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老犬ホームは愛犬を手放す場所ではない from『柴犬ライフ』

 柴犬の平均寿命は12~15歳と、中型犬の中では長寿の部類。近年では15歳を超える子も多くなっています。しかし「柴犬の長寿化」により、介護を必要とする子が増えているのも事実です。日本犬は生まれつき認知症になりやすく、「カラダは元気なのに介護が必要」なケースも少なくありません。
 長寿犬との幸せな暮らしのヒントを求め、柴犬を含む日本犬の利用率が50%を超える老犬ホーム『オレンジライフ湘南』を取材しました。

老犬ホームは、専門家の力を借りる場所

 老犬ホームとは介護が必要になったシニア犬を預かり、または譲り受け、世話をする施設のこと。飼い主の代わりに食事や排泄処理、必要に応じた運動やケアをスタッフが対応してくれます。1日だけ預ける方もいれば、平日のみの人、1ヶ月以上預ける方など利用シーンはさまざまです。
 ケア内容は施設によって異なりますが『オレンジライフ湘南』では「自宅介護のワンステップ上」を目指しているといいます。つまり、自宅だけではカバーしきれない専門ケアも取り入れているのです。たとえば毎週金曜日に獣医師がやってきて、全員の健康状態をチェック。その子の症状に合わせて薬を処方したり、排泄の促し方や日々のケアについて、スタッフ(老犬介護士)にアドバイスをします。獣医師が定期的に訪れスタッフと密に連携しているからこそ、些細な変化への対応も可能になります。

 介護が必要な子たちは、飼い主が病院に連れていくのもひと苦労。シニア犬こそ小まめな健康チェックが欠かせないため、助かっている方は多いといいます。 老犬ホームではこういった、飼い主が「必要だとはわかっていても簡単にできないこと」が可能になるのです。

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柴犬の利用率は30%、訪れる多くの理由は「夜鳴き」

 他の犬種に比べてカラダが強く、ご長寿が多い柴犬たち。寝たきりになっても頑張ってくれる子が多いことや、犬種の特性として認知症になりやすいことから、老犬ホームを活用するご家族が増えているといいます。
『オレンジライフ湘南』によれば、柴犬の利用率は30%、柴犬を含めた日本犬の利用率は55%にものぼるそうです。犬および飼い主の「両高齢化」にともない、老犬ホームはますます柴犬に欠かせない存在になっていくでしょう。

 そして、老犬ホームを訪れる理由で最も多いのは愛犬の「夜鳴き」とのこと。これは認知症による症状のひとつで、対処法が見つかりにくいのが大きな特徴です。飼い主さんご自身が眠れなくなる、ご近所を気にするあまり精神的に参ってしまう。「なんとかして下さい」と助けを求めるように訪れる方が多いといいます。中には、愛犬だけでなくパパさん、ママさんも睡眠導入剤を利用するようになり、老犬ホームにやってきたご家族もいるそうです。
 『オレンジライフ湘南』によれば、責任感の強い飼い主さんほど疲れてしまう傾向が強いとのこと。ましてやコロナ禍により在宅者が増えた昨今、今まで以上に「近所に迷惑をかけられない」と悩んでしまうのも納得です。

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老犬ホームを活用するメリット

 老犬ホームではプロの老犬介護士が、施設によっては24時間体制で愛犬の面倒を見てくれます。安心できるだけではなく、昼夜逆転させない工夫や熟睡できる方法を探るなど、飼い主さんにもうれしい対応をしてくれます。
 老犬ホームは人間の介護施設とは異なり、一日だけ預けたり、平日のみお願いすることも可能。人間でいえば、介護施設とデイサービスの中間的存在なのかもしれません。

 さらにシニア犬にとって他の犬と触れ合うことは、とても良い刺激になります。たとえ寝たきりでも「ぼくだって(私だって)あの子に負けないぞ」と細胞レベルで感じとり、生きる糧になることさえあるのです。
 犬たちは、本来群れで活動していた生きもの。寄り添って眠ったり、集団で生活することで、犬としての喜びを実感してくれます。取材中もカラダをくっつけ合って眠る子や、ちょっかいを出して楽しそうにしている子など、シニアになっても「犬らしく過ごす」子が多いのが印象的でした。このように、老犬ホームには直接的な介護以外にも活用するメリットは多いのです。

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こんな症状が出始めたら、まずは相談を

 老犬ホームは、愛犬が寝たきりになってから訪れる場所ではありません。シニア犬の最初のシグナルは、後ろ足が弱くなってくること。少しフラつくようになった、立ち上がりにくくなったといった症状が出始めたら、老犬ホームに相談してみるのがおすすめです。動物病院とは違ったアプローチで、自宅介護の方法や今後のプランをアドバイスしてくれるはずです。
 また、シニア犬の初期段階で、よい刺激を与えたり施設に慣れさせておくことも、豊かな介護ライフに繋がるのではないでしょうか。

 犬だけでなく飼い主の高齢化に伴い、全国各地で老犬ホームが増えつつあります。ところが、まだまだ活用に至らないケースが多いのも事実です。その理由のひとつは「誰の力も借りずに最期まで面倒を見たい」「飼育を放棄したような気がする」というイメージがあるから。でも、老犬ホームは愛犬を手放す場所ではなく、ご家族自身が愛犬の介護について学べる場でもあるのです。

 愛犬が幼かったころ、社会性を学ばせるために犬の幼稚園へ行ったり、ドッグトレーナーにお願いした経験のある飼い主は多いと思います。それは愛犬のためでもあり、飼い主自身のためでもあったはずです。
 老犬ホームも同様に、愛犬に良い刺激を与えたり、飼い主が学んだりリフレッシュするために活用されてみてはいかがでしょうか。

(湯川智加 from「柴犬ライフ」)


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