悪質な葬儀業者の手口を知る【葬儀屋社長が語る業界裏話】『…死んじゃった。』vol.1
だいたいのことはwebで調べることができるようになったとはいえ「中の人しか知らない」ことや「意外な実態」というものが世の中にはたくさんあります。
例えば「葬儀」についてなどもそうでしょう。
亡骸をどうするのか、最初はどこへ連絡すべきなのか、葬儀屋は何をどこまでしてくれるのか、お金はいくら必要なのか…。
身近な人が亡くなった時にどうしていいかわかっている人なんてほんの一握りです。また、テーマがテーマだけに気軽に先輩たちに聞いてまわるのも憚られるでしょう。
そんな誰もが経験する一大イベントにも関わらず、その実態が見えづらい「葬儀」。
その内情について、葬儀屋の社長がリアルかつカジュアルに、あくまでお客様目線で語っていきます。
<執筆者プロフィール>
東京都出身。一級葬祭ディレクター。
曽祖父の代より営まれてきた葬儀会社の四代目社長。
ご遺族の気持ちに寄り添った式を執り行うことをモットーに、地元はもとよりインターネットを活用したサービスも展開している。また、地域社会への貢献にも積極的で、町内会の催しなどにも常に協力をしている。
葬儀屋社長の使命感
人は生まれた瞬間から決して戻すことのできない時間という軸を歩み始めます。そして人生という長い旅路を終え、新たな旅立ちである「死」を迎えるのです。
私は曽祖父の代から、都内で葬儀を生業とする者。これまでに、数えきれない「死」に直面したドラマを垣間見てきました。なかでも大切なご家族が亡くなるということは、誰にとっても悲しいできごと。私たち葬儀屋は、そうした悲しみに打ちひしがれているご遺族に替わって、この「死」という新たな旅立ちを故人への花向けとして、執り行う業者です。
当たり前ですが、人が亡くなる原因は様々です。老衰で亡くなる方、病気を患って亡くなる方、なかには事故による不慮の死もあるでしょう。
しかし、いずれにケースにおいても、ご家族にとっては悲しみに暮れている時間はありません。旅立ちに向けてめまぐるしい準備をしなければならないのです。そして、そこで私たち葬儀屋の出番となります。
ところで、葬儀屋にはいろいろな「業者」がいることをご存知ですか?
葬儀のしきたりや慣習、マナーなどについては他の方にお任せするとして、本稿では同業者だから語ることのできる葬儀屋の「顔」についてお話しをしながら、その裏側をお伝えしていきたいと思います。
なぜなら、この業界にはご遺族の気持ちを斟酌することなく悪質な行為を繰り返す業者も多く、この世界に生きる者にしか警鐘を鳴らすことができないと考えたからです。
時代とともに変わる葬儀の形
「…ご臨終です」
そう医師から告げられた瞬間、あなたの生活は一変します。たとえば年老いたご家族を介護されていた家庭。これまで看病や介護を頑張っていた生活は終わりを告げ、おおよそ一週間以内に葬儀をしなければなりません。
悲しいことですが、これは誰もがいつかは経験しなければならないことでもあります。
昨今、葬儀の形はだいぶ変わりました。これまで「最後の親孝行だから、できるだけの事はしてあげよう」という気持ちでのぞんでいたものから「今まで面倒を見てきたんだから、これ以上の無理をする必要は無いんじゃないか…」へと。
このような気持ちの変化には、終末医療費や介護費用が予想以上にかかったため葬儀費用を捻出するのが難しくなっていることや、ご遺族の兄弟、つまり故人の子どもの数が少なく、分担する葬儀代の負担が大きくなったことが挙げられるでしょう。
また、地元町会などのコミュニティーの崩壊や会社内の虚礼廃止など、かつて葬儀には必ず連絡をしなければならなかった関係者が少なくなったことも影響していると考えられます。
こうした背景を受け、新たに生まれた葬儀の形が「家族葬」です。これは故人の関係者などへは連絡せず、家族だけで葬儀を執り行うものです。
時代の移ろいを感じますが、この「家族葬」こそ私の会社で最も多くご依頼いただくもので、その数は葬儀全体の約8割にものぼります。
さらに、より質素に葬儀を済ませようと考える方もいらっしゃって、そうした場合には「直葬」、つまり火葬のみというスタイルも増え続けています。
「前にお葬式に参列したのはいつだっけ?」
「祖父が亡くなったのはずいぶん前だし、親がやっていたからわからない」
「いざとなったらネットで調べればいいかな?」
このような方は多いと思いますが、一般の方が「葬儀」に触れる機会がどんどん減っているのですから当然です。そして、家族葬や直葬が増えることによって減収傾向にある葬儀屋が増えています。そうなれば当然、この収益減少を食い止めようと考える葬儀屋も出てくるというわけなのです。
葬儀屋との出会い
「死」に直面した時というのは誰もが動揺するものです。でも、そんな時だからこそ「悪徳葬儀屋」には十分に気をつけていただきたいのです。
「まさか? そんな業者がいるなんて…」と思うお気持ちはわかりますが、悪徳葬儀屋は実在します。
彼らの口車に乗らないためにはまず、葬儀屋の種類を知ることが重要です。今回は専門業者と互助会があるというような基本的な話ではなく、集客している場所の違いで分けていこうと思います。
葬儀屋の間では、その業態は集客先に応じて「○○業者」と呼ばれます。例えば「病院業者」「警察業者」「寺業者」「地元業者」などがこれに当たります。この中でも、特に注意したいのが「病院業者」。なぜなら、人が亡くなる場所の8割以上が病院だからです。
病院で、ご家族の誰かが終末医療を受けていたとしましょう。ご家族であれば、ある程度の覚悟をしているはず。でも、いざ亡くなった時にすぐに死を受け止めて冷静になれる人など100%いません。その心の隙間を狙ってくるのが「病院業者」なのです。
なぜそんなことがわかるのかといえば、私自身が部分的に「病院業者」だからです。こう書くと誤解を招きそうなのでお断りしておきますが「病院業者」=「悪徳業者」ではありません。そもそも「病院業者」というのは持ち回り制になっています。
地元の業者が、24時間体制で亡くなった方を送り出すために自分の当番月に病院へ詰める、というのが習わしなのです。都内を例にすると、ベッドの数が400以上ある病院には「病院業者」が間違いなくいるでしょう。
彼らの役割は、病棟の看護士の負担軽減のために亡くなった方を病棟から霊安室まで院内搬送(移動)することと、その方を霊安室に安置している間の管理になります。
さて、ここからが本音です。
私も含めて葬儀屋にはいわゆる「営業の場」がほとんどありません。しかし、人の死に際して「うちをよろしくお願いします!」と声高に触れ回ったりすれば、不謹慎だと言われて評判を落とすだけでしょう。そのため、葬儀屋にとって詰めている病院というのは、ご遺族に一番早く接触できる貴重な営業場所なのです。
ただし、悪徳業者になり果てるかどうかは、葬儀屋の心得次第。その見極めが重要です。では、悪徳業者の口車について、2つのケースを例にしてお話ししましょう。
病院業者の手口
■Case1 病院関係者のように振る舞う
彼らはたいてい、白衣を着ています。そのため、一見すると病院の職員と間違えるかもしれません。とても丁寧な言葉づかいと態度で時には数人で接してくることもあります。ここで、動揺しているご遺族は彼らを病院関係者と勘違いしがちなのです。
「こちらには大変お世話になりました」などと言ってしまえば、十中八九こう返ってくるでしょう。
「御自宅までお送りすることもできますが、いかがしますか?」
でもご注意を。
寝台車に乗せた時点からこの葬儀業者への料金が発生します。病院ではご自宅までの搬送は絶対にしません。死亡診断をするところまでが病院の仕事であり、その後は各自でお願いします、というルールなのです。
亡骸を引き取って自宅まで運ぶことはご遺族のすべきこと。そのため、寝台車に乗せることは葬儀屋への業務依頼となってしまうのです。もちろん、どの業種においてもそうですが、基本的に無料で動く人はいません。つまり、自宅まで送っていただいたとしたら、後からその人が葬儀屋だと気がついても自宅までの搬送代は請求されてしまうのです。
私が聞いた中には、都内20km圏内の搬送で20万円を請求されたケースがありました…。これはいくらなんでもやりすぎでしょう。
■Case2 指定業者の肩書を利用する
「私は○○様の、この後のことを相談させていただきます。何なりとお申しつけください」
そう言って差し出された名刺に「○○病院指定業者」の肩書が入っていたら、たいていの人はこう思います。
「この病院の指定業者なら安心だろう」
しかし、それこそ彼らの思う壺。これからどうしたら良いかなどと聞いてしまったら「まずはドライアイスなどで保全処置をしていただくことを強くおすすめします。すぐにご準備いたしますか?」と返ってきます。
人の体は「死」と同時に腐敗が始まります。それを遅らせるために施す処置がドライアイス。例えは良くありませんが、スーパーで鮮魚を買ったときに氷を入れて冷やすのと同じです。
もちろんこの処置は必要なプロセスですので、すかさず「お願いします」と言ってしまいそうです。ただし、これも先ほどの搬送と同じで「頼む=業務発生」となることにご注意ください。
ドライアイス処置を依頼した瞬間に「いくらかわからない料金」が発生します。例えばドライアイスを当てることで3万円「さらに良い状態にするために…」と薦められてエンバーミング処置などをお願いしたら、その費用は20万円(!)なんてこともあるのです。
こうしたお話をすると、皆さんは警戒されると思います。誰だってわざわざ高い業者にお願いしたくないですから。当然、他の葬儀屋と比較するための見積もりが欲しくなります。
ところが、ここにも落とし穴があります。私が聞いたところでは、なんと見積もりを作ってもらっただけで5万円の請求をする業者がいたのです。
365日24時間常時待機している病院業者というのは、人件費などを回収するためにも請求が高額になりがちです。「それなら値切ればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、それこそが彼らの術中にハマる最たるケースなのです。
「はい、もちろん出来ますよ。弊社に葬儀一切をお任せいただければ、これまでの料金はすべてサービスさせていただきます」
さて、そんなことを言われたらどうしますか?
こうして多くの人が高額な葬儀一式を依頼してしまうのです。
👇今回のPOINT👇
■亡骸を自宅に運んでもらうように依頼したら料金発生
■白衣を着て病院関係者のように振る舞う葬儀屋にはご注意
■見積りの依頼だけでも有料の業者が存在する
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