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アラサー女が将棋始めてみた 第10回

第10回 強くなりたい願望

 今回は将棋の勉強法について書いてみようと思う。

 わたしも、「強くなりたい欲」が湧くわけだから、勉強をしようといろいろなことを試す。「ひふみんの将棋入門」を読んで母に勝てるようになったということは、勉強は裏切らないということだからだ。

 いちばんいい勉強法は詰将棋だ。ときどき公民館で詰将棋の本を貸してもらい、それを次にいくまでじっくり読んだりするし、自分で買った詰将棋の本も持っている。五手詰めをぎりぎり解ける程度だが、それでもなかなか上達したと思っている。

 おじさんたち曰く、「詰将棋が分からないときはうんうん考えるより、ささっと答えを見て詰みの形を覚えるほうがいいよ」とのことであった。

 公民館にやってくるおじさんの中には、「詰将棋過激派」のおじさんがいて、借りた詰将棋の本を返すときに「面白かったです」と一言添えると、「だべ? 詰将棋最高だべ?」とすごく喜んでくださる。最高というのはよくわからないが、詰将棋はわたしも好きだ。

 スマホのアプリと指してみることもよくある。

 ぴよ将棋』というアプリが最強である。無料なのに、なんと棋譜、つまりどんな順番でどんな手を指したかの解析や保存もできるし、コンピュータの強さを調節することもできる。駒落ちも当然指せて、とてもありがたい。元将棋ガチ勢だというツイッターのフォロワーさんから棋譜を送ってもらったこともある。

 たまに平手のリハビリをしたいときはねこ将棋というアプリを使う。コンピュータは弱く、こちらの指し手は二択ないし三択の選択制になっており、そのうちのどれかが最善手なのだ。これも後から棋譜の確認ができる。

 将皇入門編』というアプリは、本当に基礎の基礎から教えてくれるアプリで、初めて指すならこれが一番お勧めかもしれない。駒の動きから始まり千問以上の詰将棋が収録されていて、これも無料である。

それから、いわゆる棋書も買った。『駒落ちの教科書』(阿久津 主税 著/マイナビ)という本で、駒落ちの定跡についての本なのであるが、ちょっと難しくてあまり読めていない。どうも棋書というのは、入門書でないものはある程度分かることが前提で書かれているように感じる。

 それから手筋の本も二冊買った。一冊は手筋の解説書で、もう一冊は次の一手スタイルで手筋を学べるものである。解説書のほうはすこし難解だが、次の一手のほうはなるほどと考えながら勉強できてとても楽しい。

 次の一手の本、というのは手筋の本以外にプロの対局について書かれたものもあって、おじさんたちが言うには「次の一手の本は特殊な局面についてのものが多くて、初心者にはなんでこの手なのか分からないことが多いから、初心者には勧めない」とのことだった。

 毎週NHKの『将棋フォーカス』も欠かさず見ている。

 去年の講座の、『エンジョイ将棋』というのが初心者向けでとてもありがたく見ていた。講師のプロ棋士の佐藤紳哉先生が変な動きで始めるので聞き手の女流棋士が困っている様子がおかしくて好きだった。またああいう初心者向けの講座をやってくれないかなあ、とよく思う。ふだんの講座をみて理解できればアマ初段、という話を聞いたが、それだとアマ初段はだいぶ遠そうだ。

 それからおじさんたちに「NHK杯戦を観るのがいちばんの勉強法」とも言われていて、最近観るようになった。NHK杯戦はすごい棋士の先生が続々出てきてとても面白い。ただちょっと番組の尺が長いのがつらい。

 日曜の夜にアベマTVでやっていたアベマ将棋トーナメントは、超早指しで面白かったが早すぎて解説が詳しくなく、面白いだけで終わってしまった。

 なんというか、将棋の勉強というのは、「この場合こうする」というものが基本で、一つずつ覚えていくほかないのだなあ、と思いながら勉強している。数学の公式を覚えるのに似ているけれど、数学の公式と違って覚えるのは楽しい。小中と算数や数学の成績は壊滅していたが、将棋において「この場合こうする」ということを学ぶのは楽しいのだ。不思議である。

 でもなんだかんだ、いちばん勉強になるのは実際にひとを相手にして指すことだ。

 実際に指して、こういう局面ではこういう手がある、ということを解説してもらうことだ。おじさんたちは基本的にみな教えたがりである。しかし中にはちょっと意地悪なことを言う「皮肉屋のおじさん」というのもいる。

 皮肉屋のおじさんは当然ながら皮肉な物言いをする。

 わたしと青年が指しているのを見て、「次の一手で決まりだな」とか、そういうことを“ほいっ”と言う(もちろん次の一手で決まりなんかではない)し、お医者様と指しているとき、わたしが飛車を取られたのを見て「飛車取られちゃったの。一番大事なのに」と言われたこともある。そんなこと指しているこっちが嫌というほどわかっている。

 皮肉屋のおじさんは賢いから皮肉を言うのだろうけれど、それが結構辛辣でグサグサくるのだ。

 でも、この皮肉屋のおじさんが私のことを

「強いよー熱心に来てらもの」

 と人に紹介したときはうれしかった。

 実は第6回で書いた「久々に道場に来たおじさんにわたしの棋力を説明した」というのが、この皮肉屋のおじさんなのだ。

 もちろん真面目に通ってもなかなか強くならないことを思うと、相当な皮肉なのかもしれないけれど、言葉面だけをとらえれば、ちゃんと毎週真面目に通っていることを評価してくれたとも思うので、単純にうれしかった。

 皮肉屋のおじさんの言動で笑ってしまったのは、わたしが青年と指しながらどこかに金を打つ手がある、と説明されて、金の駒を握ったまま考えていると、

「重くない? それ金でしょ? 重くない?」

 と言ってきたことである。そこから唐突に青年と、

「金の延べ棒持ったことある?」

「あーこないだ仕事で行った先で持たせてもらいました。あれ重いっすね」

 と話し出して、次の手を考えるより金の延べ棒の話が面白くなってしまったことである。

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 そのとき対局していた「青年」というのもたいがい変わった若者で、いかにも将棋が好きそうな眼鏡の青年なのだが、言うことがいちいち老けている。そして指導も非常に的確である。恐ろしく若いのにアマ四段の腕前なのである。

「はい、じゃあ三手で竜を捕まえに行きましょう」

 と唐突に問題を出してくるし、青年が別のおじさんと指しているのを脇からみていると、

「退屈じゃないですか。はい三手詰め」

 と、盤の上に即興で詰将棋を出してきたりする。

 この青年というひとは、市民将棋大会とか、支部大会とか、そういうので八面六臂の大活躍をしていて、とてもかっこいい。そして、アラサーのミーハー女よりはるかに若い。たぶん十個近く若い。

 わ、若すぎてまぶしい……! と思ってしまう。わたしが二十代なりたてくらいのころ、従兄のお嫁さんのお披露目パーティで従兄のお嫁さんに「わかぁい……!」と言われたのを思い出す。あのときは自分が「わかぁい……!」と思う立場になるなんて思いもしなかった。

 若くていいなあ、とアラサーのミーハー女は思うのである。

 自動車学校に通っているとか、就職したら忙しくて痩せてしまったとか、いかにも命を燃やして生きている感じがして、とてもうらやましい。わたしもこれくらいのころに、こうやってのめり込める趣味があったら、もっと元気に暮らしていたのではないかと思ってしまう。

 さて、皮肉屋のおじさんはしばらく親戚の不幸ごとでいらっしゃらなかったが、最近また来るようになった。青年はだいたい毎回いるのだが、最近通い始めて熱心に勉強している高校生くらいの男の子にかかりきりだ。ちょっと残念である。第2回で書いた「七手詰め事件」の相手も青年だったし、青年の指導は行き届いていてわかりやすいのだ。

 若い人と話すのは刺激的で楽しい。三十を前にして、ろくな刺激のなくなってしまった人生を生きている今のわたしよりずっと刺激をうけて暮らしているだろうからだ。

 皮肉屋のおじさんから見たらわたしも若いわけだから、わたしをイジるのも面白いのかもしれない。

 話題がそれてしまったが、皮肉屋のおじさんにせよ青年にせよ、教えたがりであることに変わりはなく、いろいろなことを教えてくれる。六枚落ちで皮肉屋のおじさんにハメ手をつかわれて、香車をとられ飛車が捕まって、それが原因で負けてしまったとき、「敗因は香車を取られちゃったことだよ!」と教えてくださった。

 青年は、わたしがおかしい手を指すと、「それはよくないからいったん戻って」と戻してくれる。そして、いろいろとヒントを出してくれる。

 そしてなにより、はたから対局を見ているおじさんたちが、いちばんおもしろがっている。

 これが麻雀の場合、玄人は素人に教えることはあまりしないらしいので、教えたがりのおじさんというのは将棋特有なのかもしれない。そこは分からないが、教えてもらうのはいちばんの勉強法だと思う。自分ひとりと将棋の本だけではわからないことも教えてもらえるからだ。

 強くなりたい欲には終わりがない。覚えることがたくさんある。そして教えてくれるひとがいる。なんて素敵なことだろうか。

イラスト:真藤ハル

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Profile/金澤流都(かねざわるつ)
平成ヒトケタ生まれ。統合失調症を拾い高校を中退。その後ほんのちょっとアルバイトをしただけで、いまはライトノベル新人賞への投稿をしながら無職の暮らしをしている。両親と猫と暮らしている。
Twitter https://twitter.com/Ruth_Kanezawa

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