自分の趣味をラノベ風に書いてみたら 第3回
テキスト:金澤流都 https://twitter.com/Ruth_Kanezawa
イラスト:真藤ハル https://twitter.com/shindo_hal
第3回 『悪夢か吉夢か!? 金の亡者タヌキさん降臨だなも』
前回、ゲーム大好きっ子として育った話をした。そのなかでも記念碑的なゲームである、どうぶつの森の話をしたいと思う。
わたしが小学校高学年のころ、ニンテンドー64のソフトとして最初の「どうぶつの森」が出た。特にゲーム雑誌を読んだりしていたわけではないので、噂で聞いて「おもしろそうだなあ」と思っていたのだが、大人気だったためか地元のゲーム屋さんではなかなか見つけられなかった。ある日たまたま覗いたショッピングセンターのゲーム店で見つけて、「あっこれ欲しかったやつ!」と言ったら、なぜかは知らないが母が買ってくれた。それが、どうぶつの森との出会いである。
このゲームは本当に傑作だった。敵がいるわけでもなければ、なにかをやらなきゃいけないことがあるわけでもなく、のんびり魚を釣ったり虫を捕まえたり化石やハニワを掘りだしたり、村人のどうぶつたちに使いっ走りにされたりして、ひたすらのんびりするだけのゲームなのである。「平穏な日常」を楽しむ感じだ。
小学生のころはまだかろうじて友達がいたので、友達二人に3日交替で貸し出して交換日記みたいにして遊んだ。家具をもらったり、こちらからプレゼントしたり、とても楽しかった。「こっそり学校にゲームソフトを持って行って次の友達に渡す」という背徳感も楽しさの一因で、よくまあバレなかったものだ、と思う。
中学にあがってからだったか、ゲームキューブのソフトとしてどうぶつの森が出た時も、わたしはそれを速攻で買った。
今度は友達と交換日記するのではなく、そのころたまたま無職だった母と、のんびり楽しんだ。メモリーカードがあればいくらでも村が作れ、さらに他村のフルーツは高値で売れるという仕様であったため、わたしはいくつも村を作ってフルーツを大量に仕入れフルーツロンダリングに勤しんだり、とたけけという白い犬のミュージシャンから音楽を聴けるアイテムを集めるために複数のキャラクターを運用したりと、なかなか無茶な遊び方をした。
マイデザインという、洋服や壁紙などを自由に作れる機能で服を作ったり、雨の日の海でだけ釣れるシーラカンスを釣りまくったり、やることはいろいろあったけれど、どれも強制でないというのがとても嬉しかった。
それからしばらく、高校をドロップアウトしたあたりでゲームから離れてしまった。なので、DSの「おいでよ どうぶつの森」とかWiiの「街へいこうよ どうぶつの森」はプレイしていない。第1回で書いたように、思考が他人に読まれていると感じているような、正気を失いかけた人間が、落ち着いてゲームなんかできるわけがないのである。
どうぶつの森に復帰したのは、2012年の11月発売の3DSの「とびだせ どうぶつの森」からだ。そのころわたしはだいぶ健康を取り戻していて、ゲームを楽しむ余裕がかろうじてあった。
初めてプレイしたとき、グラフィックがきれいでとてもびっくりした。思わず「かがくの ちからって すげー!」と別のゲームのセリフが飛び出した。キャラクターの頭身が上がっていて、昔よりスマートになっていたし、髪型や目の色も変えられるし、眼鏡や帽子も身につけられるし、なんと靴下や靴に至るまで好みのものを選べるというのは、小野妹子が男だと知ったときと同じくらいの衝撃だった。
そのうえ、どうぶつの性格が増えて、やたらキザな男の子と姉御肌の女の子が追加されていた。ちなみにキザなハムスターのジミーというやつが将棋の佐藤天彦九段にそっくりで、それ以来佐藤天彦九段がテレビに映っていると、思わず「ジミーだ!」と言ってしまうようになった。天彦先生と天彦先生ファンの方にはスライディング土下座をしておきます。ごめんなさい。
この「とびだせ どうぶつの森」でいちばん嬉しかったのは、博物館が豪華だったことだ。どうぶつの森における博物館というのは、魚や虫、化石、美術品を展示している施設なのだが、その水族館のグラフィックが美しく、ずーっとぼーっと眺めることができた。しかし美術品は不定期にしか手に入らないうえ贋作があり、特に村人から譲られた美術品はだいたい贋作で、それを掴まされるたび3DSをぶん投げたいと思った。結局、美術品のコンプリートはできなかったが、それでも結構頑張って、化石と魚と虫はコンプリートした。
このようにのんびりと、村に変なオブジェを建てたりしながら「とびだせ どうぶつの森」をまったりと遊んでいたわたしであったが、ある日ニンテンドースイッチで新しいどうぶつの森が出るらしいぞ、という噂を聞いた。
欲しいなあ、でもスイッチ買うお金なんてないなあ……と思っていたところに、エッセイで原稿料を貰えるお仕事が転がり込んできた。なんという幸運なのだろうか。わたしは「ククク、これでどうぶつの森ができるぞ」と、どこぞの魔王のような笑みを浮かべ、「あつまれ どうぶつの森」とニンテンドースイッチライトをゲットし、無事にたぬきちの原野商法にひっかかることができたのである。
この「たぬきち」というタヌキのキャラクターは、ニンテンドー64の初代から登場しているキャラクターで、主人公にすさまじいローンを背負わせることでおなじみである。ネットでは金の亡者とか守銭奴とか言われていて、とある被害者は「最初は良心的に見えたけど、家の改築ローンだけでなくあつ森では他人の家やインフラ整備の代金までむしってくる。あいつは極悪」と語り、また別の被害者は「たぬきちは引っ越してくれば即同意なしのローンを組ませる鬼畜」と憤っていた。たぬきち=ローンというのはこのゲームが好きな人間全員が知っている事実である。
「あつまれ どうぶつの森」は、そんなたぬきちが無人島移住プランを提案し、それに参加して無人島でものづくりをする……というあらすじであるが、どこからどう考えても完全なる原野商法なのだ。このタヌキ野郎はニンテンドー64のころは商店の片手間で住宅事業をやっていた程度だったが、3DSでは本格的にアコギな不動産業を始め、さらに今回では原野商法と、どんどんタチが悪くなる。でもかわいいので許さざるを得ないし、たぬきちのローンは無利子無催促なので、やっぱりどうぶつの森は優しい世界なのである。
なおDSの「おいでよ どうぶつの森」では、そんなたぬきちの悲しい過去が明らかになったらしく、仕立て屋のハリネズミのあさみさんによると、たぬきちはかつてビッグビジネスに憧れて都会に出ていき、夢破れて帰ってきて守銭奴になったというのである。なるほど、「おいでよ どうぶつの森」は遊んでいないので知らなかった。
また、「あつまれ どうぶつの森」では家具を一から手作りするという新システムが導入された。これは正直に言って未知数すぎて、大丈夫かな、スベらないかな、と思ったが、さすが任天堂だけあって絶妙なゲームバランスに仕上げられていた。新聞を見ていたらコロナウィルスで外出自粛になった影響もあり、「あつまれ どうぶつの森」は空前の大ヒットを記録して、スイッチ本体も品薄であると書かれていた。やはり任天堂はすごい会社だ。神対応の任天堂とよく言うが、わたしも3DSの調子がおかしくなって修理に出したら、依頼していないところまで修理され、しかもその分はタダで戻ってきたという神対応を受けたことがある。
ちなみにこれを喜んでいたら、母が「きっと花札のバクチで人生狂わされたひとのために償いをしてるんだよ」と、任天堂がもともと花札や将棋盤や碁盤を作っている会社であることを推してきた。理屈は分かるがそもそもそれは花札でバクチをするほうが悪いのではなかろうか。
さて、この「あつまれ どうぶつの森」の島で実際に暮らし始めたわたしは、まずその繊細かつ美麗なグラフィックには衝撃を受けた。武田信玄が男色趣味だと知ったときみたいな衝撃である。3DSのグラフィックのはるか上を行く、なめらかで美しい映像に、ただただ感動した。雑草の一本一本に至るまで細かく描かれ、これをむしるのはためらわれた。むしらないとお話が進まないので、しょうがなくむしったのだが……。
島は自由に開拓できるだけでなく、もちろん最初に名前を付けることができるのだが、わたしは島の名前を「いびしゃ島」にした。わたしの将棋が居飛車党だからである。ふりびしゃ島のほうがゴロがいいのが悔しい。そういうわけで、島に掲げたマイデザインの旗には、わたしがデザインした「飛」の文字が描かれている。
この「マイデザイン」という機能は、服や壁紙やじゅうたんを自由に作れる機能で、ネット経由でほかの人がUPしたマイデザインをもらうこともできる。「あつまれ どうぶつの森」では着物や帽子もデザインできるようになった。ツイッターではとても凝ったマイデザインをUPしている人をよく見るし、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の衣装スタッフの人が大河ドラマの登場人物の着物をイメージしたマイデザインを毎週UPしている。わたしにはドット打ちのセンスがまるでないので、いいなあ、と見るばかりである。
ツイッターでは「あつまれ どうぶつの森」で島を住宅地みたいに整地しているのをよく見るが、わたしはこのいびしゃ島を過度に整地したいとは思わない。せっかく、川が流れ星型の池があり、アネモネがたくさん咲いているのだから、それを活かした島にしたい。昔のどうぶつの森は、そもそも村人がどこに越してくるか決めることができなかったし、住宅地にすることもできなかったので、それが染みついているのである。できるだけ島のもとの姿を損なわないように改造するつもりでいる。
ただ、欲を言えば小さいころから遺跡大好きで育ったので、島に古代遺跡を作りたいとは思っている。身近に遺跡があるなんて夢がある。古代遺跡に住んでみたいという野望をかなえられるのは、どうぶつの森の中くらいだろうと思うのだが、大湯のストーンサークルみたいなものなら庭石で作れるのではなかろうか。島の一番奥にひそかにある浜辺にも、簡単に下りられるようにしたい。
これを書いている今(2020年5月)、この世の中はコロナウィルスですべてが自粛ムードである。どうぶつの森の話を書いてみませんか、と編集者さんに提案されたとき、編集者さんが「今は集まれもしないし飛び出せもしないけど」と表現されていて、ああ、まさにいまの現実の状況は「平穏な日常」ではないな、と思った。
現実に集まれないのでどうぶつの森のなかで結婚式を挙げた、だとか、中止になったのでどうぶつの森のなかで卒業式をした、だとか、中止になったコミケをどうぶつの森で再現した、だとか、そういう話がツイッターに流れてくるたびに、この、平和でおだやかな世界が存在してくれることを嬉しく思う。
その一方で、中国ではどうぶつの森でデモをして当局の取り締まりをうけていると聞いて、発想さえあればなんでもできるんだなあ……と感心した。
仮想空間のなかで、おだやかな日常を過ごせることは、このすべてが自粛でテレビの報道やツイッターの情報にびくびくして暮らす現実のつらさをごまかしてくれるし、それ以前に人間には集まってなにかをしたいという本能がある。それを、集まれないこの世の中で可能にしたのが、この「どうぶつの森」というのんびりしたタイトルのゲームなのである。
ちなみに、現状わたしと「あつまれ どうぶつの森」で集まれる友達はいない。そもそも友達がいないのでニンテンドースイッチオンラインに加入していない。なのでドット打ちの上手い人のデザインしたマイデザインも手に入らない。それでも一人でのんびり、開拓を楽しもうと思う。いや、それぜんぜん「あつまれ どうぶつの森」じゃないじゃん……。
Profile/金澤流都(かねざわるつ)
平成ヒトケタ生まれ。統合失調症を拾い高校を中退。その後ほんのちょっとアルバイトをしただけで、いまはライトノベル新人賞への投稿をしながら無職の暮らしをしている。両親と猫と暮らしている。
前連載『アラサー女が将棋はじめてみた』
Twitter:https://twitter.com/Ruth_Kanezawa