抜く知恵と人間として大きな成長を手に入れた日本人青年の記録だ。そしてCDVID-19ウィルス禍で世界中の国が生き残りをかけ、変化を余儀なくされるこの状況の中ではこの物語は『つづく…。』のだ。

 医療大麻の為に東京を離れ、国を出た男の選択は吉と出るか凶と出るか……。激動の時代の著者の物語は始まったばかりだ。

 そうそう、話は最初に戻るが、私が大麻の法改正運動やエコ啓蒙活動をする中でよくネット上の匿名で『お前には説得力がない』とか『お前が喋るな』などと言われていたが、逮捕後はそんな声がさらに100倍くらいに増えた。その上『海外に移住しろ』だの『大麻の後遺症だ』など新しい書込みも加わり今もニュースサイトのコメント欄で私は定期的に炎上している。

 本書はそんな私には説得力がないと書き込み、考えている人達に是非とも読んで頂きたい。

 著者は、命と人生と残った時間と耐え難い痛み、色々な事を考えながら医療大麻に救われる。ギリギリの中で生きる著者が綴った言葉のの説得力を、是非とも感じていただきたい。

高樹 沙耶(たかぎ さや)/女優
 1963年8月21日、静岡県生まれ。石垣島のキャンピングロッジ虹の豆オーナー。1983年に主演映画『沙耶のいる透視図』で女優デビュー。以降、映画、TVドラマへ数多くの作品に出演。近年の代表作に『相棒』等がある。2002年、フリーダイビング競技の日本大会で、水深45mの日本新記録(当時)、同年11月にハワイで行われたフリーダイビングW杯で水深53mの日本新記録(当時)を達成。 2016年5月、参議院議員選挙に医療大麻の法改正を公約に新党改革より東京都選挙区で出馬するも、落選。 同年10月、大麻取締法違反(所持)の疑いで厚労省麻薬取締部に逮捕され、3ヶ月間の拘束と3度の裁判の結果、逮捕から半年後、有罪となる。
 著書に『贅沢な暮らし—衣食住が育む「心のラグジュアリー」』(エクスナレッジ)、『ホーリープラント 聖なる暮らし』(明窓出版)ほか。

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