幸福洗脳VSマクドナルド?中田敦彦は藤田田をどういかすか。モノの売り方、イノベーションの起こし方を語りつくす。
「日本マクドナルド」創業者の藤田田。ハンバーガーを和食に変えた伝説の起業家だ。このたび氏の著作、全6冊を4月12日に復刊する。藤田田という存在をTV番組の企画で知って以来、自身のビジネスのメンターとして心酔する中田敦彦氏に、その哲学を読んでもらった。取材の全文を公開する。
■「カラスは白い」とあなたは言えるか?
――中田さんは、若い人たちの才能や能力の伸ばし方というお話をされていると思うんですけど。藤田田さんに興味を持ったのはどういったところですか。
中田 とにかくすごいパワフルですよね。そして全く嘘がなくて、あけすけに自分のやり方を伝えていく感じが痛快だなと思いました。あれだけ成功しているのに、これを言うと今でいう“炎上”するなとか、これは批判されるだろうな、という言い回しも恐れずにずばずばと言う。「お金をかせぐ」とはこういうことだと正面から書いている。昔の本なんですけど、いま逆にいない人、いま欲しい人というか。読んでいて気持ちいいですね。痛快でした。
――もし藤田田さんがいま、ツイッターやっていたら…
中田 そうですね、ツイッターとかやっていたら前澤さんみたいに色々起こるとは思うんですよ。本当にいつの時代にいても、人をひきつけるパワーのある人なんだろうなということが、文章からもうかがえる。ぼくはこの「カラスが白い」という所が本当に好きで。~モノを売ることは「カラスは白い」と言うことだ~というくだりがある。
「カラスは黒い」とか「1プラス1は2である」と、当たり前のことを当たり前にいっていたのでは、だれひとり説得はできない。
「カラスは白だ」ということを証明できる、さわやかな弁舌を身につけるべきである。
そんな弁舌を武器にしなければならない時代なのだ。その弁舌を武器にできれば、太陽は西から上がる、ということだっていえるようになる。
「太陽は西から上がります。たまたま、今日は東から上がりました。しかし、明日は西から上がります」
こういって相手を説得することも可能である。そういったことをいえるようでないと、金は儲からない。当たり前のことを当たり前にいっていたのでは儲からない。(『ビジネス脳の作り方』より)
ぼくが好きな『ウルフ・オブ・ウォールストリート』という映画に、ディカプリオふんする主人公が「ボールペンを俺に売ってみろ」と言うシーンがあるんですよ。「いまここにボールペンがあるだろ。これを俺に売ってみろ」と。そこで営業のなんたるかを、仲間に説明して伝える。
単純に機能やデザインがいいといっても、人は買わない。ボールペンを買わせるということは、その人に話を聞いて、その人の中からボールペンを買う理由を見つけて、そこを刺激するんだと。
この藤田田さんの「カラスは白いんだ」というのも、いかに買う気がなかった人にモノを買う気にさせるか、ということ。「カラスは黒い」と思っている人に「カラスは白いのかもしれない」と思わせるような気概と弁舌法が必要なんだ、というところがなるほどなと。
■「とにかくやる」の大切さ
中田 そして(藤田田さんの)断言する強さ。朝令暮改OK。その「パワー」と「スピード」がすごいなと思っていて。
ぼくもすっごい朝令暮改なんですよ。もう、朝すぐ決めて…いや違う!みたいな感じ。ぼくのモットーはNIKEからとって“JUST DO IT”、とにかくやる。
いま、アパレルブランドもやっているんですけど、「アパレルブランドやりたいなあ」って夢を持ってる人、周りにめちゃくちゃいるんですよ。でも1年たっても、2年たってもやらないんですよね。「あれどうなった?」って聞いても「いや今準備中なんで…」って言われちゃう。でも、準備している間にぼくはもう作って店出しちゃう。
まずやってみて失敗して、得るものを得る。そこからアップデートすれば、準備している時間が長い人よりも、絶対に経験値増えるだろうなと思っていて。「とにかくやる、すぐやる」を社是にしてるんですけど、(本を読んで)それでよかったんだ!というのがほっとしましたね。長期スパンで物事を考えてブレるな! みたいなことを言われたらどうしようと思ったんですけど、バンバンバンバン変えていいから、とにかくすぐやれと。
なにか「パワー」と「スピード」を兼ね備えているということが古今東西大事なことなんだろうなとは思っています。前澤さんのZOZOも、もともとの社名が「スタートトゥデイ」なのも、まさにですよね。どのビジネス書を読んでも結局「やるかやらないか」ということを書いてあるので、ここが大きな分かれ目なんだろうなと、再度読んで思いましたね。
あとはマクドナルドという会社の個性ですよね。もともと日本マクドナルドと海外のマクドナルドの違いも知らなかったんです。(日本はアメリカの)ビジネスモデルを持ってきたのか、ぐらいの認識だったんです。でも、それどころか本家のビジネスモデルを変えてしまった。都市部に出店しても成功するという前例をつくった。本家のマクドナルド自体のやり方をアップデートしたのも、藤田田さんなんだ、というのは面白いなと思いましたね。いまのマクドナルドって、むしろ都市部とかに多いイメージじゃないですか。そのイメージを作っているのも、田さんの功なのかもと。
あとはなにか、「お金を稼ぐ」というのを徹底的に楽しんでいるなと。いまの時代、お金を稼ぐということに対してちょっとネガティブだったり、なんかあんまり「お金お金」と言うと、いやらしい人間に思われそうという感覚がある。でもこの時代に、これだけお金の話をしている。すごいパイオニアだったんだろうなと思います。国際感覚もあると思うし、まさに『ユダヤの商法』だった。日本人らしからぬ日本人だったんだろうな。面白い人だなと思います。
――本家は郊外でマクドナルドですけど、日本では都市部で。藤田さんの人生は常識を変える人生だったと思います。そんな生き様に中田さんは藤田さんから触発されるものってありますか。ひっくり返すという。
中田 そうですね…前例がないということが結構ストップの理由になりやすいのはいつの時代もそうなんだろうなと。そしてその中で、(田さんは)「前例がないからいいんだよ」というのをおっしゃっていて。
ブルーオーシャンを見ろと、よく言われるけど、実際自分でやるときって、結局逆風もあるし、前例がないということで、ずうっとみんなに反対される。それも気にしない。いかに自分を信じて断言するか。こうやれば絶対こうなるからと。「カラスは白いから」と人に言って、そうしてしまうというパワー。それが必要なんだなと思います。ぼくの「幸福洗脳」(※自身が手がけるアパレルブランド)もまさしくです。「幸福洗脳なんて恐ろしいTシャツだ」と言われても、「いやいやそんなことない。幸福洗脳という言葉はじつは面白い言葉なんだ」と説得して、このTシャツを買ってもらうという作業なので。だから自分自身すごく励まされました。
■カフェ経営に藤田流を応用する
ーーその他にエピソードでなにかおもしろいなというのは。
中田「10メートルは10キロと同じ」というのはぼくになかった発想ですよね。場所・ロケーションの問題。ぼくは実店舗を持っていて、乃木坂でアパレルのお店をひらいているんですけど次にカフェをやりたいなと。それは本当にこの理論を吸収してやってみようと思っています。
マクドナルド商法では、この〝ロケーション〟ーー「場所選定」をきわめて重視する。
日本の商人が、念願の銀座へ進出する場合、10人のうち9人までが、
「銀座へ出られるならば、どこでもいい」
といった考え方をする。じつにおおらかである。ところが、これがとんだ間違いなのだ。銀座でも「商売になる場所」、つまり「儲かる場所」と、そうでない場所がある。そして、儲かる場所と儲からない場所は、ものの10メートルと離れていないのである。
たとえば、私は銀座三越の国道1号線、いわゆる銀座通りに面した場所にハンバーガーの店舗を出したが、この店を銀座三越の裏側に出していたら、こうはいかなかっただろう。銀座三越の裏手ならば、駐車場はできても、ハンバーガーを売るわけにはいかない。
図を見ていただきたい。
Mが銀座三越にあるハンバーガーの店舗である。この店は、銀座1丁目から8丁目へかけての銀座通りの中心である銀座4丁目の交差点から3丁目寄りの8丁目に向かって左側にある。
Aは銀座8丁目の隣の新橋にあって、銀座通りにつき出すように立っている新橋住友ビル6階にある、私の社長室である。私はいつも社長室に望遠鏡を用意しておいて、銀座の人の流れを見るともなく眺めていたが、長年眺めているうちに、人の流れにも法則のようなものが存在するのに気がついた。
~中略~
たとえば、私がこのマクドナルド銀座店を、三越から築地寄りに10メートルばかりいったところへ開店していたら、1日に150万円とか200万円とかいう売上げを記録できたかどうかわからない。この10メートルは、じつに重要な意味を持ってくる。
~中略~
デン・フジタの商法では、10メートルは決して10メートルではない。10メートルは10キロメートルなのだ。
(『頭のいい奴のマネをしろ』より)
ぼくはいまは、人の流れがないところでアパレルの店を持っています。そこにどう呼び込むかというゲームをやっているわけですよ。だけど今度はとにかく人がくる店を作ってみたい。いまの店はもう本当に価格帯が高いので、顧客が少なくてもある程度この数売れたらやっていける。(採算が合う売上数が)少ないんですよね。でも、ハンバーガーもそうですけど、カフェとか飲食系のものはやっぱり回転していかないと、そうはならないので。
じゃあ次こそはこの教えかもなと。ロケーションをすっごい研究する。人の流れを見るというところでいうと、ぼく浅草寺を最近見に行ったんです。カフェやりたいなと思って。まだこの藤田さんのお話を貰う前に。そうしたら、ものすごい数の人が浅草寺の仲見世通りにいる。平日の昼間なのにめちゃくちゃ人がいる。でも、浅草全域が繁盛しているわけじゃない。歩いてみればわかるんですけど、「あれっこういったらこうやって帰るよな、こういうルートたどってこういうふうに駅に戻るか…」という人の流れに気づきました。
人が自由に歩いているようで、なんとなくルートを「歩かされている」んですよね。街というのは、川の流れのようなもので、流れやすいところに、水が流れている。水が自由に流れているようで、実は「流されている」に過ぎない。
つまり同じ浅草でも、こっち側とこっち側では(人の数が)全く違う。こっちはもう寂れに寂れていて、こっちはやばいなと。こっち側でもみんなこっち見て歩くのか、とか。そういうちょっとの差がすごく大きい。あるいは1階か2階かとか。
そこを侮って、なんとなく原宿とか、なんとなく浅草(に店を出そう)とやってしまう。そうすると期待していたロケーションになっていない。それは痛烈に感じました。同じ銀座でも全然違うぞと。これはすごく面白い、真理だろうなと。人間というのはひとつの行動原理の中で“あるある”の中で生きている。
ーー結構普段から、そういう今の浅草の話とか、研究とかってされているんですか?
中田 はい。だからやってみたいなとか、「これいいな」って思ったものはどんどん真似してやってみたいって思うようになりましたし、すぐ取り入れるんですよ(笑)。でいいなって思ったこと。
いま、僕のTシャツを売るときに、1回また壁にぶちあたったんですよ。自分のホームでは売れるけど、アウェイでは売れなかったんですね。なんでだろう? って思ったときにストーリーがないからだと気づきました。
ぼくは「幸福洗脳はこういうTシャツなんです」ってプレゼンテーションをして、聞いてもらえれば「じゃあ買ってみよう」と思ってもらえるんですけど。それなしで単体で出したときにやっぱり売れなかったんですよ。僕がいつも営業かけれるわけじゃない。
じゃあどうしよう? と思ったときに、スターバックスリザーブに行ったんです。カフェ研究の一環で。スターバックスリザーブは高価格帯で1杯1000円弱するコーヒーを売っているんですが、この価格を納得させることってなんだろうと考えました。
内装の作り方もそうなんですけど、コーヒーに1枚1枚カードがついているんですね~この豆はこういう産地でとれて、こういうプレミアな豆なんですよ。あなたが飲んでいるのはこの豆です~という豪華なカードがついてくる。そのカードも豆によって、裏のデザインも違うんですよ。~このデザインはすべて、この豆の産地や風味をイメージして1点1点アーティストがつくったものです~と。ここまで手間がかけられていると、今飲んでいるコーヒーもさすがに美味しく感じられる。うんなるほど。これは味わえると。
同じスペシャリティコーヒーの豆を使っていても、雑に出している店もあるんです。「うちはスペシャリティーコーヒーの豆を使っていますからね」と言っているのにミルクで割るとか。そんなに良い豆なのに、なんでラテを推しているんですか? と言っても、店員はポカーンとして「いやでも美味しいですよ!」みたいな。この店員はあまりわかっていないんだなと思います。
スペシャリティーコーヒーの豆の良さをわかっていない人がわかっていないまま売っている店と、(豆の良さをわかっている)スターバックスリザーブは全然受け取り方が違う。
ぼくはこれだ! と思って、すぐにデザインしてTシャツ1枚1枚に全部カードを入れるために、びっしり書いて、HPもびっしり書いて。ただ(スターバックスリザーブに対する)リスペクト。どこかでリスペクトできることがあったら必ず吸収しようと。それが全部商売につながる。
最近いい獺祭(だっさい ※旭酒造の名酒)をもらったんですよ。山口県で獺祭をもっとプッシュしないとだめだ、という話をしたときに、獺祭の社長から送っていただいたものがいい獺祭だったんですね。「磨き二割三分」といういい獺祭。
すごいいいお酒だなと思いました。そこにちゃんとカードついているんです。「磨き二割三分」の意味がわかる。磨きなんとかと言ってもわからないなと思ったけど、二割五分から二割三分にまでして、品質を上げたストーリーが書いてあるんですよ。これは美味しそうだなと思って飲む。とにかく、ぼくはビジネスを始めているので、なにもかもリスペクトしています。
よく、「視察に行こう」って言いますね。街に行って、並んでいる店に入ってみようとか。なんでこの店がいいんだろう? 内装? 値段? というのを考えるのは楽しいですね。
■お笑い、タレント、ビジネス…ジャンルをまたげばイノベーションが起こせる
ーーもともとビジネスをやってみたいというのはきっかけは。
中田 いや…もともと、「お笑い芸人になる」という感覚もなかったんです。ゼロ年代の初頭、お笑い界がものすごい盛り上がりを見せていて、ゴールドラッシュだったんですよね。だからぼくも(お笑いを)本当にベンチャーマインドで始めたところがあります。
ぼくの感覚として、タレント活動かビジネスかではない。タレントも一個のビジネスだし、あらゆる人がビジネスをやっている。そういう意味で言うと、(アパレルなどの仕事をしたりするのも)他ジャンルにいくという感覚。このジャンル(お笑い)だけをずっとやっていくよりも、他もやってみたいなと思って。
最初は音楽です。音楽はどうつくるんだろうと、試行錯誤していろいろと自分で突き詰めていく。そうして、ジャンルをまたぐとイノベーションが起こりやすいのかもしれないと思いました。結構、みんなひとつの業界にずっといる人が多いので、その業界の常識、パワーバランス、不文律、タブーとかがある。
それをジャンルをまたぐことで、通例を気にせずになにか新しいことができる。“外国人”として急になにかを始めることができるわけですよ。でも、その前の仕事をやっていたという強みをいかしながら、始められるのでそこで融合が起きてイノベーションがおこりやすい。
RADIOFISH(※オリエンタルラジオを中心に結成されたダンス&ボーカルユニット)の何が特異的だったかと言うと、サビで目立つのがボーカルじゃないというのが一番大きい。普通の音楽グループでは、ボーカルがすごい強い意見を持っているんだけど、うちはそうじゃない。ふざけているのか、ふざけていないのかということもできたし。
さらにゴールデンの音楽番組じゃないところで、そういうパフォーマンスが披露できたというところも大きかった。とはいえ、数字は似たような数字とっているんですね。『ミュージックステーション』も『ENGEIグランドスラム』もだいたい10%とっていて、見ている数・コマーシャルできる数も一緒。そういうイノベーションがあったのかなと。
「みんなが見たことがないもの」を「みんながアーティストを見る」ぐらいの距離感に見せることができた。そういうところは新しかったのかなと思うと、ぼくはアパレルを始めるときもそこはすごく意識してました。
いま普通に黙々と服を一生懸命作っても、勝てない。「ぼくが作る」って、なんだろうということを考えて、イノベーションを起こそうと。そういうマインドにどんどんなっていきましたね。当初はお笑い界に勉強とか受験とかを頑張ってきたやつが入ってくる、というイノベーションで考えていましたが、そこからさらに外へ外へで、(イノベーションが)雪だるま式になっていくなとは最近思っています。
■良きリーダーは後継者ではなく後発を育てる
――なにかとひとつの場所に居着くことが停滞を生む。中田さんはそれを恐れているのかなという印象も受けます。その前に一点聞きたいなと思ったのは、番組の中でお話しをされていたときに孫正義さんの話があったと思うんですけど、藤田さんの魔力がすごいところはあそこにあったんじゃないかなと。ようするに、次世代の人を育て予言していた。その話を聞いたときどう思われました?
中田 あれって孫さんが若い頃に、田さんのところに来て、みたいな話でしたっけ?
――そうですそうです。会いに行ったんですよね断られても。
中田 孫さんが? 田さんのところに会いに行って、なんて言ったんでしたっけ?「これからはコンピューターだ」みたいな。
――そうですね。(孫さんが)これから私はアメリカに行って何かを学びます、と言って。じゃあ何がいいかと、(田さんが)コンピューターだと言って、偉いことになってしまったと。
中田 ぼくが最近なるほど、と思った言葉は、「良きリーダーは後継者ではなく後発を育てる」という。自分のコピー・代わりになるものを育てるのが後継者を育てる行為だと思うんですけど、自分とはまた違う形で、自分を追いかける、自分のモデルをトレースしながらまた違うことをやるっていう人が育っていく。そういう環境が「後発を育てる」ということらしいんですよね。
それができるリーダーは素晴らしい。逆にできないときは何かが不具合を起こしている。そして悪いリーダーは「後発を潰す」。自分の優位性を保ちたいがために自分のやり方をトレースして、違うジャンルで成功しようとする人たちを、バンバンバンバン潰して、追い抜かれないようにする。だから自分の言うことを聞く人間を後継者にする。そういう人は「後継者を育てる」。
でも「後発を育てる」ことがすごく大事。そういう意味で言うと孫さんへのアドバイスの仕方も含めて、(田さんは)後発を育てるタイプの人だったのかもしれませんね。
■「優しいけど勝てない人」は商売にすごく向いてない
ーーこの本を読まれて、ほんとに藤田田さんに会いに行きたくなったっておっしゃっていましたが、すごいと思ったフレーズとかありますかね?
中田 とりあえずかなり口は悪いですよね(笑)。「女をねらえ」とか「口をねらえ」とか。なんか激しいじゃないですか?
その中でひとつ「啓蒙をするな」って言葉があったんですよ。はーっと、これは胸に刺さりましたね。消費者は知らないけど、生産者は知っていること、というのはあるわけですよね。でもその生産者が知っていることを共有して、意識が高い選択肢をとってほしい、と思っても大衆はそこまでそのジャンルだけに興味を持っているわけじゃない。
だから、全く知らない人に売るためには。ものすごくわかりやすくしなくちゃいけない。それは「啓蒙」作業であってはいけない。わかりやすく大衆に届けて売るんだ。「勝てば官軍」だと。
ぼくもテレビで、色んな商売をやっている人をロケで見てきて、みんな楽しそうなんですよ。ホントにすっごく楽しいんだなと。人に喜ばれて、お客さんがくる。
僕も店ひらいてみて、僕自身は店に立たないって決めてますが、たまに打ち合わせとかでバックヤードにいたりするんです。お客さんが来たりして喜んで帰ってくれるだけでも、無茶苦茶嬉しいんですよ。単純にタレントとして今までネタを見せてたプレーヤーのときから、テレビやって視聴率とか視聴者とかそういうマスのところ行って、さらにプロデュースしてお客さん来るっていうのを見てて。
お客さんとのやり取りをみてるだけでもうれしいなと思うんです。でも、いろんなお店の中でよくあるのが、お客さんはすごい来てるけど全く儲かってない店ってあるんですよ。それは価格設定が間違ってたりとか、お客さんに無理を強いられている。
例えば定食屋とか喫茶店とかで、「お母ちゃんこれないの?オムライスないの?」みたいな無理を言わる。メニューには無いんですよ。だけど「わかったよ」とか言って、スーパーいって卵買って作って出しちゃうみたいな。それで「いつもの同じチャーハンと同じ値段でいいよね」ってお客に言われちゃう。儲けられてない。そういう人も充実感を持ってやってるんですけど、ボロボロになってるんですよ。体力的に。
「商売は勝たなきゃいけない」ってずっと思ってたんです。その中で、ギブアンドテイクだけじゃなくて、ギブしてかなきゃダメ。ギバー(与える人)にならないといけない。最終的にはギブしていく人間が勝つんだ。そんなことを聞いていて。でも、最近ビジネスをやり始めてその界隈の人と話をしていてて、やっぱりギバーでありウィナーでなければいけないんだなって思ったんですよね。ウィナーのギブって何かなっていうと、ただの奉仕ではなく投資なんだなって最近気づいたんです。
勝ちながら誰かに何かを与える。それを続けるには、「こいつは見込みがあるぞ」という人に、投資の意味で先行的に何か奉仕する。そういうかなりしたたかなやり方。そう考えると「優しいだけで勝てない」人は商売にすごく向いてない。
その中で僕はただ「ギブギブ」(与えろ与えろ)って言われても、そういうことかなあと、最近思ってたんです。でも、この藤田さんの言葉の中に「テイク・アンド・アスク・フォー・モア」っていう、もらった上でさらにもっとって(要求する)。これも一つの真理だなってすごく思うんですよね。
貪欲に「もっともっと」と勝とうと思わずに、そこそこで満足してたら商売は停滞してしまう。勝った上で、さらに上を上を。儲かれば、さらに設備投資して儲けようと。そういう利潤追求の鬼になるっていうことと、人間関係を円滑にすることを奇跡的なバランスで回していく人だけが、ビジネスを続けていけるのかなって強烈に思いまいしたね。
■国際的な競争力を養ってその時代を迎え撃つ
――「啓蒙はするな」ということは書いてあるんですが、一方でこの本を契機にして中田さんの商売に対する考え方も広がっていった。そこも含めて何か若い方に、推薦をいただけないでしょうか。どう読めばいいのか。
中田 若い人ですよね、うーん。
――中田さん自身も若い世代になると思いますが、仲間というか同志にもし伝えるとしたら。
中田 今「絶対勝ちたい!」って人は少ないと思うんですよ。なんとなくやりがいのあることを、やればいいっていう人が多いなと。やってて楽しいとか、やりがいとかは勝った後の話しなのかなって思うんですよね。
まず勝つ。結果を出す。行動して勝つ。この『勝てば官軍』って一周回って今っぽいのかもって思いましたね。この厳しい時代は勝たなきゃダメなんだという。「バカに売るんだ」とかそういう無茶苦茶でオラオラな感じも含めて、この圧倒的なエネルギーが実は今大事なんじゃないのかな。
あと、(藤田田は)単一民族の中でインターナショナルな感覚を持って、ボロ勝ちしていった人だと思うんです。日本が、今どんどん多民族国家になっていく予感をみんな持っていると思うので、この田さんのような国際的な競争力を養ってその時代を迎え撃つ。その姿勢がすごく求められてるのかなと思いますね。
経営者はゴルフは適当に負けてもいいから語学をやれみたいな、付き合いでやるのはいい。すごくインターナショナルだなって思いますね。
僕も今ホームページ作ってて、英語と韓国語と中国語を併記するようにしたんですよ。アクセス流入の分析をすると、普通に全世界的に見られてるんですよね。
アメリカとか中国とかでアクセスしてるんですよ。ああ見られてるんだって。なんでかわからないけどなんかの経緯で入ってくるんだ、じゃあ買いたいって思わせたら買ってくれるってなるわけなんですよ。
海外旅行行ったときに英語と中国しか併記してなかったときここ日本人が来ることを想定していないエリアなんだ。さみしいなって思ったんですよね。
それは日本の列車やトイレでも同じで、日本語と英語しか書いてなかったりするんですよね。それじゃあ中国の人わかんねんだろなって思います。
でも日本に来る外国人の比率って、中国人が一番多くて次が韓国人でそのあと欧米人。なんで日中韓併記してればほぼ90%カバーできる。にもかかわらず併記しようってする公共の施設もないしお店にいたってはもうほとんどそれがないわけですよね。だとしたら日中韓併記する感覚とかそれを翻訳しながら世界に物を売るんだって感覚をもってるともう一歩リードできるかなと思ってそこを進めようと。まさに、「もっともっと国際的に」というメッセージは言っていたなと思いました。
――ありがとうございました。
取材:BESTT T!MES編集部 写真:岡崎陸生