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「ぬこ星人」中国を侵略す!

 猫、またの名を「喵星人(ミャオシンレン=ぬこ星人)」
 それは遠い宇宙からやってきた地球外生命体であり、モフモフの外見で人類の心を掴みながらも、密かに地球征服のチャンスを狙う可愛くも恐るべき異星人なのである──!

 そんな馬鹿な…とお思いの方。これは筆者の妄想でもなんでもなく、中国や香港、台湾を含む中華圏では猫好きなら誰でも知っている「定説」だ。

 猫の可愛さは、現代科学で説明できるレベルを越えている。見た目といい生態といい、なぜここまで人間の心をくすぐるのか。きっとそこには大いなる秘密が隠されているに違いない…といった具合で、結論として宇宙から地球を侵略するためにやってきたことになってしまったようである。
 中国人がどこまで本気で信じているかどうかは別として、「ぬこ星人」という言葉は、今や熱狂的な猫好きだけにとどまらず、子供から大人までみんな普通に使う。

 どれくらいポピュラーな言葉かというと、中国でそこそこのベストセラーになった猫の飼い方をテーマとした『除了侵略地球,喵星人还在想些什么?』(四川人民出版社)という書籍があるのだが、タイトルを日本語に訳すと「地球侵略のほかに『ぬこ星人』は何を考えているのか?」
 といっても、実際に読んでみると書かれているのはおしっこのしつけ方とかだったりして、タイトル負け感この上なし。でも中国人にとっては、別に違和感はないようだ。

 それどころか、ほんの2年前までは中国で行われる猫の博覧会は「喵星人侵占地球名猫展(ぬこ星人地球侵略キャットショー)」が正式名称だった。古くは遊牧民族、近代では西欧列強、さらに我らが日本からと、幾度となく国土を蹂躙されてきた歴史を持つ中国なのに、「ぬこ星人」の侵略にはなぜか激甘
 日本の侵略は未来永劫忘れないが、ぬこは可愛いから許す。たぶんそんな感じなのだと思う。

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スマホひとつで買える中国猫

 中国猫事情で特徴的なのは、とにかく日本に比べて圧倒的に飼いやすいということだ。まず、ペットOK物件を探す必要がまるでない。例え大家からNGとか言われても大半の中国人は気にせず飼う。そして人気のある珍しい猫種でも、日本に比べると圧倒的に安かったりする。
 所得も物価も違うので単純比較はできないとはいえ、日本みたいにホームセンターのペットショップで折れ耳ねこが80万円なり、なんてことはない。

 そして、中国では猫をネット通販で買える。日本人の感覚としては、せめて実物見てから飼うかどうか決めたらどうよと思うけれど、決断がやたらと早い中国人は普通にタオパオのアプリなんかを使って猫をお迎えしてしまう。
 しかし、中国人は決断だけではなく、見切りも早い。
 何らかの事情で飼えなくなったり、飽きたりすると「ぬこ星人」をさくっと野生に帰す。何よりもメンツが大事な中国人にとって、珍しい猫は友達に自慢できる一種のステータス。さらにSNS映えの狙いもあって、金持ちでなくてもなかなかお高いにゃんこを飼っていたりするのだけれど、これをあっさり野に放つから実に不思議だ。
 そこに自由を求めて家を飛び出す脱走猫も加わったりするので、中国の路上は血統書付き猫の見本市みたいな趣きを漂わせる。

 自分が住んでいる北京某所のスラム系集合住宅に限ってもオッドアイ(両目の色が違う猫)の野良がいるほどで、ペルシャやマンチカンなんかの毛長猫も、路上感漂うビジュアルになりながらたくましく生き抜いている。
 どの猫も日本の野良ではなかなかお目にかかれない気品と野性感がミックスした独特の凄味があり、こんなところでも中国のワイルドなお国柄が見て取れる。

 飼うだけじゃなく、中国は野良猫への餌やりも果てしなく自由。ちょっと大きめの集合住宅ならまず間違いなく、餌付けをするおばちゃんがいる。プラスチックの容器とか空き缶くらい片付けなさいよ、などと因縁をつけられる心配がほぼないせいか、餌やりは皆さん豪快そのもの。
 洒落にならないレベルで路上がごみだらけの中国では、野良猫のおしっこやウンチなどは大した問題ではない。さらにエサの空き缶なんぞが路上に転がっていた日には、ごみ拾いで生計を立てている人が喜々としてかっさらっていく。 
 ゆえに、野良猫たちは食事に困ることなくズビズビ繁殖しまくり。猫好きにはたまらない環境とはいえ、去勢とかそういう思考ないのかしらとちょっと心配にもなってしまう。

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「ぬこ星人」には受難も多い

 宇宙から来た生命体として、中国人たちから一目置かれる存在である「ぬこ星人」。では中国は猫にとって暮らしやすい国であるかというと、そうとばかりも言えない。
 
 まず中国には「猫食」の伝統がある。足があるものは机以外何でも食べると言われる中国人。猫もその例外ではなく、広東省や広西チワン族自治区などの南部では猫も立派な食材だ。 
 幸い、中国の猫愛好家たちの抗議もあって、近年では猫はほとんど食べられなくなった。「ぬこ星人」の天敵とされる「汪星人(ワンシンレン)=わんこ星人」の方は、今でも根強く犬食文化が残る中国で、西部や南部を中心に広く食材とされており、それに比べればまだマシと言えなくもない。

 中国猫の受難はそれだけではない。猫を飼う中国人の一部には、愛猫をもっと可愛くするために動物病院に連れていき、整形を施す輩がいる。これは中国だけでなく韓国でも行われていて、両国ともにニュースで報じられ社会問題となった。

 人間の勝手な都合で、なんと非道な! と思うのが当たり前。でも、「ぬこ星人」からしてみたら「増えたら困るからという理由でタマタマを取ったりしているのはどうなのよ」という声が返ってくるかもしれない。
 いつか地球が「ぬこ星人」に完全に征服されて、人間が飼われる側になったとしよう。朝起きて気がついたら整形されていたのと去勢されていたのでは、果たしてどちらがよりマシか。おそらく人間だろうが「ぬこ星人」だろうが、どっちも嫌と言うはずだ。

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 だからといって猫の去勢を非難するつもりは毛頭ない。中国では自由に猫が飼えて、街中で気軽に野良猫と触れ合えるとはいえ、日本に比べたらやはり問題大アリなのは疑いようのない事実。日本にもいろいろ課題はあるとはいえ、猫リテラシーは中国よりも進んでいる。

 筆者の実家には、猫が7匹いる。たまに実家に帰ると猫にまみれた暮らしを送れるゆえ、年に何回かは用もないのに無理やり帰省する。主に猫の面倒を見ている妹に聞くと、いくら可愛いとはいえ7匹もいると毎日が戦争だと言っていた。1日たりとも家を空けられないし、調子が悪そうだったら病院にも連れて行かないといけない。命を預かるのは、かくも大変なことなのだ。
 可愛がられたり、捨てられたり、時に整形されそうになったりしながらも、中華の大地を徐々にその手に収めつつある「ぬこ星人」。はるばる宇宙からやってきたこの愛すべき友人に対して中国の人々が注ぐ愛情は、決して日本の愛猫家に劣るとは思わない

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 でも、もうちょっと丁寧にケアをしてあげてもいいんではなかろうか。猫に夕飯の残り物をあげるのはいいが、油ギトギトの中華料理はやめるべき。あと流行りに乗って猫カフェをオープンし、速攻商売替えした挙げ句、近所に野良猫が増えるのもいただけない。

 14億の中国人民たちよ、もっと「ぬこ星人」に心からのもてなしを。

<執筆者プロフィール>
もがき三太郎
日本の出版業界で雑誌編集者として働いていたが、やがて趣味と実益を兼ねた海外風俗遊びがライフワークとなる。現在は中国を拠点に、アジア諸国と日本を行き来しながら様々なメディアに社会問題からドラッグ事情まで、硬軟織り交ぜたリアルなルポを寄稿している。


 
 
 
 
 
 
 

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