暑気払いの伝統食「そうめん」古来の旨しもので夏負けを防ぐ
夏の食べ物と言えば?と聞いたら、日本人なら「そうめん」と答える人が多いと思います。そんな日本人にとっての夏の定番食「そうめん」の成り立ちと、現在では夏の飲み会などによく使われる「暑気払い」の本来の意味を知ると、昔の人がどのようにして暑い夏を乗り切ってきたかがうかがえます。
※『一個人』2021年夏号より抜粋
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単なる「飲み会」ではない本来の暑気払いとは?
その名の通り「暑さをうち払う」ために、体に溜まった熱気をとり除くこと。暑気という言葉を使っているのは、暑さや熱そのものを払うだけでなく、弱った気(エネルギー)を元に戻して元気になろうという意味が込められる。江戸時代には飲食だけでなく、枇杷(びわ)の葉を煎じた薬をのんだり、薬湯に浸かることも暑気払いとして親しまれた。
「職人盡繪詞」より枇杷葉湯売り
夏が旬の麦で作られるそうめんは暑さ対策に効果的
コロナ禍の今年は、暑気払いができないとヤキモキしている諸兄姉も多いのではないでしょうか。しかし、飲み会は無理でも、家に居ながらにして暑気払いは充分にできるのです。暑さをうち払う効果のある伝統的な食材を食べ、行水(今ならシャワーか)など体を冷やす習慣を取り入れるとよいのです。
和文化研究科の三浦康子さんは、「暑い最中に行われる納涼会とは違い、暑気払いは気力にも関係があるので、夏本番になる前から始めましょう」と提案します。
昔から日本人は、旬の食材が体調を整える効果を大切にしながら暮らしてきました。たとえば6〜7月に収穫される麦は、夏の体調管理に欠かせません。食物繊維が豊富で、腸の機能を整えてくれるほか、食後血糖値の上昇を抑え、コレステロール値の低下を促す効果もあります。栄養価も高く、食欲が落ちる暑い時期に夏バテを防いでくれるからこそ、そうめんや冷麦が好まれてきました。同じく麦から造られるビールも、体を冷やし、利尿作用で体から不要なものを出してくれる飲み物で、まさに暑気払いには最適。
「江戸時代は、冷麦のことを切り麦と呼び、そうめんと同じくらい食べられていました。当時は、生地を薄く延ばして畳んで切るのが冷麦、手延べで細
くするのがそうめんでしたが、現在は太さで分類されます。どちらもうどんより細いため、茹で時間が短く暑い夏でも調理しやすいのが魅力。冷たくす
るとのどごしがよく、食欲がなくても食べやすいことから、特に夏場に重宝されてきました」
ちなみに奈良県にある大神(おおみわ)神社で、飢饉と疫病に苦しむ民の救済を祈願して作られたのが、手延べそうめんの始まり。乾燥させやすく保存性が高いので、江戸時代に伊勢参りが盛んになると全国へと普及していきました。
食べる際は、ぜひ薬味もいろいろ添えて。ビタミンB1の吸収を助け、疲労回復効果もあるネギ、殺菌力が強く、消化吸収を高めてくれるショウガ、すがすがしい香りが食欲をそそる大葉やミョウガは定番。スーパーフードとして注目のスプラウトも、手軽に栄養補給できておすすめです。
「職人尽歌合」 古来“手延べ”で作られた
そうめん
小麦粉に塩と水を加えてよくこね、よりをかけながら丁寧に引き延ばして作る。竿にかけ乾燥させるため、日持ちもよい。味噌ベースだったつけ汁が、現在のような出汁と醤油などの味付けになったのは、元禄の頃から。
そうめんは七夕の行事食でもある
七夕は、麦の収穫祝いも兼ねます。かつて中国では、7月7日に死んで悪鬼となった帝の子の霊を鎮めるため、索餅(さくべい)という小麦粉で作った縄状の菓子を供えました。その故事が日本に伝わり、七夕に索餅を食べて無病息災を祈願するように。やがてそうめんが、七夕の行事食となりました。
三浦康子さん 和文化研究家
All About暮らしの歳時記ガイド。順天堂大学非常勤講師。いにしえを紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、雑誌、講演などで提案し、子育て世代に「行事育」を提唱している。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)、監修書『おうち歳時記』(朝日新聞出版)ほか多数。https://wa-bunka.com/
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