【そろそろちゃんと語りたい】保護柴と私たち─そこに運命の出会いはあるのか─
さまざまな事情から、飼育放棄された犬たちがいます。
動物愛護センターに収容され、迎えに来ない飼い主を待つしかない犬たちがいます。もちろん、人気犬種の柴犬だって例外ではありません。
犬が大好きなあなたに、ここでちゃんと話しておこうと思います。
環境省によると、平成29年度にセンターへ収容された犬たちは「38,511頭」だといわれています。そのうち「8,362頭」が、殺処分となりこの世を去りました。
これをどのように考えるか。
数だけでは計れない悲しい現実は、彼らの命の軽さを浮き彫りにしています。
全国で先駆けて「殺処分ゼロ」を達成した神奈川県動物保護センターが、前年6月に「生かすための施設」として神奈川県動物愛護センターに生まれ変わりました。
殺処分ゼロと言っても、里親を待つ動物たちは今ももちろんたくさんいます。
それでも、これは大きな一歩なのです。
さらに明るい未来を考えるために、旧センターの最後の3年間を撮り続けた写真家の犬丸美絵さんに保護犬の真実の姿や、保護犬の正しい迎え方について語ってもらいしょう。
写真家の犬丸美絵さんが神奈川県動物保護センター(前年6月1日に神奈川県動物愛護センターへ名称変更)に通うようになったのは今から約4年前、同センターが「犬猫の殺処分ゼロ」を達成して2年目のことだ。昭和47年に建てられ老朽化したセンターから「取り壊しが決まり、動物を処分するための施設から生かすための施設に生まれ変わることになった。歴史を風化させないために、今の姿を写真に収めて欲しい」と依頼があったのだ。
犬丸さんはこれまでも幾度かセンター登録ボランティアから「収容されている犬の写真を撮ってほしい」と言われていたが、正直、センターに行くのが怖くて断り続けていた。きっと不安で怯えたり生気を失った犬がブルブル震えている、暗い場所だと思っていたのだ。いくら「殺処分ゼロ」になったとはいえ、何かを感じてしまいつらいだろうと。
しかし、忘れてはならない歴史を残してほしいという言葉に犬丸さんは「行く時が来た」と覚悟を決めて、センターに向かった。
そして、そこで意外な事実に出会う。
「殺処分ゼロだから、動物はほとんどいないのかと思っていたら犬猫合わせて100頭くらいいました。彼らがセンターから出られるのは飼い主がお迎えに来るか、センターから直接譲渡されるか、保護団体に引き出されるか、病気やケガで亡くなるか。殺処分されないということは、そこで暮らし続けるということ。犬たちは打ちひしがれているだけでなく、しっかりと、淡々と、個性的に生きていました。この存在を知られてない犬たちの事実を伝えたいと思い、それから写真を撮り続けています」
センターの犬たちは相性をみて部屋分けされていて、個室もあるが、ほとんどの犬たちは大部屋での団体生活を送っていた。友達がいたり、たまには喧嘩したり。“とても快適”とは言えないし、それなりに制限もあるが、それでもきちんと集団生活をしている。
「団体生活の中で暮らすので、自分で考えられる聡明な犬が多い印象です。何かと大げさな新入りの柴犬などは、職員さんにわれ先に遊んで欲しくてキャンキャンワンワン言って、同じタイプの犬と小競り合いになったりすることもあるのですが、その後ろで静かで強いボス的な犬が『うるせーなー』と様子を見ていて、度を超えると『ゴラァ!』と喝を入れることも(笑)。そうやって犬社会の中で生きること、場の空気を読むことを学んでいきます。
それもあってか元保護犬の柴犬たちはいい子が多いように思えますね。もちろん犬の生い立ちにもよりますが」
殺処分ゼロを達成する前年、センターと麻布大学が共同で収容されている犬たちのストレス度を調査した。大騒ぎする犬が収容されたり、喧嘩が起きたり等で一時的にストレス度が上がることもあるが、日の経過とともに通常状態へ下がり、最終的には一般に家庭で飼われている犬とさほど変わらないレベルで落ち着くという結果が出た。
「収容犬は状況により大部屋と個室に分かれ、その他に小学校等で子ども達と触れ合う“ふれあい犬”やセンターから直接譲渡される訓練犬などがいます。センターの限られた職員さんが100頭近い動物(そのうち犬50頭近く)の世話をしていた当時は、散歩は2週間に1回程度。床はコンクリートですが、夏は送風機、冬はハロゲンヒーター等で温度調整していました。職員さんたちがプロドッグトレーナーから講習を受け、譲渡へ向け犬たちの馴化訓練もしていました」
神奈川県動物保護センターは犬丸さんが当初想像していたような怖くて暗い場所ではなかったのだ。
「ぜひ多くの人に保護犬のすばらしさを知ってほしい。いつの日か棄てられる命がゼロになるように、犬たちがみんな幸せに暮らせるように。自分は犬からたくさんの幸せをもらったから、犬たちに恩返しがしたい」
7年ほど前から個人で啓発活動をしていた犬丸さんは、去年2月に友人と“Swimmy One・Wan Project”を立ち上げ、さらにいろいろな取り組みを始めた。
■保護犬に柴犬が多い理由
残念ながら、柴犬の保護犬はとても多い。神奈川県動物保護センターでは一時期柴犬や柴犬系雑種がほとんどという時期もあった。常に数頭はいるという。その理由を犬丸さんは考察する。
「そもそも飼育されてる母数が多いということもありますが、柴は子犬期にきちんと社会化やトレーニングをしないといけない犬種。かわいいだけで飼ってしまい、手に負えなくなって捨てられることもあるでしょう。また昔ながらの飼い方で外飼いされてることも他犬種より多く、逃げ出してもそのまま探してもらえないケースもあるのかと思います。
日本では、譲渡されやすい保護犬の傾向として、若い小型の純血種、中型でも8キロ以下の犬が好まれます。小さな若い柴犬はいいのですが、サイズが大きい子や、シニアだったりするとセンターに長居している子もたくさんいます。性格の問題で残っているわけではないことがほとんどです。
元保護犬の柴犬にはいい子たちが本当にたくさんいますよ! 柴犬の子犬は、たまらなく可愛いけど中身は小悪魔(笑)。社会化トレーニングや散歩にたっぷりと時間をかける余裕がない人には難しい犬種だと思います。でも、保護犬の柴なら社会化ができていることが多いのです。性格もある程度読めますし、成犬であればサイズも分かります。アクティブに暮らしたいなら若い成犬を、のんびり柴犬と暮らしたければシニアの子を迎えるなど、ご自身のライフスタイルに合った運命の柴犬を時間をかけて選ぶことをオススメします。
サイズも性格もお顔立ちもいろんな子がいます。柴犬は長生きする子が多いです。子犬でなくてもたくさんの時間を共に過ごすことができますよ」
■保護犬を迎えるということ
県や市の動物愛護センター等や動物保護団体等にいる保護犬には犬種の違いだけでなく、生い立ちによる性格の違いもある。
迷い犬や野犬等、放浪しているところを保護された犬。虐待を受けた犬。悪徳ブリーダーの元で最低限の食事だけで産まされ続け、棄てられた犬。愛情は受けていたけれど、飼い主の事情で棄てられた犬。飼い主の飼育放棄(ネグレクト)により、愛情を知らないまま棄てられた犬……等々。
その生い立ちの中で負った心の傷や生きるために培った強さはそれぞれで、性格に少なからず影響を与える。
犬丸さんは、保護犬を迎えるときは絶対そのことも忘れないで欲しいと言う。
「保護犬たちはたいへん賢く愛情深い犬が多いと感じます。しかし、あっという間に懐く子もいれば、なじむまで時間のかかる子がいるのも事実です。
ただ、時間をかけただけ心が通ったときの絆は宝物のような愛おしいものになります。
保護犬でない犬に関してもそうですが、犬に対してあせらず、性格を見極めて寄り添うことがとても大切だと思います。
多くの保護団体の方がおっしゃる大切な言葉があります。『“かわいそうだから”という理由で保護犬を迎えないでほしい。この犬と暮らしたい! と思ったら家族に迎えてください』と。本当にそのとおりです。
そしてもう一つ大切なこと。
保護犬を飼うことはステイタスではありません。保護犬も、生まれたときからずっと幸せな犬も、みんな同じ、いい意味で“ただの犬”です。保護犬を飼っている方が偉いとか、ペットショップから犬を迎えてしまった方がご自身を卑下するという最近の風潮はいかがなものでしょう。自分が迎えた犬を一生大切に愛せばいいだけです。次に飼う時にペットショップから迎えなければいいだけです。
犬を飼うということは経済的にも生活面にもたいへん負担の増えることです。制限も増えます。
保護犬が二度と保護犬にならないように、決して無理に保護犬を迎えないでください。“かわいそう”なだけの犬ではありません』
そう、保護犬は特殊な犬なのではない。フラットな気持ちで、自分の運命の犬を探しに行くのがきっとベストなのだ。
■保護犬を迎えたいと思ったら
犬丸さんがおすすめする保護犬を迎えるまでの手順は次の通りだ。
01─自分のライフスタイルに合った犬を選ぶ
「“飼いたい犬と飼える犬は違う”ということを念頭に置き、無理せず飼える自分の性格や生活に合った犬を選びましょう。
アウトドア派なら一緒に駆け回れるアクティブな犬種や若い犬がいいでしょうし、のんびりと暮らしたい方にはシニア犬が良さそうです。
反対に、都会で暮らしてドッグカフェ等に行きたい方が、野犬のDNAを持つ子を迎えるとお互いストレスが増えます。
決して外見だけで選ばずに、お互いに楽しく過ごせるのはどんなタイプの犬なのかをよく考えて選ぶことをおススメします」
02─自分に合う保護団体を探す
「保護犬を迎えるには『行政の動物愛護センターから直接引き取る』方法と『保護団体などを経由して犬を譲渡してもらう』方法があります。保護団体それぞれに譲渡条件がありますので、ご自身にあったところをぜひお選びください。
よく『団体にメールしても返事がない』とか『団体の審査が厳しくて保護犬をもらえない』等の話を聞きます。団体の方々は想像を絶するほど忙しく、ご自身の生活を犠牲にして頑張ってらっしゃる人もたくさんいます。犬たちを大切にしているからこその連絡の遅さだと想いやって、気長に待ってあげていただければと思います。
また、譲渡の審査基準も団体によってそれぞれです。条件が厳しすぎて断られ、心折れてペットショップに走る方が多々いらっしゃるのも事実です。『欲しいときに欲しい犬がいないから』という声も聞きますが、犬は命です。犬を商品として考えるその人間の気持ちが、殺される命を生み出していること忘れてはいけません。犬は待つものです。いろいろな条件の団体さんがいらっしゃるので、諦めず、焦らず、時間をかけて探していただけると保護犬たちは喜ぶと思います。
譲渡後の関わり方にも団体によっていろいろあります。アフターケアをしっかりとしてくださる団体を見つけることもおススメです。
とにかくあせらずに見極める力を持ちましょう」
03─譲渡会に行き、実際に犬に会う
「今後ともに暮らす命です。譲渡会や事前お見合い等、実際に会ってから選ぶべきです。犬の性格やご自身との相性、生い立ちや今の生活環境について等、実際に見て触れて共に時間を過ごし、団体の方と言葉を交わすことは何より重要です。百聞は一見に如かずです! 犬は“個”対“個”。団体の方といるときの性格で一生生きていくわけではありません。ぜひ実際に会って、ご自身との相性を感じてください。
団体の方と譲渡後もいいお付き合いを続けるためにも、実際に会って会話しておくのがおススメです」
04─犬を家族として迎える前に、犬について勉強する
「犬について、何も知らないで飼い始めてしまう人がかなりいます。『こんなに大きくなるとは思わなかった』など、ありえない理由で放棄する人もいるくらいです。ご自身の求める犬のサイズや性格や体力、長所や短所、犬を飼うにはどのくらいお金と時間とかかるのか、もし自分に何かあって飼えなくなった時に託せる人がいるのか等々、事前に必ず勉強してからお迎えを決断してください」
■その子の老後まで考えてほしい
犬の寿命も近年のびてきている。これは保護犬に限ったことではないが、「犬が老いて病気になっても、寝たきりになっても、最後まで責任をもって飼えるのか」をよく考えて欲しいと犬丸さんは言う。
「犬を1頭飼うと一生で最低でも『軽自動車1台分くらいのお金がかかる』と言われています。飼い方によってはそれ以上かかるでしょう。
年齢を重ねてくると大変さも増すことが多いです。年老いて認知症になり昼夜逆転して夜中鳴き続けることもあります。不慮の事故で半身不随になることもあります。私が昔飼っていた柴系の雑種は、11歳の時に椅子から落ちて首から下が動かなくなりました。柴らしく頑固な気質だったのでその現実をなかなか受け入れられず、2週間、昼も夜も泣き叫びました。幸運にもいいお医者様にめぐり合えて、体も徐々に回復し、その後一年半生きてくれましたが、ほとんどの病院では安楽死を薦められて、つらい思いをしました。なにがあっても最後まで責任を持てるのか、よく考えてから家族に迎えて欲しいと思います」
いっときの気分でなく、動物を飼うことの責任の重さを必ず考えて欲しい。
■飼わない動物愛護という選択肢
いろいろ考えた結果、「保護犬はなんとかしてあげたいけど、自分には飼えそうにない」となったら、それはそれで正しい答えだ。飼わないという動物愛護もある。
「動物たちのためにできることはいろいろあります。保護団体に募金するとか、ボランティア団体さんのお手伝いをするとか。犬たちを取り巻く現状を勉強して、保護犬を減らすために、いち愛犬家にできることを伝えていくことだけでもいいと思います」
これから犬を迎える方が保護犬を迎えたり、良心的なブリーダーさんから迎えること、軽はずみに動物を飼わなくなることで、売上が伸びなくなったペットショップや悪徳ブリーダーはいずれ自然淘汰されていくはず。いち愛犬家の小さな変化の一歩が、いつか世間の流れを変える大きな一歩になると思うと犬丸さんは言う。
「保護犬たちは、今を受け入れ、順応し、前を向いて生きているとてもいい子たちで、何度も言いますが、かわいそうなだけの存在ではありません。“かわいそう”という人間の眼鏡をはずして向き合ってほしいと思います」
保護犬を飼うのがちょっとしたブームになっているが、生きものを飼うというのはそんなに簡単なことではない。保護犬であろうと、ショップやブリーダーから迎える犬であろうと、「この犬と暮らしたい」と心から思える犬にめぐり逢えたら迎える、というのがベストではないだろうか。
犬を無理なく飼える状況の人が、犬を探すときの選択肢のひとつに「保護犬」を加える。ぜひそんな自然なスタンスで、運命の出会いを果たして欲しい。
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