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死人よりもご近所さんにご用心! 日中の事故物件に見る「お部屋探し」の真・極意

意図せずして事故物件に
住むことになった思い出

 かつて日本で7年ほど、事故物件に住んでいたことがある。
 別に自ら進んで事故物件に住みたいと思ったわけではない。引っ越して来たばかりの頃は普通のボロマンションだったのだが、1年ほどした頃に建物2階で独居老人の死体が見つかり、晴れて呪われた物件になったという次第。要は偶然が為せる技であった。

 ところが当時雑誌編集の仕事をしていた自分は、家に帰っても寝るだけといった生活を送っていたので自宅が事故物件化していることに5年間くらい全く気づかなかった。夜になっても周りの部屋に明かりがつかないので「おかしいな」と思っていた程度。その間にも隣人たちは続々とマンションから逃げ出し、気がついた時には住人は自分ひとりになっていたのだった。
 世の中にはあえて事故物件に住みたがる奇特な人もいると聞く。自分はそういうタイプではなく、人が死んでいようが何だろうが関係ないという考えで、もっと言うと単に引っ越しが面倒だった。ゆえに建て壊しが決まった後も放っておいたら、ある日いきなり大家が公共スペースの電気を全て切るという暴挙に出た。
 夜になると玄関から廊下まで漆黒の闇。これで怖がって逃げ出すだろうと思ったのだろうが、残念ながら自分はそういうの、嫌いじゃない。むしろバイオハザード感増し増しで、事故物件独り占めという得難い体験を存分に堪能していたのだが、大家から「頼むから出ていってくれ」という無条件降伏書が届けられた。

 その当時、自分は部屋の中にテントを張って暮らしていた。マンション唯一の住人は煩わしい近所付き合いがない反面、建物に救う害虫が全て我が家に移り住んでくるという弊害もある。それゆえテントは必須なのだが、これが最高に心地よい。寒い時期でも温室効果で暖房不要、というか天気のいい日には真冬ですらテント内でスイカが育てられそうなほど温度が上がり「夏だね!」と言ってすがすがしい朝を迎えられる。
 いいじゃない、事故物件
 正直言って自分はこの住環境を手放したくはなかったが、大家に迷惑をかけたくなかったので大人しく出ていくことにした。

死人の霊よりもよっぽど怖い
生きている人間

 以来、事故物件に関しては自分なりに仮説を持つようになった。本当の事故物件とは、人が死んでいるかどうかなど関係ないのではなかろうか。むしろ狂った隣人やモンスタークレーマーのご近所さんの方がよっぽど怖いと自分は思う。

 十数年前、大学時代に借りていたボロアパートは事故物件ではなかったが、その代わりに建物に取り付く死霊のごときヤバい人物がいた。かつて家賃未納で追い出され、現在は路上生活を送る中年オヤジが装甲を施したチャリンコでアパートの周囲をたびたびうろついていたんである。なんでもその人物、路上生活に堕ちながらも法律知識はべらぼうに詳しく、追い出される際にさんざんゴネてアパートに自分専用のポストを残させることに成功したらしい。
 アパートは全部で4部屋だったが、その男の分を含めてポストが5つあり、自分も夜中にヘルメットとバットで武装したオヤジが郵便物を取りに来ているところに遭遇したことが何度もあった。これぞまともな感覚の人ならば1日でも早く逃げ出したくなる正真正銘の事故物件で、霊やら怨念なんぞよりよっぽど身の危険を感じること間違いなし。ではあるが、日本ではやはり一般的には死人が出た物件の方が忌避されるのが実情のようだ。

 そして今、中国で暮らすようになり、事故物件について改めて考えるようになった。やはり心配すべきは死人の有無ではなく、近所に潜んでいるかもしれないヤバい人であり、また建物そのものの欠陥である。はっきり言えば、中国の賃貸物件は、かつてそこで人が死んでいたかどうかを気にする前に、もっと優先順位の高いチェックポイントがごまんとある。
 日本に比べると国全体が事故物件と言っても過言ではない中国、よほどの金持ちでなければまともな物件に住むことは能わず。ここでは中国の賃貸事情を通じて、本当に避けるべき事故物件とは何かということを考察してみたい。

中国の恐るべき「事故大家」

 中国は外国人でも仕事さえしていれば割と簡単に部屋を借りられる。むしろ外人がそれなりにいるエリアでは、日本人はきれいに部屋を使うといって喜んで貸してくれたりするほどだ。手続きも極めて簡単で、スマホのアプリを操作するだけで全て済んでしまうこともある。
 部屋を借りるためには不動産屋に行く方法もあるが、ローカルの中国人は賃貸物件サイトで物件探しをするケースが多い。理由は単純で、その方が家賃や仲介料金が安いからなのだが、ここに実は落とし穴がある。ほとんど詐欺師と紙一重の「事故大家」が珍しくないからだ。

 まずモメるのは、家賃の値上げ。住み始めたとたん「やっぱり出ていってくれ」なんてことは日常茶飯事で、修繕が必要になるたびにタケノコはぎの如く金を請求してくる銭の亡者のような大家も多い。中国の大家には、住人といい関係を築いてできるだけ長く借りて欲しいという意識は希薄である。できれば数年で住人を入れ替えた方が家賃を上げやすい、くらいの考えで猛烈に圧力をかけてくる。
 それらはまだ我慢できるにしても、しばらく家を空けて帰ってきたら別の人間が住んでいた、なんて話にも事欠かない。日本の感覚では全く理解できないが、部屋を又貸しする大家がいるんである。部屋を見る前に大家の人間性をまずしっかり見極めないといけないのが中国賃貸の極意。もちろん相手の方が海千山千の猛者なので、長く中国に暮らす人でもうっかりババを引くことがある。

 運良く人のいい大家に出会えたとしても、集合住宅であれば狂った隣人がいる。必ずといっていいほどひとりやふたりは必ずいる。筆者が現在暮らすのは北京市の中心部で、ベラボーに高い家賃のくせして外観は死霊の館としか形容できない年代物のシロモノ。
 それはいいとしても、毎夜毎夜大音量でAV鑑賞して建物内に喘ぎ声を響き渡らせるおっさんや、突然奇声を上げる若い女子など同じ棟だけでもなかなかのスター揃いで、しかも中国の基準だとこのくらいでは「事故」とは見なされない。


 現状自分が最も注目しているのはすれ違った人全員に喧嘩を売ってくる謎の徘徊オヤジで、さすがにこれは住民たちも問題と思ったのかマンションの各階に危険人物注意の張り紙(写真入り)が回ってきた。結構気合いを入れて部屋探しをしたつもりだったが、中国に来てまたしも事故物件を掴んでしまったようだ。もっとも今ではこの程度のことを気にしていては部屋なんぞ借りられないと割り切り、割と快適に暮らしている。

事故物件だらけの中国だが
いい面もいっぱい

 まともな物件を探す方が難しい中国ではあるが、日本では考えられないほど気楽な部分もまた多い。少々おかしな隣人がいようが大した問題にならず、下手したら殺人事件が起きた部屋すらすぐに借り手がつきそうな中国では、日本であれば何かと煩わしいご近所さんへの気遣いというものがほとんど必要ない

 日本で部屋を借りる時、不動産屋で契約する際にあれはダメこれはダメといちいち念押しされて辟易とした経験が筆者にも幾度となくあるが、中国ではそんな面倒はなく、例えあったとしても肝の太い中国人はそんな話をまともに聞いたりすることはない。日本ではしばしば来日中国人による賃貸トラブルが話題になるが、あれは中国の生活習慣をそのまま日本に持ち込んでいるからだ。
 ペットは飼いたければ飼う。ゴミは適当に捨てる。マンションの廊下でも平気でタバコを吸って、下手したら火がついたままその辺に投げ捨てる。ひと部屋に2段ベッドを限界いっぱい持ち込んでタコ部屋暮らしをする連中もザラにいる。隣人からしたらたまったものではないが、裏返せば自分にもその自由が許されているということでもある。

 これが、なんとも心地よい。中国人は自分の不利益にならない限り、知らない人間に干渉しない。よほど高い金を積んで高級マンションにすまない限り住居トラブルからは無縁でいられない反面、日本の賃貸で避けられない神経をすり減らすような気遣いからは開放される。隣の部屋がうるさかったり、近所を徘徊する様子のおかしなおっさんなどを無視できる神経の太さがあれば、実はなかなか住めば都なんである。

 中国は修羅の国。日常の中のあちこちに思わぬ落とし穴が待ち構えており、それらを避けるため、また誰かに騙されないために常に一定の緊張を強いられる。この地で生き抜くために恐れるべきは死者ではなく、生きている人間だ
 「大島てる」をいくら見ても、近所に住む奇人変人情報は得られない。これから引っ越しを考えている方は、ぜひそんなことにも留意して、住み心地のよい新居探しをしていただきたいと願う次第である。

<執筆者プロフィール>
もがき三太郎
出版業界で雑誌編集者として働いていたが、やがて趣味と実益を兼ねた海外風俗遊びがライフワークとなる。現在は中国を拠点に、アジア諸国と日本を行き来しながら様々なメディアに社会問題からドラッグ事情まで、硬軟織り交ぜたリアルなルポを寄稿している。


 
 

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中国からこんにちは-40男のJUNKレポート ※一部エロ有

中国在住・40過ぎの元雑誌編集者が、日本とアジア(主に中国)を飛び回って見聞きし、思ったことや感じたことを徒然とお届けするカオスなマガジンです。 ピュアな純愛ネタからセックス関連記事まで、扱うテーマの振り幅が大きいため、女性とピクシー系男子は閲覧注意でお願いしますm(__)m
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