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どんな子どもにもチャンスがある“日本一難しい入試”~東大医学部より難関~


――日本最難関とされる東大医学部より難しい入試がある理Ⅲより難しい入試がある

 それが“慶應義塾幼稚舎”の入試だ。本稿では、慶應幼稚舎の入試に関して、向き合い方をフリージャーナリスト田中幾太郎氏の著『慶應幼稚舎の秘密』から抜粋し、掲載したいと思う。

どんな子どもにもチャンスはある

 公正さに疑惑をもたれていた慶應幼稚舎の入試だったが、1999年に舎長に就任した金子郁容以降の幼稚舎の入試は、公平さを継続している。

 その入試にどう臨むか。

 その答えは、非常に難しい。どんな子どもにでもチャンスはある代わりに、「これだ!」という必勝法はないからだ。他校の場合は、訓練すればするほど成果が見込めるケースが多いのだが、幼稚舎ではそういうわけにはいかない。というより、準備が万端すぎても、かえってマイナスになることもあるのが幼稚舎入試なのだ。

 幼稚舎のウェブサイトの「入学試験について」を開くと、次のように書いてある。

「幼稚舎は、入学試験を公平かつ厳正なものとするために細心の注意を払い、最大限の労力と判断力を注いで事にあたります。幼稚舎の入学試験は、様々な活動を通じて子どもたちのありのままの姿を見るものですから、入学試験のために特別な準備は必要ありません」

 これはまさに、「学校側の本音をそのまま表したもの」と話すのは幼稚舎関係者だ。誰もがすぐに気がつくと思うが、この文面の最大のポイントは、「子どもたちのありのままの姿」と「特別な準備は必要ありません」という箇所である。

「ところが、入試に臨むと、『ものすごく時間をかけて準備してきたな』と、瞬時にわかる子どもも少なくないんです。塾の幼稚舎コースに通い、対策を徹底してやってきている。型にはまりすぎていて、テスター(試験官を務める教員)をハッとさせるところがまるでない。学校側が求めているのは、福澤諭吉先生の理念である『独立自尊』を将来、実現できる生徒です。自分でものを考え、自由な発想ができるかどうか。親や塾の講師から押しつけられたことをただなぞるだけの子どもは正直、厳しいと思います」(幼稚舎関係者)

 受験対策をしっかりやっても、不合格になってしまうのが幼稚舎入試だとすると、準備はしないほうがいいのだろうか。それはNOである。自由奔放に振る舞うのがいいのだと、ぶっつけ本番で入試に臨んでも、まず合格することはできない。

 まったく準備なしに試験当日を迎え、出される課題にチャレンジしようとしても、十分なパフォーマンスはできない。何をやればいいのか、右往左往するばかりだろう。テスターが課題を説明する言葉が何を意味しているのか、理解することすら難しいに違いない。やはり、それなりの準備は必要なのだ。

パニックにおちいる親たち

「準備しすぎてはいけない」の一方で、「準備しなくてもいけない」というのが幼稚舎入試の特徴だとしたら、現実にはどうすればいいのだろうか。その答えを探る前に、まずは入試までの日程を見ていこう。

 最初のイベントは、7月の第1土曜日と第2土曜日の午前・午後の計4回開かれる「学校説明会」。学校側から教育方針などの説明を聞いたあとは、学校内を見学することができる。ただし、入試についての説明は一切なく、そうした質問も受けつけない。「ウェブサイトで十分に説明しており、つけ加えることも特にない」(幼稚舎関係者)からだ。

 4回の説明会の内容はすべて同じなので、現場でもウェブサイトでも、「複数回の参加はおやめください」と告知している。にもかかわらず、何度も来訪する父兄が絶えない。

「学校説明会は毎回、たいへん混むんです。あまりの混雑に、せっかくいらしても入場できない父兄もいるほど。複数回は来ないでほしいと繰り返し伝えているのに、それを守らない父兄が出てくるのはいかがなものでしょうか」(幼稚舎関係者)

 学校側としては迷惑千万なのだが、そこには父兄の心理も見え隠れす

「先生たちの覚えをよくしておこうと必死なんです」と話すのは、2010年代前半に幼稚舎入試に臨んだ受験者の母親だ。受験する年度だけでなく、その前年度にも学校説明会に足を運び、全部で計5回、参加したという。
「学校側がその熱意を汲み取ってくれるのではと、勝手に想像して……。先生方からすれば、いちいち父兄の顔など覚えているはずもないのに、ここでもう一度行っておかなければ、そのせいで試験に落ちるかもしれないと考えたりするんです。そうすると、居ても立ってもいられなくなり、再び広尾に足を運んでいる。精神状態がかなりおかしくなっていたような気がします」

 たとえ、学校側がその父兄の顔や名前を覚えていたとしても、それがプラスに働くことはまずないだろう。約束事を守れない親が子どもに対して、しっかりした教育をしてきたとは思えないからだ。言葉は悪いが、学校側からは〝ウザイ〟親だと思われるのがオチ。それこそ、1990年代末あたりから登場した「モンスターペアレント」の予備軍と警戒されてしまうかもしれない。ちなみに、この母親の子どもは幼稚舎に合格することは叶わなかったという。

離婚で不利になることはない

 幼稚舎受験に臨む親について、「必死になるのはよくわかる」と話すのは、有名塾の幼稚舎コースで講師を務めたことがある人物。塾を退職したあとは、私立の小学校に教員として入職した。

親は自分のミスで子どもが試験に受からなかったと思いたくないのです。特に何がなんでも幼稚舎に入れたいという親にとっては、そのチャンスは一度きり。東大受験なら一度失敗しても、浪人すれば再度チャレンジできますが、小学校受験はそういうわけにはいかない。掛け持ち受験して、どこかに引っかかれば御の字と思っていれば別ですが、幼稚舎一本に狙いを絞っていたりすると、あとで後悔しないためにも、やれることは全部やっておかなければという気持ちにおちいってしまうのです」

 金子改革によって、入学願書から親の職業欄がなくなり、子どもの実力によってのみ判定されることが明確化された。とはいえ、自責の念に駆られたり、疑心暗鬼におちいる親は多い。中でも、離婚や死別によって、親の欄に母親もしくは父親の名前しか記入できない場合、そのせいで入試に不利になるのではと、気持ちが落ち込んで、うつ症状を発症する例も少なくないという。

 子どもが少しでも不利にならないように、離婚を先延ばしするケースもしばしばあるようだ。前出の母親はこう話す。

「同じ年にお子さんが幼稚舎を受験した知り合いがいるのですが、すでに1年以上も前から、ご主人とは別居状態が続き、離婚に向けた話し合いも行われていた。でも、それで受験が不利になってはいけないと、離婚届を提出するのを遅らせて、入試に臨んだんです。結局、うちと同じように不合格になり、それからまもなく離婚したそうです」

 幼稚舎関係者によると、「ひとり親だという理由で不利になることは決してない」という。幼稚舎のウェブサイトのQ&Aでも、「保護者の離婚が受験・合否に影響しますか」という質問に対し、「保護者の離婚あるいは死別など、家族構成による影響はありません」と答えている。また、国籍等についても、「保護者の国籍・職業・学歴による影響はありません」と明記されている。

変更された「3つのお約束」

 さて、願書を出したら、入試本番の当日を迎えることになる。2019年度新入生の入試は2018年11月1~8日に行われた。この期間中の指定された一日がその子どもの受験日となるのだが、これだけ日程の幅があるのは、男子と女子、生年月日によってグループ分けをして、それぞれ別の日時に試験日を設定しているからだ。

 性別によって分けるのは、それぞれの募集人数(男子96人、女子48人)が決まっているため。そして、生年月日順に年少者から約20人単位でグループ分けする。この年代は、誕生日によって成長の度合いが大きく違う。そうしたことで有利不利を生じさせないようにしているのだ。

 他の小学校の入試でも、そうした配慮をしているところは多いが、それらは幼稚舎方式を真似たものだ。私立小学校でもっとも古い歴史を持つ学校として、さまざまな試行錯誤を重ねてきた幼稚舎が他校の模範となっている部分は大きいのである。

 試験当日、指定された集合時間に幼稚舎を訪れると控室に案内される。なお、一日に何組ものグループが試験を受けるので、各集合時間は朝から昼過ぎまで、別々に細かく設定されている。

 呼び出し時間が来たら、テスターからの指示を待って、体操服に着替え、運動靴を履いて待機。さらにテスターから「3つのお約束」が告げられる。「走らない」「前の人を抜かさない」「おしゃべりをしない」である。そして、試験会場に移動するのだが、毎年繰り返されるこの3つのお約束が守れない受験者はほとんどいない。これが合否に影響することは、父兄の誰もがさすがにわかっていて、事前に訓練してくるからだ。

 ただし、先に挙げた3つのお約束は2013年度(2012年11月実施)までのもの。2014年度(2013年11月実施)からは一部、項目が変更されている。「走らない」が「受験票を落とさない」に代わったのだ。毎年同じだと、対策を立てられてしまうからというような、うがった見方もできるが、本当のところはどうも違うらしい。実際に受験票をなくした子どもがいたからで、注意を喚起する意味で、この項目がつけ加えられたという。それに、「前の人を抜かさない」という項目があれば、意味が重なる「走らない」は必要なかったのである。

 会場に向かう途中で準備室に寄り、さまざまな色が塗られた○、♡、☆、△、□などの識別マークが各自に与えられる。試験会場では、その識別マークが椅子や床に貼られているので、それが受験者の場所となる。

 そして、試験の本番が始まる。


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