見出し画像

『トリップアドバイザー』がお薦めするアジアのベスト・オブ・ビーチに行ってみた

旅行口コミサイトで味わった苦い経験

 アジアNo.1リゾートアイランド・タオ島。そんな謳い文句に心揺るがされる人は、きっと多いと思う。

 誰が決めたNo.1か? 
 これ、ご存知の方も多いと思うが「トリップアドバイザー」という世界で最も有名な旅行口コミサイトが毎年発表しているランキングで、タイのタオ島が選ばれたのは2014年頃。当時サラリーマンだった自分は休みが全く取れない生活を送っており、結局現地を訪れたのは2017年のことだった。

 行ってみて、驚いた。ビーチはかろうじてエメラルドグリーンではあるが、海沿いのホテルや住宅からの生活排水が垂れ流しで、水質は透明というよりもミルクセーキのような白濁色。観光客はあきらかにキャパオーバーでどこもかしこも夜になると爆音に合わせて踊り狂う白人だらけ。
 しかも、ここ数年は何度か外国人の死体が浜に上がっていて、その度にあきらかに身代わりと思しき出稼ぎミャンマー人が逮捕されており、事情通の友人の話によれば島にはカルト宗教とマフィアが密かに巣食っているという──。

 「どこがアジアNo.1やねん」というのが正直な感想であった。

 確かに島を少し離れれば海は息をのむほど美しく、ナイトアクティビティが充実しているとはいえ、メインビーチに限ればはっきり言ってうちの田舎の愛媛の方がよっぽどきれいであるとすら思う。

 そもそも「トリップアドバイザー」は、あるライターが実験で自宅裏の物置を架空のレストランとしてでっち上げ、「グルメ・セレブ・ブロガーが最も行きたいと思うロンドンのレストラン」第一位にランクインさせたことが問題になるなど、信用ならない噂が多々あるサイト。
 騙される方が悪いのよ、と言ってしまえばそれまでだが、ネットが普及して以来ガイドブックを持たなくなっていた自分にとっては大きなショックだった。

 海外をいろいろ回っていると、旅行サイトなどで全く紹介されていない空白エリアにしばしばぶち当たる。そういうところでもグーグルの空撮写真と「トリップアドバイザー」は、旅人に何かしらの情報を与えてくれる。信用ならない反面、意外な場面で頼りになることもまた多い。

 例えば自分も、あるアジア最貧国を旅していた時、あまりの食のレベルの低さに参ってしまい、また度々食あたりを起こして困った挙げ句、「トリップアドバイザー」に救われたことがある。「ここだけは何を食っても腹を壊さない」という口コミに釣られて行った店は、確かに衛生面において地獄の一丁目みたいなその町で、唯一と言っていい安全地帯だった。
 これぞまさしくガイドブックでは得られない、旅人たちが自分の胃袋で確かめた生の情報。「トリップアドバイザー」とて、やる時はやるのである。

 正直に言えば、タオ島のことは今でも少し根に持っている。しかし、全部が全部嘘というわけでもなさそうだ…とか思っているところに、またも筆者の琴線に触れる情報を「トリップアドバイザー」が放ってくれた。

「アジアの『ベスト・オブ・ビーチ』2017年はミャンマーのガパリに決定

 ついこの間まで軍事政権がのさばっていたミャンマー。その辺境の町がスーチーさんの世になって並み居るアジアのリゾートビーチをぶっちぎり、頂点に立ったというのだ。

 もう一度、あと一度だけ「トリップアドバイザー」のことを信じてみたい。「騙されても、それは信じた私が悪いの…」なんていう悪い男にひっかかった女子みたいなノリで、行くしかなかった。

 信じる者は救われるのか、それともまたもや裏切られるのか
 今から年末旅行の計画で頭を悩ませている皆様に、わたくしの体験が何かの参考になれば幸甚の極みである───。

白亜の砂浜が眩しい秘境のビーチ

 ミャンマー西部、アンダマン海を臨むラカイン州。そこはもともとミャンマー国内でもイスラム教徒が比較的多い土地で、西北部ではロヒンギャの村々が軍に襲われて国際問題となっている。
 ところが、ガパリビーチがある町・サンドウェは同じ州内でも紛争地帯とは離れており、平和そのもの。イタリアのナポリを思わせるということでガパリの語源となった白い砂浜はどこまでも美しく、まさに楽園という言葉がふさわしい地である。

 行き方は、こんな具合。まず成田からヤンゴンへ飛び、最近始まったばかりの日本人ビザ免除を使って入国する。そこからさらにたびたび事故を起こしたり欠航することで悪名高いミャンマー国内線を利用し、1時間ほど飛ぶとサンドウェ空港に着く。

 決して楽な道のりではないものの、ミャンマーをよく知る人に言わせればこれでも行きやすくなったのだという。そもそもひと昔前、軍事政権の時代には外国人の国内旅行が厳しく制限されており、今でも外人立ち入り禁止エリアは国内にごまんとある。そんな国にリゾートが誕生すること自体、隔世の感があるということらしい。

 飛行機の窓から見えるガパリビーチの砂浜は白亜の帯といった感じで、絶景のひと言。ビーチ沿いにはリゾートホテルが点々と建ってはいるものの、まだ自然の浄化力が勝っているようで開発汚染の影は感じられない。というか人家自体がまばらにしかなく、いやがおうにも期待が高まる。

 空港に降り立つと、セキュリティも何もあったものではない開放感。物売りの人たちも押しの強さは微塵もなくて、そんなことで家族を養えるのかと心配になるほどだ。とにかく空気のゆるさが半端ない

 それだけでも癒やされるのだが、何より素晴らしいこととして、ここガパリは日本人の影を全く感じない。さらに言えば、中国人すらたまににしか見かけない。ミャンマーでありながら、まるでナポリにいるかのよう。とは言い過ぎだが、滞在4日間で見かけたのはバカンスで訪れたとおぼしき白人ばかりであった。
 しかもタオ島などと違って、皆さん大人。バーからやかましい電子音楽が爆音で聞こえてきたりすることのない、美しくて静かなパラダイスである。

自然と人の心が織りなすガパリの魅力

 ミャンマーで困ることと言えばまず食事。ミャンマーはアジアでも指折りのメシがまずい国のひとつだ。日本人の口に合わないのではなく、平均点がとにかく低いのである。このことをガイドブックとかはもっとちゃんと書いた方がいいと思う。

 正確に言うと、ミャンマーは東、もしくは北の少数民族地帯に行くほどメシが不思議とうまくなる。それに対して首都ヤンゴンなどでは、何も考えずうっかりその辺の店で食事をすると痛い目をみる。安いから仕方がないとも言えるが、客にうまいものを出そうという意識はおしなべて低い。さらに停電なんぞもしょっちゅうで、雨季になれば街中水浸し。そんなところでまともなメシを期待する方が難しいかもしれない。

 ところがガパリは白人観光客がメシのレベルを上げているせいか、いい値段はするものの食に関してはまず問題ない。筆者にとって今年のベスト・オブ・カレーはガパリビーチ沖合の孤島で食べたラカイン風エビカレーである。ひと皿15,000チャット(日本円で1,200円くらい)と、現地相場で考えたら宮廷料理並みのお値段ながら、ヤンゴンで幾度となくミャンマーメシの洗礼を受けていた自分にとっては泣けるほどのうまさだった。

 そして肝心のビーチも、一番観光客が多いエリアですら少し透明度が落ちる程度。単純に透明度だけで言えば宮古島の方がきれいだと思わなくもないが、これがNo.1と言われると、なるほどそうかもしれないと気合いで自分を納得させられるレベルではある。

 ミャンマーは自然も美しいが、それ以上に人の心が美しい国だ。お隣タイに比べて格段に貧しいにもかかわらず、人々は礼儀正しい。むろん観光地であるし、こちらは外国人であるがゆえにあらゆる場面でお値段上乗せということは多々あるものの、そこで見られる欲の薄さは口コミサイトなら星5つをあげたくなるほどだ。

 ちなみにこれは余談だが、そんな穏やかなミャンマー人は、話が宗教に絡むと鬼になるから不思議なもので、仏教を信じるほとんどのミャンマー人はロヒンギャを国民とは認めない。それどころか虐殺は単に追い返しただけだと真顔で言う。

 また、欲の薄さは商売下手と表裏一体。ビジネスになるとミャンマー人は華僑や印僑には到底かなわず、自国で食っていけない多くのミャンマー人はアジア各地で最底辺の出稼ぎ労働者として働いているのである。

 とはいえミャンマー人の美徳が外人には新鮮に映るのもまた事実。ガパリでは確かに、アジアの観光地でしばしば出くわす金のトラブルというものが少ない。アジア各地を回って散々痛い目に遭った末にガパリにたどり着いた白人たちは、きっと慎み深いミャンマーの人々のもてなしと合わせてガパリの豊かな自然を楽しみ、ここをパラダイスと感じたのだろう。
 「トリップアドバイザー」でベストビーチに選ばれた背景には、そんな理由もきっとあるに違いない。

人の好みは十人十色、口コミサイトは参考程度に

 さてこのガパリビーチ、外国人旅行者の間で人気が高まり、トリップアドバイザーでアジアNo.1ビーチの栄誉を獲得したのは2016年のこと。自分が行ったのは2019年で、またしても3年寝かしてしまったのであるが、その間にランキング1位の座を明け渡してしまった。

 観光公害という言葉も存在するように、人が多く集まればそれを受け入れるために開発が進み、自然が破壊されていく。タオ島はまさにその好例で、孤島ということもありキャパが限られている分、ベストアイランドに選ばれてたった3年で、言い過ぎかもしれないが「終わった島」となったのだろう。

 ガパリがなんとなく美しい自然を留めているのは、別にミャンマー政府が頑張っているわけでもなんでもなく、単に訪れる人がまだまだ少ないから。タイやベトナムなんかに比べたら、ミャンマーはやはり敷居が高いのだ。自分とて一人旅ならまだしも、もし家族旅行ならうっかり落ちるかもしれないミャンマー国内線に乗りたいとは思わないし、カオスなヤンゴンの街を子連れで歩く自信はない。だから、ここまで書いておいてアレだが、「みんなガパリにおいでよ!」などと無責任なことを主張するつもりは毛頭ない。

 結局、口コミサイトというものは、どこまでいっても個人の感想の巨大な集合体だ。ベストアイランドやベストビーチは、言うならばその最大公約数。みんなが「いいね」と言ったとしても、ある人には合わないなんてことは当然ある。平均点が高いからといって安心するのは禁物だ。
 むしろ旅サイトを活用するなら、旅行記をアップしている人は世の中にいくらでもいるのだから、自分と好みが合う人だったり旅の目的が近い人を見つけて、それを参考にする方がハズレが少ないと筆者は思う。

 もう9月、旅行好きの人ならば当然年末のチケットを押さえていないといけない時期。ひとりでも多くの方が海外での素晴らしい年越しを送れるよう、同じく旅行を愛する者として心から願う次第である。
 どうか皆様、安全な旅を!

<執筆者プロフィール>
■もがき三太郎
出版業界で雑誌編集者として働いていたが、やがて趣味と実益を兼ねた海外風俗遊びがライフワークとなる。現在は中国を拠点に、アジア諸国と日本を行き来しながら様々なメディアに社会問題からドラッグ事情まで、硬軟織り交ぜたリアルなルポを寄稿している。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?