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アラサー女が将棋始めてみた 第1回

第1回 はじめに

 とりあえず、この文章の内容は、ずばりタイトルそのもの、「アラサー女が将棋始めてみた」以上でも以下でもない。もともとは2018年の夏に<カクヨム>という投稿サイトにUPしたもので、まあ『やってみた動画』みたいなものだと思っていただければと思う。

 近所の公民館でおじさんたちと将棋を指すようになってはや1年と5か月。「下手の考え休むに似たり」という言葉の意味を痛感するようになった。考えていないのである。盤をにらんで、次の手を考えているように見えて、考えていないのである。完全に、考えていないのである。

 目の前にいる、将棋好きのおじさんは「うーん手がないなー」とかなんとか言いながら、明らかに次の手を考えている。なのにわたしは、なにも考えず、ただただ盤面を見つめているだけなのである。

 ―これは一体どういうことなのか。この断絶は一体なんなのか。

 おじさんたちは駒落ちといって、ハンデとして六枚とか四枚とか、駒を落としている。どこからどう考えても明らかにわたしのほうが次の手があるはずなのに、わたしは次の手が分からない。

 考える、ということは、人間のとても原初的な能力だと思うのだけれど、公民館のおじさんたちにはその能力の違いをまざまざと見せつけられている感じがする。

 そうだ、わたしは小学校で九九を習い始めたあたりから、算数が絶望的に苦手で、中学の数学もボロボロのズタズタだった。数字が苦手=考える力がない、というのは短絡思考なのだろうけれど、わたしの場合、事実その通りなのである。

 そして、その公民館での1時間は、なすすべもなく負けるか、あるいはおじさんたちのやさしさでヒントをふんだんにもらってどうにかこうにか勝利(なのだろうか?)するかのどちらかなのである。


 そもそもの発端は、2016年の12月だったか、2017年の1月だったかにさかのぼる。

 その日、いつも通りNHKのクローズアップ現代をぼーっと眺めていると、一人のおじいさんが将棋盤を前にする様子が画面に映っていた。

 そのおじいさんは丸々と太っていて、例えるならNHKのキャラクターのがんこちゃんにそっくりで……ここまでくればもうご理解いただけると思う。加藤一二三先生である。民放でいうところの「ひふみん」である。

 その可愛らしい人物は、将棋盤を挟んだ状態でおもむろにカマンベールチーズを食べ始めた。びっくりした。フリーダムかよと思った。

 これがわたしと将棋の、衝撃的な出会いだった。

 その加藤先生が対していた相手が、藤井聡太さん。当時中学生であり、この一戦から連勝が始まることになる。

 なんだこれ、歯のないおじいさんと、ニキビなんかつけた中学生が将棋指してるぞ。しかもどっちもプロだ。え、どういうこと。

 そこですでにわたしの脳みそはキャパシティオーバー気味で、もうここでこの手の競技に向かないような気がしたが、とにかくわたしはその番組を見た後、どうしても将棋を覚えたくなって、スマホに駒の動きやルールから解説してくれる初心者向け将棋アプリを入れた。

 実を言うと、我が家にはわたしが子供のころに欲しがって買った任天堂の折り畳み将棋盤と駒がある。小学生のころ羽生さんの活躍が話題になり、当時から超ミーハーなガキンチョだったわたしは、近所のおもちゃ屋さんで将棋盤と駒をねだったのである。

 けれども子供時代は駒の動きもうろ覚えで、特に銀がどう動くのかよく分からなかった。とりあえず母を相手に何回か指しただろうか。結局身についたり覚えたりすることなく将棋に対する興味もなくなり、母は将棋セットを学童保育の仕事場に持って行ってしまった。

 それで今、モニョモニョ年経って、学童保育から戻ってきた将棋盤と再び友達になった。

 基本的に、わたしは趣味を増やすのが趣味である。多肉植物だの着物だのほかにもいろいろと、いかにもこじれたオタク女がハマりそうな趣味をいろいろ持っている。そしてこのようにカクヨムに書いたものを載せていたということは、要するに小説家志望でもある。まあこれはエッセイだけれども。

 どうやらわたしは「勉強することが無限にある」という状況が大好きなようだ。そして、その「勉強することが無限にある」の新たなる対象が、将棋だったのである。

 わたしは中卒だ。たぶん、この学歴で「勉強することが無限にある」という状況が好き、と言っても信じてもらえないかもしれないが、事実そうなのである。

 多肉植物だって土を配合し農薬を使うところまできたし、着物だって縫い方を教わるところまできた。

 話を元に戻す。

 クローズアップ現代を見て衝撃を受けたころ、やっぱりNHKで「3月のライオン」のアニメを観ていた。最初は「ネコチャンかわいい」「川本家三姉妹かわいい」みたいにして観ていた。けれど、だんだんと込み入った、将棋と人間のかかわりを掘り下げた内容になるにつれて、「深い……」と思いながら観るようになった。

 とにかく、3月のライオン、加藤先生、それから藤井聡太さんの活躍が、明らかにわたしのミーハー心を刺激した。アラサー女であるわたしは、ものすごいミーハーなのである。

 それから何となくインストールしたアベマTVも将棋観戦にぴったりだった。アベマTVの将棋チャンネルは、藤井聡太さんの対局はだいたい観られるし、タイトル戦の中継もだいたいやっている。

 将棋の中継はじれったいし初心者には少し難しいこともあるけれど、大盤解説のプロ棋士の先生が聞き手の女流棋士の先生と無駄話をしているのを見るのも楽しい。

 将棋というのは、本当の本当に勉強することが無限にある。そして、盤を挟んで座れば、どんな歴戦のおじさんでも、わたしみたいな無知なアラサー女が相手だとしても、勝負相手として対等に見てくれるのである。なんてすばらしい世界だろう。もちろん駒落ち、という状態ではあるのだが。

 こういう、将棋にまつわるやくたいもないことを書いていきたいと思う。それは自分が思い出してモチベーションを上げるためでもあるし、記録するためでもある。

 そういう自分本位の記録だし、ここに書いてしまえば逃げ場がなくなってまじめに勉強するというのもあるし、もしそれで勉強に励んで棋力が上がり強くなれれば、ここで公民館最強のおじさんである支部長さんに、もちろん駒落ちだが手加減されないで勝利したぞと勝どきを挙げたいのだ。

 それに、おじさんたちの愉快な言動を、わたしが知っているだけではもったいない、というのもある。

 どうぞ、今後ともお付き合いいただければ幸いである。

「それでは、よろしくお願いします」。

Profile/金澤流都(かねざわるつ)
平成ヒトケタ生まれ。統合失調症を拾い高校を中退。その後ほんのちょっとアルバイトをしただけで、いまはライトノベル新人賞への投稿をしながら無職の暮らしをしている。両親と猫と暮らしている。
Twitter https://twitter.com/kanezya


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