マクドナルド『ドライブスルー』と『チキンナゲット』導入秘話。藤田田の超発想と、クレイジーな戦略。
車に乗ったまま注文し、そのまま注文の品を受け取る。今や当たり前になった『ドライブ・スルー』。始まりは、マクドナルド江の島店から。日本マクドナルド創業者・藤田田氏はなぜそれを思いついたのか?そしてそこから学ぶビジネスのヒントとは?氏の『金持ちだけが持つ超発想』より紹介しよう。
■歩行者はゼロ。車は14000台。
マクドナルドは世界に7300店ものチェーン店をもっているが、世界の5000店目の店が、日本の江の島店である。
この江の島店は、(昭和)57年8月の1ヵ月間だけで、9500万円の売り上げを記録した。この年の8月は冷夏で雨の日が多く、海水浴客の足が遠のいた。そういう悪条件下で出した記録である。
銀座4丁目の三越にある銀座店の売り上げが5000万円だから、これは驚異的な売り上げの記録である。この調子でいけば、1店舗で年間売り上げは10億円になってしまう。その金額は従来のレストラン産業では考えられない巨額なものである。
従来のレストラン産業では、1店舗の月商が、600万円だ、700万円だ、といっているのに、マクドナルド江の島店の月商が9500万円だから、この記録が出たときは、正直なところ、私自身も驚いたほどだ。
私は江の島店の開店に先立って、まず、車の通行量を調べた。店を出そうとしている場所は江の島駅から約1キロほどはなれているために、歩行者はゼロに近い。
歩行者相手の商売は絶対に成り立たない場所である。
肝心の車の通行量のほうは、調べてみると、1日に14000台ていどである。
歩行者がゼロで、車が14000通るのなら車の客をとるほかに方法はない。
しかも、車の客を相手にするには、これまでのように車から降りて買うドライブ・イン方式ではたいした儲けは期待できない。
車で走ってきて、車に乗ったまま注文し、そのまま注文の品を受け取って走って行く。これでなければダメだ、と私は思った。
私は、さっそく松下通信工業(小蒲秋定社長・当時)とソニー(盛田昭夫会長・当時)にたのんで、テレビ電話で客の注文を受けるシステムを開発してもらった。
車に乗った客がきて、テレビに向かって、ほしいものを注文する。それを店の中の従業員が受けて、出口で注文の品を包んで待ちかまえ、サッと客に渡すシステムを考え、その開発に乗り出したのだ。
私はこのシステムを『ドライブ・スルー』と名づけ、江の島店に設置した。
これが、当たった。
車に乗ったまま注文すれば、出口で注文の品を渡してもらえるというシステムが、忙しい現代人に受けた。
それが、月商9500万円の記録をつくったのだ。
私はこれに力を得て、現在30店にこのシステムを採用している。採用した店は、どこも利用者に大好評で、売り上げを伸ばしている。
もちろん、来年は、さらにこのシステムを多くの店に広げていくつもりだ。
『ドライブ・スルー』というのは、ドライブして、通り抜けて行く、という意味の英語である。ところが、子供たちの話を聞くと「ドライブする」という日本語だと思っているのだ。自分でも気がつかなかったが、ちゃんと日本語になっているのである。
子供たちは、運転免許証を持っていないが、面白がって自転車で買いに来ている。
■時間を節約して儲けろ。~ドライブ・スルー方式の採用~
蛇足だが、江の島店には、馬に乗った客も現れた。
それはともかく、私の考えた『ドライブ・スルー』方式は、マクドナルドは立ち食いの店、という従来のイメージを打ち破りつつある。
現代人は好むと好まざるとにかかわらず、時間に追われている。そんな現代人にとって無視できないのが、時間の節約である。
どうすれば、時間を節約し、時間をより有効に使えるか、ということは、現代人の最大の関心事のひとつである。
昨今、使い捨ての100円ライターの普及はめざましい。使い捨ての100円ライターがなぜ現代人に受けたかというと、石をかえたり、液化ガスを補充したりする時間が節約できるからにほかならない。多忙な現代人にとって、ライターの石やガスに手をわずらわされるのは面倒くさいだけでしかない。
カメラにしても、現在はレンズの焦点を合わせたり、露出をきめたりする必要のないインスタントカメラが全盛である。シャッターを押すだけで、フィルムの巻きあげも自動的にカメラがやってくれるのだから、大幅に時間が節約できる。
時間を節約するものが現代人に受けるという一例である。
ファースト・フードはもともと時間を節約する産業である。時間を節約するためのファースト・フードがコーヒー・ショップに勝つのは自明の理である。
GNPが大きくなると、国が豊かになるのではなく、時間不足時代になる。文明が進めば進むほど、生活は複雑化し、現代人は時間が不足してしまう。
これからの事業は、時間を節約することを考えたものが、かならず成功する。
つぎに、チキンナゲット導入時のエピソードから紹介しよう。『クレイジーな戦略論』より。
■常識にこだわる奴は常識に殺される。
ある場面に直面して、なんらかの判断をくださなければならないことは、よくあることである。私は、そういった場合には、一つのことに三通りの判断を考えてみる。
一つめの判断をくだした場合はどうなるか。二つめの判断ではどうなるか。三つめではどうなるか……。
それらを考えてから、最後にこれがベストの結果を招くと思われるものを選択し、決断する。まず、判断をして、それから決断をくだす。
そういった判断の仕方は、訓練を積み重ねて養うほかない。
判断力は推理力である。だから、判断力を養うことは推理力を整うことである。推理力がある人がいい判断ができる人である。
ものを判断する場合、表か裏か、白か黒かを判断するだけなら、確率は一対一である。しかし、ビジネスの場合、そんなに簡単に判断はくだせるものではない。推理を重ね、そうして決断に至る。その過程で、あらゆる結果を予測する。だから、結果として予測しなかったことが起こることはあり得ないことである。
■「ケンタッキーがだめだったのに…」反対されたチキンナゲット
よい社長、よい副社長、よい部長、よい上司というのは、よい判断をする人のことである。
私のビジネスのことだが、1984年、チキンナゲットを扱うかどうかというときに、私は判断に迷った。というのも、チキンナゲットは1983年に、チキンの専門店の「ケンタッキー・フライドチキン」が売りだして、まるで売れなかったために、日本では売れないと判断して販売ストップを決断した商品であるからだ。それを日本で売ったらどうかという話がもちあがったのだ。
社員の意見をきいてみると、鶏専門屋のケンタッキーさんが失敗したのをハンバーガー屋が売っても成功するわけはないという意見が圧倒的だった。
が、ためしに、チキンナゲットをつくらせて試食してみた。すると、うまい味になっている。
これなら日本でも売れる、と私は判断した。
そこで、どれぐらい売れるかという予測を立てたのだが、全売り上げの一割、という見方が強かった。
私は、もっと売れるはずだから、商品を多めに用意するようにいった。売り上げ目標を全売り上げの19パーセントとはじいたのだ。
そうして売りだしてみたら、なんと、全売り上げの28パーセントも売れたのである。
こんなに売れると、いくら商品を用意してもたりない。
そこで、アメリカから飛行機で製造機械を輸入して、伊藤ハムさんの工場に据えつけ、24時間、徹夜でチキンナゲットの製造をはじめた。伊藤ハムの常務取締役伊藤正視さんが、こんなに徹夜つづきだと社員が死んでしまうと悲鳴をあげたほどである。
■80億円売り上げた
ついに、1984年の売り上げは、当初の予測の1004億円を上まわり、1080億円を記録した。つまり、チキンナゲットだけで80億円売れたのである。そのために、日本経済新聞から、1985年のもっともよい商品の一つであるとして表彰を受けた。そうしたら、今ではどこもチキンナゲットをメニューに入れて売りはじめている。
鶏専門の店が売って失敗したものを素人のハンバーガー屋が売っても売れるわけはないというのは常識である。しかし、ときにはその常識に従ってはいけない場合もある。ときには、常識の裏をいくという手もある。常識は常に変わっている。固定した常識などは存在しない。現代に徳川時代の常識が通用しないことを見ても、わかるはずである。
私はケンタッキーがチキンナゲットから撒退したあと、アメリカにいってターゲットのちがいをつぶさに研究し、この商品なら売れるという自信をもったからこそ、売りだしたのである。