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ゆきゆきて-世界の風俗レポート-【仁義なき中国のSEX事情】

海を渡って大中華で春をひさぐ日本人風俗嬢
現代版・からゆきさんはチャイナドリームを掴んだのか!?


<執筆者プロフィール>
●もがき三太郎
日本で十数年、出版業界に従事する中で、やがて趣味と実益を兼ねた海外風俗遊びがライフワークとなる。校了前の週末弾丸ツアー時でさえも最低5人は行く豪腕スタイル。現在は海外と日本を行き来しながら様々なメディアに風俗、ドラッグ、政治ジャンルの記事を寄稿している。

■地方へ。そして世界へ。出稼ぐ風俗嬢


「ウチ来週から沖縄に武者修行いってくるんよ」
 馴染みの泡姫が、ある日の別れ際にそんなことを言った。泡姫の武者修行とは、何事か。2回戦を終えた後で思考能力が落ちていたこともあり、最初は意味が分からなかったが、よくよく聞いてみると己の技を、そして女を磨くため、全国各地のお風呂屋さんを巡って飛び入りで働かせてもらうのだという。裸一貫で挑む夜のドサ回り、いや道場破りである。
 そのハングリー精神たるや日本球界を飛び出してメジャーに挑戦するプロ野球選手の如し。といっても泡姫としての彼女はイチローや大谷というよりは、伊良部のような狂犬タイプ。トラブルメーカーとして吉原ではちょっと知られた嬢である。店長やボーイはおろか、時には客とも平気で喧嘩をやらかす彼女が、沖縄で一体どんな伝説を作るのか。結局その日を最後に彼女とは音信不通になってしまったので、旅の顛末は聞けずじまいで今に至っている。

 道場破りといえば聞こえがいいものの、地方に流れていく風俗嬢というと都落ちのイメージは否めない。しかし、少しネットで調べれば分かることだが、風俗嬢の地方巡業というものは今日、珍しくない。何しろ風俗求人では「出稼ぎ」というジャンルが確立しているほどだ。
 さらに、なかには国内に飽き足らず海を越えて異国の地まで出稼ぎに行く風俗嬢も存在する。世界を巡る日本人風俗嬢、まさに現代版「からゆきさん」である。

 GDP世界第二位の座を中国に明け渡したとはいえ、日本はなお東亜に冠たる経済大国。食うや食わずの郷里を離れ、異国の娼館で春をひさいだ戦前の日本人女性たちとは時代が違う。豊かな母国を飛び出して、何故わざわざ苦労を背負いに世界へ挑んでしまうのか。金がいいのか、それともロマンを求めてか、はたまた単に借金のカタとして売り飛ばされただけなのか?
 世界をまたぐ壮大なスケールと、多くの謎。でも世間的には限りなくどうでもいい話ともいえるこのテーマに、海外風俗をこよなく愛するひとりの男として、挑みたい。そんな想いに駆られて今回、現代版からゆきさんとも言える彼女たちの事情を追った。

■ベトナムで出会った日本人(?)ヨシコさん

 そもそも自分が海外で働く日本人風俗嬢をこの目で初めて見たのは2012年。ベトナム・ダナンの中華系カジノホテル「C」でのことだった。
 そのホテルのスペシャルマッサージは、女子がズラッと並ぶ顔見せ方式。マネージャーらしきチンピラは英語で「ここからここまでチャイニーズ!」と言った後、冴えない風体の子を指さしながらドヤ顔で「これ…ジャパニーズ!」と言い放った。何故こんなところで同胞と遭遇するのか…というか、彼女は本物の日本人なのか。困惑する自分を見て疑っていると思ったのか、その子は「ワタシヨシコデス、ニホンゴシャベレマス」と口を開いた。

 長く祖国を離れて流浪の後に母国の言葉に触れたのであれば、カタコトの日本語に心動かされるかもしれないが、何しろ自分はその日に成田からハノイ経由で着いたばかり。しかしこの日本語を話す風体の冴えないお姉さんがいったい何者であるのかを確かめたいという好奇心が勝り、250ドルという超ボッタクリ価格を支払った
 彼女のビジュアルはハッキリ言って、ひと昔前に日暮里や大塚あたりにあった6000円くらいの中華エステレベルだったが、お値段は250ドルと、現地相場では立派な高級娼婦である。

 アレコレはさっさと済ませて、身の上話を聞くことに専念した。
 「なんでこんなところで働いてるの?」「パスポートはどこの国?」等々…まるで入管の取り調べ。同じことを都内のデリヘルでやろうものなら即出禁もやむなしだろう。だがここは異国の地・ベトナム。躊躇せずに疑問を投げかけた。
 「オカアサン韓国人、オトウサン日本人。オウチ新宿デス」
 なんのことはない、ヨシコさんは日韓ハーフなのであった。でもここダナンではコリアンではなく、ジャパニーズとしてひな壇に上がり、カタコトの日本語を武器に風俗嬢ヒエラルキーの頂点に君臨していた。
 そのワケは簡単で、日本人嬢はチャイニーズに需要があり、金になるからだ。カジノホテルのメイン客である中国人富裕層に身体を売るため、彼女は日本(韓国?)からはるばる呼ばれてやってきたのだ。

 どんなツテでやってきたのか、いくら稼げるのか等々、肝心なことは結局ヨシコさんからは聞けなかった。日本人を相手にしながら言葉の壁があるのも妙な話ではあるが、実際込み入った話となると、どうにも通じない。
 もっともヨシコさんが流暢に日本語を話せたとしても、身の上話を正直に話してくれたかというと疑問ではある。しょせんは風俗。身体許して心許さず。冒頭に挙げた泡姫とて、武者修行に行ったのか借金取りから逃げたのか、本当のところは分かったものではない。一瞬の夢を売る商売から真実を探し出すのは、難しい。

■スカウトマンによる出稼ぎ解説

 しかし、そこで諦めていたのでは風俗街道を歩む者として落第である。日本人風俗嬢たちは、どんな経緯で異国の地へと送り出されるのか。2012年から3年間で6人の日本人をマカオに送り込んだ、スカウトマンの知人に話を聞いた。ティッシュ配りのお姉さんすら口説きにかかる天性の女衒君である。

 聞けば彼は海外派遣も含めて「出稼ぎ」の案件は好きではないという。
「都内だったら女の子を行かせる前に、必ず店長とかオーナーと会って、相手をしっかり見るし条件もちゃんと話し合います。でも、出稼ぎだと送り出しっぱなし。まして海外なんてフォローしたくても限界があります
 彼いわく、商売の種である夜の仕事をしたい女の子のことを業界用語で「ネタ」、ビジュアルが厳しい子のことを「クズネタ」というらしい。ではマカオなど世界への挑戦権を持つ子たちは「上ネタ」なのかというと、必ずしもそうとは限らない。

 「もちろん事前の写真チェックもありますし、年は若めで背が165cm以上といったオーダーが来ますよ。僕が派遣した女の子のなかにはメーカー専属の元AV嬢もいたけど、埼玉のデリヘルで働いていた『ド企画』の子も送り込んでますしね。その子が確か、デリヘル時代の仕事の取り分が8000円だったんです。それがマカオからのオファーだと、スカウトと女の子の取り分を合わせて2万5000円になるんですよ!」
 おおざっぱに見積もって稼ぎが3倍になるのだったら、まったくもっていい話だと素人は思ってしまうが、ことはそう簡単ではない。彼いわく、国をまたぐ出稼ぎには何かと揉め事が絶えないのだという。

 「仕事の内容や待遇でモメることは意外と少ないんです。日本人は金になるっていう考えがあるから女の子のケアもしっかりしてくれるし、マカオに派遣する場合12日以上働けば顎足枕(食費、エアー代、宿代)は向こう持ちなんです。まあ当時の話なんで、今は変わってるかもしれないですけど」
 なるほど。では、風俗業界でよくある、女の子が飛ぶ(=突然店をバックれる)トラブルはどうかと聞くと、海外出稼ぎではその心配はまずないらしい。
 「揉める原因はズバリ、金です。海外出稼ぎは必ずと言っていいほど、金のことでモメるんです」
 マカオからのオファーは店とスカウトマンの直接交渉ではなく、間に何人かブローカーが入るそうだが、彼らが最初の条件を一方的に変えてきたりと、金絡みのトラブルは日常茶飯事なのだとか。

 「働いた分の金を女の子が帰ってきてから一括払いという条件で送り出したら、帰国後に仲立ちした奴が金を持って飛びまして。女の子にタダ働きなんてさせたら信用にかかわりますし、僕らの取り分もパーになりますから、もちろん相手を探してきっちり詰めました。スカウトマンって女の子を騙す悪い奴っていうイメージがありますよね? でも何かトラブルがあれば僕らは女の子の側に立つのが仕事なんですよ。まあ金が絡んでいるから当然といえば当然ですが(笑)」
 スカウトマンはある意味、出稼ぎ中のトラブルに対処する海外保険のような役割も果たしているのかもしれない。でも、ぶっちゃけ思う。君が間に入らなければ、女の子の取り分はもっと増えるんじゃないの?
 「そりゃ、女の子の稼ぎから自分の取り分を抜くんで。確かに、スカウトバックの分を女の子に還元する良心的な店もあります。直で求人に応募したら、スカウトを使うより手取りは多いかもしれない。でも、スカウトを通さないと、大体は女の子がお店の『持ち物』になっちゃう。最悪は店長の私物みたいになって、商品に手をつけ放題…なんてケースもあるんですよ」

 国内でもそんな有り様、いわんや海外をや。あくまで口の上手いスカウトマンの主張であると話半分に聞きつつも、言っていることに一理か二理は、あるような、ないような。
「スカウトを通さないでこの仕事をやるのは、言い過ぎかもしれませんが弁護士をつけずに裁判をやるようなものだと思います
 そんな自称・夜の弁護士から見た、日本人女性が海外へ出稼ぎに行く理由とは?
 「目的は金です。タダで海外行けるとかリゾートバイト的な誘い文句も使うんで、そこに食いつく子もいなくはない。でも、そもそも国内の出稼ぎだってお店が何日働いたら最低でもいくらは払いますって保証をつけてくれて、条件がいいからみんなわざわざ地方に行くわけですから。海外だって同じですよ」
 要は金。時代が移り変わっても、春を売る仕事の目的はそれに尽きるということか。

■日本人風俗嬢in海外のリアル

 さて日本から送り出す側の事情を聞いたものの、丸ごと鵜呑みにするのもいかがなものかという感も否めない。そこで続いて受け入れ側からは日本人風俗嬢はどのように見えるのか、マカオ風俗情報サイト『W』管理人の方に話を聞いた。2003年よりマカオの夜世界を探求し続け、現在は現地移住を達成。リスボアホテルで故・金正男と2回遭遇経験もあるという屈指のマカオ通である。

 「マカオで日本人風俗嬢を見るようになったのは2007年くらいからだと思います。昔は中国の東北地方や内蒙古自治区、モンゴル人、韓国人やシンガポール人を日本人と偽って出している店が多かったですが、働きに来る日本人女性が多くなってからはそういったことはなくなりました」
 日本人を買ったつもりがモンゴル人が出てきたらそれはそれで貴重な風俗体験にも思えるが、なにしろ日本人サウナ嬢は高い買い物。騙された客はたまったものではない。
 「価格は現在ですとおおよそ4000マカオパタカ(約6万円)。客はおもに中国人、それから香港、台湾、シンガポール人などが多いようです。なぜ中華圏の男が日本人を買うかというと「日本人女性=AV嬢」という先入観があるのだと思います。実際にマカオのサウナで働いていた日本人の子に聞くと、客がAVのようなプレイをしたがって困ると言っていました」
 この点はある意味、日本の風俗も同じ。 誰もがAV男優の真似をして女の子に嫌がられる。AVの罪はつくづく重い。

 「ところが最近、日本人風俗嬢の数がめっきり減りました。理由はいろいろあって、まず希少性が薄らいだこと。マカオ以外でもいまどき上海なんかでは日本人風俗嬢はそれほど珍しくありません。それから期待外れ。当たり前ですが日本人女性イコールAV女優ではないので、遊んでみたらイメージと違ってがっかり…ということはあるようです。あとは韓国人が増えたことも大きいです。マカオに出稼ぎに来る韓国女性は総じて背が高く、中国人好みの子が多いんです」
 悲しいかな、日本ブランドの地位低下は夜の世界にも徐々に及んでいるようである。

■ブローカーが語る「チャイニーズ・ドリーム」

 さらにマカオでブローカーを営む人にも匿名を条件に事情を聞くと、金銭トラブルの原因は必ずしも日本側スカウトとマカオのブローカーの問題だけではない、という話も出た。
 「店のなかでほかの子から情報を仕入れて条件のいいところに移ろうとしたり、店を通さずに個人営業をする子がいるんです。ナイトクラブで働く子で多いんですが、金持ちの上客を捕まえて大金を稼ぐなんていうのはこっちではよくあること。あとはついた客の人数を少なく日本側のスカウトに言ったりする子もいますね」。それをマカオ側ブローカーのせいにされても「なに言ってんのアンタ?」というのが本音だろう。

 現地ブローカーいわく、マカオに限らず中華圏で日本人嬢が夜の仕事をするメリットは、日本人というステータスを使うことで、我が国では考えられないようなケタ外れの成金をモノにできる可能性にあるという。カジノでいえばジャックポット大当たり、あるいは中国版プリティウーマンというべきか。
 何度も大陸へと渡るリピーターの中には、そんな「夜のチャイナ・ドリーム」をあからさまに意識している日本人嬢もいるのだそうだ。
 日本のスカウトマンが言うように、ただ単価がいいから海外出稼ぎの道を選ぶ、などという単純な話では説明できないのも現代版からゆきさんの実情のようである。

■風俗嬢を支える“女”の存在

 スカウトマンもブローカーも夜の仕事で働く女性は飯の種。どうしても話は金がらみに終始しがちで、異国で働く日本人女性の日々の暮らし、生活の匂いは伝わってこない。
 そこで少し古い経験談ではあるが、マカオで出稼ぎ日本人嬢のケアをしていた女性にも語ってもらった。 なにぶん狭い業界ゆえに、本人特定を避けるため業種や時期など詳細を明かせないことは、あらかじめご理解いただきたい。

 「マカオに行く前は関西で水商売をやっていました。接客からは足を洗いたいけれど夜の仕事には関わり続けたいと思っていて、求人をいろいろ探しているうちにマカオで女の子のマネージメントをやらないかっていう話があって…」
 これが足を洗ったと言えるかどうかは疑問に思えなくもないが、客相手の仕事ではなくあくまで裏方、バックがいくらなんて世界ではなくお給料制。彼女の感覚では「昼職」だ。 

 「仕事の内容は女の子たちの食事を作ることからなにから、ありとあらゆる雑務すべて。拘束時間は長いですけど、女の子が仕事中はなにもやることがなくて、意外にヒマなんですよ(笑)」
 カジノだったら時間空いてるんじゃない? と思ってしまうが、彼女は博打にはいっさい興味なし。
「というかそれ以前に、私が所属していたグループはカジノ禁止だったんですよ。だから出稼ぎの子たちもやることなくて、日本にいる彼氏とか友達にしょっちゅうスカイプで電話してましたね。みんな一番の悩みはパケット代。5万とかすぐいっちゃってましたから」 
 異国の仕事はホームシックとストレス がつきもの。彼女の仕事はそのケアなのだが、これが簡単ではないという。

 「女の子たちが慣れない環境で不眠症になったり、海外慣れしていないから貴重品を盗まれて、警察で盗難証明書を取ったりとかトラブル対処が大変でした。それに、気候も日本とは違うんですぐ風邪とか下痢になっちゃう。3人同時に下痢なんてことになると食事が疑われるじゃないですか。だから献立には超気を遣ってましたよ。
 あと大変なのは女の子が帰国するときの荷物を送る用のインボイス書き。 こんなの捨てればいいのにって思うものまで持って帰るんです。パジャマとかタオルとか、あと生理用品とか。タンポンって英語でなんて書くんだっけ…なんて調べながらやってましたね(笑)」

 ほとんど付き人レベルの激務だが、そんななかにも彼女自身に異国でのロマンスや、中国人との出会いはなかったのだろうか?
 「バーで知り合ったシンガポール人といい感じになって1回だけありますが、避妊に失敗しちゃって…。困っていたら出稼ぎの子の中にいたソープ嬢が『72時間以内なら後ピル飲めば大丈夫だよ』って教えてくれたんで、たまたまそのとき深圳にいた知り合いに買ってきてもらったんですね。そしたら値段がたったの30元(笑)。『これホント大丈夫なの?』って感じだったけど、いちおう効き目はあったみたい。ちなみにその件で、お店の男性スタッフには『みんながんばって仕事しているのにお前だけ楽しみやがって!』ってめっちゃ怒られました…」

 きらびやかなひな壇の裏側にも日本人女性の姿あり。彼女のような存在があってこそ、出稼ぎ日本人嬢たちも安心して働けるというものだろう。

■というわけで、厳戒態勢の上海へ…

 さてここまで書いているうちに、筆者は猛烈な渡航意欲を抑えられなくなっていた。この瞬間も大陸で働く日本人風俗嬢に、直接会って話を聞きたい。中華の大地に健気に咲く大和撫子に、何としても触れてみたいと思ったのだ。
 そして向かった先は上海。「いや、マカオだろっ!」とツッコミの入るところと思うが、そこはご容赦を。一時期より落ち着いたとはいえマカオは宿も遊びもまだまだ高い。そんな金はないのである。

 さて上海風俗。実は習近平が天下を取って以来、風俗方面の取り締まりが中国全土で厳しくなり、自分が訪れた時には営業している風俗サウナは一軒としてなかったが、馴染みの中国人マネージャーに聞き回り、厳戒態勢のなかでなお上海に残りマンションの一室で客を取っている子を探し出した。
 お値段は2500人民元(日本円で4万強)。相場よりもかなり安いためモンゴル人が出てきてもおかしくない値段設定ではある。手付金は500元。これを微信(ウィチャットペイ)もしくは支付宝(アリペイ)で先払いしないと、予約を入れてもらえない。中国で猛烈に普及中のキャッシュレスの波は、風俗業界にも及んでいたのだ。

 幸い自分は馴染みの中国小姐への個人ODA用にいくばくかの残高があったので手付金こそ払えたものの、中国は観光客が気軽に女遊びができるような環境ではなくなってきていることを肌で感じた
 つたない中国語で仲介人とやりとりをして、道に迷いながらも上海中心部のとある高級マンションにたどり着く。そしていよいよご対面。マネージャーから教わった部屋のイヤホンを押すと、出てきたのはまたもやハーフらしき嬢。しかも日本人要素は前述のヨシコさんに負けず劣らず希薄な嬢だった。

■上海で出会った日本人風俗嬢

 「日本人? メズラシイネー」
 散らかった部屋の奥にある衣裳がけには、私服に混じって仕事で使うと思しき着物、というか浴衣が1着。それとカタコトの日本語だけが、この子が日本人であることを示すものなのであった。
「お父さんニホンジン、お母さんとソボがマレーシア。AVやってたヨ!『イッポンド』て知ってル?
 それって裏では…と思いながらも手付けを引いた残りの2000元を彼女に手渡した。言葉はともかく、東洋とマレーが絶妙に融合した、高級娼婦として文句なしのルックスではある。ちなみに日本に帰ってから某サイトを検索したところ、彼女の出演作があったことを読者諸兄に一応報告しておく。
 ダナンのヨシコさんで懲りていたため、聞き取り取材は難しかろうと半ば消化試合モードだった筆者だが、久しぶりに日本語を話す客が来て彼女は上機嫌だったのか、身の上を饒舌に語ってくれた。

 「日本でスケベシゴト1回10万やってた。高いデリヘル、お客さんあんまりいないね。上海はサウナの時だと3888元、いま私もっと安いヨ。でもサウナは警察コワイからもうダメ!」
 こんな話しぶりではあるものの、彼女の母国語はれっきとした日本語。学生ビザで来ているようで中国語も少ししゃべるが、英語とマレー語はからっきし。家族とどうコミュニケーションを取っているのか、彼女はいったい、夢を何語で見るのか。興味は尽きない。
 おおらかなアジアの血がそうさせるのだろう。わけのわからない日本人客に対しても彼女の心はノーガード。本名もこちらから聞く前に言うような子だった。

■歴史、金、親、そして…スケベシゴト

 そんな彼女、2017年の上海サウナ大摘発の際も、某高級店で働いていたそうだ。警察が乗り込んできたその時、彼女はちょうどトイレにこもっており、服を着ていたのと、あとは本人いわく日本国籍だったがゆえに難を逃れていた。実際には日本人客で捕まった人もいたらしいので、彼女は単に運が良かっただけなのかもしれない。
 摘発事件後、多くのサウナ経営者はほとぼりが冷めるまで小姐たちを引き連れてマカオ、昆山、西安など中国各地へと散っていったのだが、そのおもな行き先のひとつが南京だった。

 「南京でスケベシゴト誘われたけど断ったヨ! 日本人、南京コワイね!」
 上海から新幹線で数時間、いまや国内から直行便すらある南京だが、日本人にとっては地球上でも指折りの絶対的アウェーの地である。日本語が覚束ない彼女であっても、それはちゃんと分かっている。
 「サウナの頃は南京から上海に遊びに来る中国人のお客さん、けっこういたヨ。日本人の女は好きだけど男は大嫌いだっていう、面白いネ。お店のなかでも日本人タイヘン。お店のスタッフ、『おい、小日本(シャオリーベン)仕事だよ!』『もうメシ食ったか小日本!』そうやって私のこと呼ぶ人いる。日本悪いことしたの昔のことデショ、私カンケイないよ!

 そう、君は悪くない。でも、中国で働く日本人風俗嬢は大なり小なり、おそらく否応なしに歴史の重みを背負わされてしまう。南京の仇はサウナで打つ。日本人を買う大陸男に、そんな想いを持つ者が一定数いることは想像に難くない。日本人が敗戦後、白人レスラーを空手チョップでなぎ倒す力道山の勇姿に溜飲を下げたのと同じ構図であるともいえよう。

 日本人というよりは国籍不明感すら漂う彼女が、生まれる遥か前の歴史問題に、まさに身体を張って向き合う不条理。それでもなお彼女は上海が、そして中国が好きだと言った。
 「中国お金いっぱい稼げるよ! いまは 1日に少なくても8人、ひと月に20万元シャチョサンくれる。お金貯めて上海にマンション買いたい。お父さんも上海呼びたいヨ! でもこの仕事言ってないからマンション買ったらバレる、面白いネ」

 送り出すスカウトマンと、受け入れる現地ブローカー、そして日の丸を背負って海を渡る日本人風俗嬢。三者三様、言い分や考えはそれぞれで、芥川龍之介の小説よろしく真相はまさに薮の中(実際はそんなに深い話でもないのだが)…。現代の「からゆきさん」たちの笑顔の裏には様々なドラマが潜んでいるかと思うと、実に感慨深い。

 ひとつ確実に言えるのは、昔も今も、日本の女性は逞しいということだ。ハーフだろうがネイティブだろうが、そんなことは関係ない。異国の地で裸一貫、今日も仕事に汗を流すすべての日本人風俗嬢たちの幸せを、ささやかながら祈るばかりである。

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